ダイドードリンコとアサヒ飲料の自動販売機。今後アサヒ飲料の自販機にもダイドーのオペレーション技術が活用されていく見通しだ(記者撮影)

「これまでの作業、ようやっとったなあ」

ダイドードリンコ(以下、ダイドー)傘下、ダイドービバレッジサービスなにわ営業所の北井友樹所長は、以前までの仕事の大変さを思い出し、こう漏らした。ダイドーのオペレーション技術「スマート・オペレーション」が、自動販売機の現場に変化をもたらしている。

これまで自販機の売り上げ状況は、製品を補充するルート担当者が現場へ行くまで分からなかった。そのため、担当者は経験と勘をもとに、どの自販機にどの製品を何本補充すべきかを予想し、その分をトラックに積んで担当の自販機を回っていた。

しかし、担当者の勘が当たらなければ、せっかく積んだ製品を持って帰ったり、製品が足りなかったりする事態が生じる。さらに、新人が仕事に慣れるまでに時間がかかるなど、現場に重い負荷がかかっていた。

「オンライン化」と「分業化」を進める

非効率な業務に加え、中長期的な労働力不足の課題も抱えていたダイドーは、2019年から約60億円を投じ、オペレーション改革を開始。改革の特徴は、「オンライン化」と「分業化」だ。

自販機本体に通信機器を取り付け、売り上げをリアルタイムで把握できる仕組みを導入した。また、これまでは販売計画から現地での清掃作業まで、1人の担当者がすべて行う体制だったが、一連の業務を分業化。通信機器から情報を得て補充に必要な数量を把握・指示する「コントローラー」、補充する製品の必要量を在庫から取り出してトラックへ積み込む準備(ピッキング)をする「ストックキーパー」、トラックへ製品を積み込み、担当自販機を回って補充する「ルート担当者」に分けられた。


ダイドービバレッジサービスなにわ営業所の作業場。上部のモニターにはブロックごとの作業の進捗や遅れ時間などが掲示され、作業内容が見える化されている(記者撮影)

昨年5月には全営業所へ「スマート・オペレーション」の導入が完了。「以前までは担当者1人で1日15〜20カ所の自販機を回るのが限界だったけど、今は20〜25カ所回れるようになった」(北井所長)。

さらに7月21日からは、複数の営業所で人工知能(AI)の活用も始めた。ダイドーの営業所では通常、朝から自販機の補充に向かうため、前日のうちにピッキングと製品の積み込みを行う。つまり、積み込みから翌日の補充作業まで一晩の時間が空くため、その間にどの製品が何本売れるかを予測しなければならない。

AIはこの時差も考慮し、翌日に自販機まで運ぶべき本数を予測する。また、過去の販売データから、この製品を別の製品に代えた方が良いのではないか、などと具体的な製品名とともに提案してくれる場合もある。

ダイドーは「スマート・オペレーション」を通じて、オペレーション担当者1人あたりの売上高を2026年度までに2021年度比で20%向上させることを目標にする。ダイドーの中島孝徳社長は、「数年前まで自販機ビジネスはロケーションを取る力がすべてだったが、今はしっかりとオペレーションを遂行する力がないと持続的成長は難しい」と、改革の意義を語る。


AIの予測データを確認するダイドービバレッジサービスの社員。自販機ごとにより正確な予測が可能になった(記者撮影)

ダイドーのオペレーション力に注目したのは、アサヒ飲料だ。ダイドーとアサヒ飲料は、今年1月に合同会社ダイナミックベンディングネットワークを設立。これにより、両社の直販自販機約20万台(ダイドー約13万台、アサヒ飲料約7万台)を新会社で一体的に運営し、ダイドーのオペレーションシステムを横展開していく計画だ。

アサヒ飲料は「ダイドーのシステム活用は、オペレーションの効率化を進めるうえではマスト」(アサヒグループ広報)と、ダイドーのノウハウに期待を寄せる。新会社では、ダイドー側のシステムに合わせる方向で、オペレーション業務や販売データの統合を着々と進めている。

ダイドーの自販機稼働台数は約25万台と業界4位(稼働台数は22年、飲料総研調べ)。同3位のアサヒ飲料がそのシステムに相乗りするかたちだ。ダイドーは規模では劣るものの、自販機での販売割合が8割超と業界内で突出している。今後もアサヒ飲料のように、ダイドーの運営に相乗りしようとする動きが続く可能性もある。

市場縮小が続く自販機チャネル

実は、飲料用自販機市場は縮小の一途をたどっている。

直近20年間の飲料全体の売り上げ総数を見ると、新型コロナ前までは増加基調で推移してきた。他方、売り上げ総数のうち自販機で購入された飲み物の割合(自販機販売比率)は低下し続けている。自販機の稼働台数は2013年、2014年の247万台をピークに8年連続で減少し、2022年には215万台となった。


人流の回復や今夏の猛暑などの追い風はあるが、ダイドーによれば、コンビニをはじめとする競合の店舗拡大もあり、「今後も市場規模の拡大は見通せない」という。同社がオペレーション改革を急ぐのは、こうした市場環境への認識が背景にある。

他方、定価販売が原則となる自販機は、メーカーにとって魅力的な販路であることに変わりはない。「これまで自販機で買っていた人が、今はスーパーなどで買うようになっている。自販機にもう一度戻ってきてもらうきっかけが必要だ」(ダイドーの中島社長)。

消費者に自社の自販機を選んでもらうための「きっかけ」づくりとして、各社が焦点を当てるのは、「高付加価値」自販機の開発だ。

全国に約76万台の自販機を有し、稼働台数業界トップの日本コカ・コーラ。同社は「Coke ON(コークオン)」アプリを通じて、ミッションの達成などによってスタンプを付与、一定数貯まれば自販機の飲み物を1本無料にするなどのメリットを提供する。

このアプリは今年6月末時点で4700万ダウンロードを記録。消費者にスタンプを集める楽しさを提供すると同時に、購買データをプロモーションの設計や製品開発に生かす。同社によれば、自販機の設置先や時期による差異はあるものの、「Coke ON対応により、非対応自販機と比べてセールスが伸びる効果が確認されている」(同社広報)という。

また、キャッシュレス決済をいち早く導入してきたコカ・コーラ ボトラーズ・ジャパン・ホールディングスは、15種類以上のQRコード決済が可能となるサービス「QR de決済」を今年6月に開始。日本への訪問者数が多い東アジア圏におけるQRコード決済使用率の高さや、日本における同決済の普及に着目し、高まるインバウンド需要やコロナ後の人流回復に対応する。

サントリーは職場に設置する自販機を強化

職場に設置する自販機を強化するのが、自販機稼働台数約37万台と業界2位のサントリー食品インターナショナルだ。

導入企業の社員が2人で社員証をかざすと、それぞれが無料で飲み物を購入できる「社長のおごり」自販機や、自販機の横に軽食を販売する棚を置き、軽食と飲み物を自販機で同時に購入できる「ボスマート」など、自販機を通じて導入企業へコミュニケーションの場やコンビニのような機能を提供する。

在宅勤務の定着などにより、法人向け自販機の売り上げの回復は鈍い。それでもサントリーが法人向けに着目するのは、街の自販機に比べ、オフィスでは同じ人が同じ自販機を使う頻度が高く、購買者のニーズを把握しやすいからだ。加えて、サントリーは独自調査を通じて、職場に設置された自販機を利用する人は2割程度で、飲み物をコンビニやスーパーで購入して持ち込んでいる人が大半であることを認識し、法人向け自販機の「小売店」としての機能に進化の余地を感じた。

稼働自販機が約26万台と業界3位のアサヒ飲料は今年6月、庫内に搭載した粉末状の吸収材が大気中のCO2のみを吸収する「CO2を食べる自販機」の実証実験を開始した。これは自販機として国内初の試み。1台当たりのCO2吸収量は、スギの木20本が年間で吸収する量に相当する。吸収したCO2は肥料やコンクリートなどの工業原料に活用する予定だ。

ただ、この自販機の台数が増えれば、ルート担当者による吸収材設置・回収作業が1〜2週間に1度発生する。また、CO2を吸収した粉末を工業原料として継続的に活用する企業を見つけ出すことも課題だ。まだ実験段階ではあるものの、「将来的には法人向け自販機として、CSRに力を入れる企業などへの展開も期待できる」(アサヒ飲料の三末慶樹・自販機事業統括部長)。

市場縮小の原因について、サントリーの自販機事業でマーケティング部長を務める須野原剛氏は、サービスが急速に拡充してきたコンビニなどと比べて、「自販機の小売店としての魅力を向上させるための、メーカーの努力が不十分だった」と反省を口にする。一方で「飲み物を売る以外の価値を生み出す努力をしていけば、もっと自販機で買ってもらえるようになる」と話す。

業務効率化に加え、飲料を売るだけでないプラスアルファをいかに加えるか。メーカー各社の知恵が問われそうだ。

(田口 遥 : 東洋経済 記者)