メガバンクや地銀とは一線を画すあおぞら銀行。ストラクチャードファイナンスや不動産など、特殊な案件を強みとする(撮影:尾形文繁)

メガバンクでも地方銀行でもない、独自路線を突き進むあおぞら銀行。2001年に日本債券信用銀行から社名を変え、成熟企業の再生や不動産、企業買収の際などに用いられるLBO(レバレッジドバイアウト)ローンなど、特殊な融資に強みを持つ。

折しも、2023年3月期決算は海外の金利上昇に伴う外債の実現損や北米の不動産向け融資の与信費用がかさみ、純利益は前期比75%減の87億円に落ち込んだ。5月に発表した中期経営計画では、得意のストラクチャードファイナンスの推進や有価証券ポートフォリオの再構築などで巻き返しを図る。国内外の金利が上昇する中、経営のかじ取りについて谷川啓社長に聞いた。

長期金利の上昇はプラス

――日本銀行による金融政策の修正によって、長期金利が上昇しています。あおぞら銀行のビジネスに対する影響は。

国債を運用先の1つに位置づけられるためプラスだ。(長期金利が)0.6〜1%のどの位置まで動くかはわからないが、1%に近づけば、有価証券のポートフォリオに国債を組み入れられるだろう。

運用残高に対する円債の割合はもともと少なかったが、円金利リスクを考えて前期に残高をいっそう落とした。あとはいつ買うかだが、0.6%台では買いにいく投資家があまりいない印象だ。短期金利が動けば貸し出しなどの資金利益も動き始めるが、そうなるのはもう少し先だろう。

――アメリカの金利も、昨年に引き続き上昇しています。あおぞら銀行は外債関連で前期に50億円の実現損を計上しました。

前期はドル金利の急激かつ大幅な上昇にうまく対応できず、損失を抱えてしまった。トップマネジメントとしての責任を感じている。その背景もあり、今は(ヘッジ取引によって)金利が上下しても影響が出ないポートフォリオを組んでいる。ここからどう動くかの見通しは難しいが、10年国債の金利は3.5〜4.5%のレンジで動くのではないか。

外債のデュレーション(平均残存期間)は4〜6年程度で、満期償還を通じて残高を減らしていくのが基本路線だ。ただ、決算を見つつ一部は前倒しでの売却も進める。ドル金利は足元では逆イールドだが、来年になれば投資の機会が出てくると思う。

――金利動向は、あおぞら銀行が融資に注力する不動産市場にも影響を及ぼします。

物件の用途によってさまざまだが、レジ(住宅)は価格が高くなりすぎている気がする。地方都市で億ションが登場している状態も、正常かどうかの判断が難しい。調整局面が訪れたほうが、長期的にはいいのかもしれない。これからポイントになるのはオフィスだ。大規模な開発案件が多いうえ、オフィス回帰がどの程度進むかを見極める必要がある。

日本の不動産は価格が下がっていないので、足元では資金が大規模に動いている印象は受けない。ただ、金利に先高観があり空室率も高止まりすると、キャッシュフローの前提が変わり価格が調整される。そうなれば、投資家も動きやすくなるだろう。

北米のオフィス市況は見極めが困難

――北米地域の不動産は、急激な金利上昇によって流動性を喪失しました。あおぞら銀行の不動産向け融資の現況は。

レジとホテルは一時期価格が2〜3割ほど下がったが、今は流動性が戻りファイナンスもついている。難しいのはオフィスだ。現在の価格がどこにあるのかの見極めが難しい。隣のオフィスはよくて、こちらがダメという状況が普通にある。特にサンフランシスコなどの西海岸は価格上昇が急激だった分、谷も深い。オフィスビルをレジに改修する動きさえある。一方、価格が下がれば買いたいという投資家は多く、今年は売り手と買い手の目線を調整する1年になるだろう。

アメリカのオフィス向けノンリコースローン残高は、(2023年6月末時点で)18.5億ドル。このうち何らかの対処が必要なものは1割で、残りの8〜9割の債権にはまったく問題がない。LTV(ローン・トゥ・バリュー。不動産の評価額に占める借入金の割合)は6割程度に抑えている。担保物件が半値にでもならない限り、債権が毀損されることはない。

――成熟期や衰退期の企業再生もあおぞら銀行の特徴です。足元では企業の倒産件数が増加していますが、再生需要は増えそうですか。

企業再生は地域金融機関と協力して進めているが、地域によってバラつきがある。九州地方は半導体投資や不動産開発が好調だが、人口減少が進んでいたり、地場産業の浮沈の影響を受けたりする地域はそうではない。再生の打診自体は増えているが、実際に案件として取り上げるに至るのは、来年か再来年だろう。

――エクイティ投資やLBOなど、あおぞら銀行が得意とする分野に地銀が続々と参入しています。

地銀の投資対象は地元企業で、ファンドやお金があってもさまざまな事情があって投資できない場合もある。われわれは地元のしがらみがなく、取引先の状況を客観的に評価できる。地銀とは競合というより協力関係だ。

LBOは2000年から取り組んでおり、メガバンクに次ぐ、あるいはそれに並ぶ主要プレーヤーだ。近年はバイアウトという考え方が普及し、中小企業であってもバイアウトを検討している。われわれは投資ファンドとの関係を相当構築しており、相談を持ちかけられる案件も増えている。地銀が進出してくることは、マーケットが拡大していく意味では望ましい。

「メガを上回る」初任給に

――中計では、向こう3年間で人件費を約20億円増やすと掲げました。

新卒には初任給、中途採用にはスペシャリストに対する高い処遇を提示するためだ。特に初任給は、2024年に入行する新卒から26万5000円に設定する。われわれを選んでもらうべく、これまでもメガバンクと同等ないし少し上に設定してきた。人事評価制度も変えたことで、ベースアップも含めれば年間4%の賃上げになるだろう。


谷川 啓(たにかわ けい)/1962年生まれ。1985年早稲田大学卒業、日本債券信用銀行(現あおぞら銀行)入行。2012年執行役員ビジネスバンキング本部長、2014年常務執行役員金融法人・地域法人営業本部長、2018年代表取締役副社長執行役員などを経て、2020年6月から現職(撮影:梅谷秀司)

――東京証券取引所から、資本コストを意識した経営を要請されています。あおぞら銀行のPBR(株価純資産倍率)は0.7倍台。1倍への道筋は。

PBRは以前から意識をしている。積極的な株主還元が奏功し、1倍を超えていた時期もかなりあったが、(PBRが1倍を割っている)ここ数年の状況は株主の期待に十分応えられていない。PBR1倍を達成するために、ROE10%を目標に据えている。まず2025年度に8%を達成し、次の中計で10%を目指す。

1957年に(あおぞら銀行の前身である)日本不動産銀行が設立された当初は、中堅・中小企業への資金供給が目的だった。その時々に必要な機能を追いかける姿勢は変わっていない。他社がやらないような新しいことに取り組み、リスクテイクをして目標に近づけていきたい。

(一井 純 : 東洋経済 記者)