宮沢洋一(みやざわ・よういち)/自由民主党税制調査会会長、参議院議員。1950年生まれ。1974年東京大学法学部卒業後、大蔵省(現財務省)入省。2000年衆議院議員当選。2010年参議院議員に当選(広島選挙区)、現在3期目。2014〜15年経済産業相。2015〜19年自民党税制調査会会長を歴任。2021年再び税調会長に就任。(撮影:尾形文繁)

2024年から相続や登記・空き家のルールが激変。1月からは「生前贈与制度」が変更、4月には「相続登記の申請義務化」が始まる。そしてマンション相続税評価額の新算定ルールも導入予定だ。『週刊東洋経済』の8月7日(月)発売号(8月12・19合併号)では、「相続・登記・空き家 2024年問題」を特集。そうした相続関連の2024年問題とその対応策を解説していく。今後税制はどう変わっていくのか、誌面の中から、自民党税制調査会会長の宮沢洋一参議院議員のインタビューを配信する。


相続税や贈与税の新ルール導入や変更を控え、税制への関心が高まっている。では、今後税制はどう変わっていくのか。自民党税制調査会会長の宮沢洋一参議院議員に、その方向性を聞いた。

──防衛費拡充の財源確保に向けた増税の実施を2025年以降に先送りすることを決めました。(景気好転などによる)税収増が影響しているのでしょうか。

政府の2022年度決算で税収が想定を上回ったことと、今回の防衛費のための財源問題は、直接には関係していない。見込みに対して実際の税収が増えれば、翌年度の剰余金が増えるという話であって、税収が増えた分が防衛費の財源になるということではない。

フレームワークの残り5%を整える

税収は右肩上がりに増え続けるものではなく、経済情勢によって増減する。一方、防衛のための歳出はずっと続いていく。法人、所得、たばこの3税で2027年度に1兆円強を確保する防衛財源のフレームワークは95%決まっているが、残り5%に関しては、これからスケジュールに沿ってきちんと整えていく。

法人税の改正を2024年4月から適用するには、秋に臨時国会を開いて法を成立させないといけない。しかしこれから党内で議論をして法案を出すには間に合わない。解散観測もあり、夏に税調を開ける状況でもなかった。

──2024年から、生前贈与の加算期間が3年から7年に延長されるとともに、相続時精算課税に110万円の非課税枠が新設されます。改めてその経緯を教えてください。

高齢化が進む中で、世代間の財産の移転を促していきたいということが根底にある。

今までの制度では、何十億円もの資産を持つ超資産家にとっては低い税率で贈与ができる反面、一般の人は、贈与税よりは相続税で払ったほうが税金としての負担が少なくなるという問題があった。それを解決するために、相続時精算制度を作ったが、暦年課税の非課税枠110万円があり、なかなか使われなかった。そこで、相続時精算制度に年110万円の非課税枠を新設して使いやすくした。

もう1つ、贈与が節税的に使われていることへの対策として、生前贈与の加算期間を7年に延長した。これによって、資産家が早めに贈与をして相続税を減らすということを若干しにくくした。

節税の道具にされることを防ぐ

──節税対策という点では、国税庁がマンションの相続税評価額の算定ルールを見直す方針を打ち出しました。

タワーマンションを中心に、新築マンション価格はたいへん高額になっていて、バブル的要素も加わっている。中古マンションも値段が上がっており、買った値段よりも高く売れる例も出てきた。そうした中、実勢価格よりもそうとう低い値段で評価され、相続税の節税の道具にされることは、防いでいかなければならない。

──2024年度の税制改正大綱では、何が議論の焦点になりそうですか。

2023年度の改正に比べれば、そんなに大きなものがあるわけではない。そういう中で、間違いなく議論しなければいけないのが、法人税関係。GX(グリーントランスフォーメーション=カーボンニュートラルと経済成長の両立を目指す取り組み)や、人への投資を促進するためには、どのような方法があるのか。米国では、GX向けなどかなり大胆な税制改正を決めている。

ある程度参考にしながら、日本の成長を支えるような税制を議論する。さらに、賃上げ促進税制(従業員の給与支給額を前年度より一定以上アップさせた企業や個人事業主を対象に、一定の税額控除を行う制度)についても、来年3月が期限なので、どういう形で引き継ぎ、拡大していくのかの議論が大きな仕事になると思う。

──今年の「骨太の方針」で、退職所得控除の見直しを盛り込みました。狙いは何でしょうか。

税調では以前から問題意識を持っているテーマだ。「1つの会社に定年まで勤め上げる」という労働慣行が変化してきている中で、勤続20年を境目に、それを超えれば1年当たりの控除額が増える今の制度を、どう現状に合わせていくか。早めに転職した人が不利で、ずっと会社に残った人が有利でいいのかどうか、議論しなければならない。もちろん1つの会社に勤め続けることは悪いことではない。バランスを考えながら新しい制度を組み立てなければならない。

問題は、退職金課税には私的年金課税の問題が絡んでいることだ。会社を辞めるときに、私的年金の分も退職金としてもらう人のほうが圧倒的に多い。退職金の一部を年金的に毎年もらえば年金控除になるのに、退職所得控除のみで年金所得控除を活用していない。

年金については2024年が財政検証の年になる。さまざまな年金制度改正を決めていかなければならないと思うので、本来であれば、退職金と年金を一緒に議論したほうがいいだろう。

一本化は「将来的にあるかもしれない」

──相続税と贈与税のさらなる見直しはあるのでしょうか? また両税を一本化する可能性はありますか。

生前贈与の加算期間は、制度を走らせてそれなりに時間が経ってから議論することはありえるが、先の話だ。そのときに税率を見直すという可能性はある。一本化に関しては「将来的にあるかもしれない」くらいしか言えない。

相続税を払っているのは、国民の約9%にすぎず、今回の制度変更で税負担が増えるのは富裕層に限られる。株式や不動産などの譲渡所得が中心で、年間所得10億円を超える納税者に2025年から追加課税措置「ミニマムタックス」が適用される。一部では、スタートアップのインセンティブを阻害してしまうのではないかという声も聞くが、この制度の対象は200人ほどの超富裕層に限られ、国民全体の「貯蓄から投資へ」という流れを阻害することはない。むしろ2024年からのNISA(少額投資非課税制度)拡充などで投資への流れを後押ししていく。

決定した新ルールや変更ルールを走らせ、それで問題点が見えてきたら議論をしていくことが大事。2〜3年という短期間でなく、その先を見据えて税制というものを考えていかなくてはいけない。

(聞き手 加藤光彦、宇都宮 徹)


(加藤 光彦 : ライター)
(宇都宮 徹 : 東洋経済 記者)