8月5日、東京都千代田区にある日本風力開発の塚脇正幸社長宅の家宅捜索に入り、段ボールを運び出す東京地検の係官ら(写真:時事)

再生可能エネルギーの主力電源化の「切り札」とされる洋上風力発電。不透明な資金提供を巡る疑惑はどこまで広がるのか。

各社の報道によると、自由民主党で再エネ政策を推進してきた秋本真利衆議院議員(8月5日に離党)に対し、再エネ事業を手がける日本風力開発の塚脇正幸社長から約3000万円が渡ったとされる。塚脇氏の代理人弁護士は、秋本議員と共同で運営する馬主組合の運営費であって賄賂ではないと説明しているという。

三井物産出身の塚脇氏が創業

日本風力開発は、三井物産出身の塚脇氏が1999年に創業した独立系再エネ企業。風力発電の開発から運営までを一貫して手がけてきた。開発した発電所は2023年4月までに293基、設備容量ベースで約57万kWにも及ぶ。陸上風力が中心だが、近年は急速に普及が進みつつある洋上風力への事業参画に意欲を見せてきた。

だが、秋本議員への不透明な資金提供の疑いが持ち上がり、8月5日、日本風力開発本社などへ東京地検特捜部による捜索差押が実施された。会社側は、「このような事態に至りましたことは誠に遺憾であり、関係者の皆様に多大なるご迷惑とご心配をお掛けしておりますことを、深くお詫び申し上げます」とコメントしている。

今後の最大の焦点は、提供された資金の賄賂性の有無だ。そして、秋本議員と日本風力開発とのつながりが洋上風力の公募入札を巡るルール変更にどこまで影響を及ぼしたのかだ。

国が洋上風力発電の事業者を公募する初の大型案件となった秋田県と千葉県沖の3海域入札(第1ラウンド)。2021年12月に落札結果が公表され、圧倒的に安い売電価格を提示した三菱商事などの企業連合が「総取り」をしたことが業界に衝撃をもたらした。

この衝撃的な結果を当初、政府は「思ったよりも価格低減が進んだ」(経済産業省関係者)と肯定的に受け止めた。一方で、いち早く国内の洋上風力に乗り出そうと、地域で風況調査などを行っていた日本風力開発やレノバなどにとって敗退のショックは大きかった。

「入札ルール自体を見直すべきだ」


日本風力開発の塚脇正幸社長(写真は2008年、撮影:今井康一)

この直後から業界内では「三菱商事は赤字覚悟の応札をした。洋上風力の赤字を他の資源事業から補填するつもりだ」との風聞が飛び交った。そして、「入札ルール自体を見直すべきだ」との論が大きくなっていった。

その渦中にあった、2022年2月17日の衆院予算委員会。秋本議員は「2回目の公募(第2ラウンド)から評価の仕方を見直していただきたい」などと萩生田光一経産相(当時)に繰り返し質問。「事務方に『どうだ』と言ったら、『できません』と言うんだと思うので私はやはりここは政治判断なんだろうと思う」(秋本議員)と迫った。

それから1カ月後の3月18日には、すでに始まっていた秋田県八峰町・能代市沖の公募入札手続きの延期と評価基準を見直すことが突如発表されるという異例の事態に発展した。

その後、10月になって公募ルールの見直しがようやく固まることになる。各社報道によれば、この直後に約1000万円の現金が日本風力開発側から秋本議員へ受け渡されたとされている。

評価基準の見直しは、特定の事業者に有利に働く形に歪められたのではないか。ポイントの1つになりそうなのが、業界団体である日本風力発電協会(JWPA)がどのように入札ルール変更の議論に対応してきたかだ。

500社を超える会員企業が入会するJWPAはこれまで洋上風力の普及拡大に向けて政策提言などを行ってきた。この協会で「公平な運営がなされているのか」。会員企業のそんな疑念の声を呼ぶ象徴的な事件が2022年5月30日に起きた。この日に開催された洋上風力に関する経産省と国土交通省による審議会では、検討中の評価方法の見直しについて事業者8社とJWPAを呼んでヒアリングを行った。

当時、焦点の1つとなったのが「落札制限」だ。これは複数海域の公募入札が行われる際、あらかじめ決められた規模を超えて同じ事業者が落札できないようにするためのもの。

業界内では、三菱商事連合による「総取り」を受けた対策の筆頭だったとみられているが、最も評価の高い提案を行った企業に事業を任せるのが競争入札の原則だ。入札結果を見て、案件を取りすぎているから他社に回すというような事後調整的な発想はもともとなじまない。審議会の有識者の中には「公正な競争自体を歪める可能性がある」と懸念を表明する者もいた。


物議を呼んだ協会の「賛同意見」

こうした中で行われたヒアリングだったが、事業者の意見は割れた。落札制限に対して、JERAや九州電力子会社の九電みらいエナジー、三菱商事が反対に回った一方、日本風力開発、大林組などは賛成した。条件付きで容認、賛成するという事業者もいた。

物議を呼んだのが、この場で業界団体であるJWPAが「(落札制限については)われわれ協会としては賛同」(祓川(はらいかわ)清副代表理事)と表明したことだった。会員企業には、反対を表明したJERAや九電みらいエナジー、三菱商事も含まれている。JWPAはなぜ、会員企業の間で意見が二分する問題について、賛同意見を表明したのだろうか。

JWPAは、2022年7月8日に臨時政策部会を開催。業界関係者によると5月30日に審議会で表明した意見について、「適切な集約の仕方だったのか」と複数の会員企業から疑問の声がJWPAに寄せられたという。これに対し、JWPA側は全会員に意見を聞く時間がなかったことから代表、副代表、幹部の意見をとりまとめたと説明した。

JWPAの代表理事は、日本風力開発副会長の加藤仁氏だ。4人いる副代表理事は、ENEOSホールディングス傘下のジャパン・リニューアブル・エナジーや豊田通商傘下のユーラスエナジーホールディングス、MHIべスタスジャパンの経営幹部、そして日本風力開発グループのイオスエンジニアリング&サービスの最高顧問である祓川清氏が務めている。代表理事、副代表理事の要職を占める「日本風力開発の色はもともと強い」(会員企業)との声も上がる。

東洋経済はJWPAに対して、「臨時政策部会で出た会員企業からの反対の声」や「日本風力開発の塚脇社長から秋本議員への資金提供に関する認識」などについて質問したが「回答を差し控える」(JWPA)との返事だった。JWPAは「内外に影響力を行使できる機能・能力を持つとともに、説明責任を果たし、コンプライアンスを維持する」との基本理念を掲げている。

秋本議員「何が悪いのか」とメディアに反論

洋上風力の公募入札を巡っては、かねて異例の「評価基準見直し」が特定の事業者や政治家の働きかけによるものでは、という指摘が根強くあった。


2022年6月、洋上風力に関する提言書を萩生田光一経産相(左)に手渡しした、自民党・再エネ議連の柴山昌彦会長(中央)、秋本真利事務局長(右)。肩書は当時(記者撮影)

2022年6月、秋本議員は自身が事務局長を務めていた自民党の再生可能エネルギー普及拡大議員連盟(再エネ議連)のメディア懇談会の場で、「特定の事業者に有利になるのではないかと批判する記事があったが、それの何が悪いのか。環境アセスメントが済んでいて早く運転開始することに国民にとって何のデメリットがあるのか」と反論していた。

再エネ議連の柴山昌彦会長は同じ場で「われわれ議連があたかも利権にとらわれて制度の公平を歪めようとしているんじゃないかという発信がある」としつつ、「ただ、再エネにもしわれわれが一歩、減速してしまうということがあったら、それこそ日本のこれからのエネルギーというのは大変な危機に見舞われるということは間違いありません」と語っていた。

秋本議員と日本風力開発を巡る贈収賄の疑惑を受けて、柴山会長の懸念は現実のものとなりつつある。洋上風力の公募入札が政治介入によって歪められたのではないかとの不信感は高まるばかりだ。

業界団体や再エネ議連を含め、一連の関係者が何も説明責任を果たそうとしないなら、日本の再エネ政策の前途が危うくなるのは間違いない。

(大塚 隆史 : 東洋経済 記者)
(秦 卓弥 : 東洋経済 記者)