メディアが“猛暑”を連日報じる、納得の理由を紹介します(写真:AP/アフロ)

「全国290地点で35℃以上の猛暑日」「猛暑日は観測史上最多の○日目」「全国40都道府県に熱中症警戒アラート」「40℃に迫る災害級の暑さ続く」……連日、テレビやネットで記録的な猛暑が報じられています。

メディアが猛暑ニュースを多く扱う理由

確かに記録的な猛暑であることは間違いないのですが、特筆すべきはメディアの報道量。「暑い」ことは誰が見ても明らかであり、決して喜ばしいことではなく、毎日同じような内容を繰り返しているにもかかわらず、なぜメディアはこれほど猛暑を報じているのでしょうか。また、なぜ私たちは、それをつい見てしまうのでしょうか。

なぜメディアは猛暑ニュースをこれほど扱うのか。その最たる理由は、「メディアとしての使命」であり、そのうえで「一定の数字が獲れるから」の2点。命にかかわる情報はメディアにとって最優先されるべきものであり、たとえば情報番組の現場で近年の猛暑は、「それ以上に緊急性のあるニュースがなければ、しっかり時間を割いて放送すべきもの」とみなされているようです。

まずはその日の気温チェックをしてもらい、次に通勤・通学、外での仕事、運動、就寝時などにおける注意ポイントやリスクの避け方を提供。さらに猛暑が深刻さを増したことで、「こまめに水分補給をしてください」「日中は不要な外出を避けてください」「夜間もできるだけクーラーを使って熱中症を防いでください」などの具体的な言葉で呼びかけるケースが増えています。

「熱中症」関連のトピックスが続出

今年はたとえば熱中症関連だけでも、「プールで熱中症?」「時間差で翌日に熱中症も」「携帯扇風機が原因で熱中症に」「熱中症で白内障リスク約4倍」「東京23区 熱中症疑いで1カ月余りで73人死亡」などと報じられるなど、さまざまな情報が次から次へと出てきているのも特徴的です。「さまざまな角度から猛暑の危険性を伝えることで注意喚起していこう」という制作意図がうかがえます。

ただ、基本的に情報番組は、報道番組のようにストレートニュースとして単純に事実を報じるだけでは見てもらえません。たとえば東京をピックアップして、「速報 ○日連続猛暑日に」「○月○日から降雨なし」「熱中症の疑いで○人搬送」「熱中症の緊急搬送が去年の○倍に」などの数字をトピックス化して専門家に深掘りしてもらうなどの一歩踏み込んだ構成が求められます。

あるいは、最高気温ランキングの常連として知られる埼玉県熊谷市、群馬県伊勢崎市、山梨県甲府市などにレポーターを派遣しての生中継はおなじみの方法。さらに多くの人々でにぎわう観光地やイベントも同様で、温度、日差しの強さ、汗の出方、外にいる人々の様子などを紹介していきます。

それらの映像は「熱中症注意!」などの呼びかけやテロップなどはあっても、さほど深刻なムードはなく、むしろ名物レポーターを立てるなどの猛暑をエンタメ化したような演出が少なくありません。

実際のところ制作サイドの中には、「猛暑というテーマは、現地との生中継で映像の動きや変化を見せやすいほか、強い日差しや水不足の影響などの社会的な問題から、暑さ対策の豆知識、涼みスポット、夏バテ予防メニューの紹介などのポジティブな情報まで、さまざまな要素で構成しやすい」という声もあります。

若年層にも“猛暑ネタ”が浸透した

また、猛暑のエンタメ化という点でわかりやすいのは、『ゴゴスマ〜GO GO! smile!〜』(CBC・TBS系)のような「最高気温ランキング」。ランキングやエリア対決などで見る人を引きつけようとするメディアは多く、「猛暑をできるだけ明るく楽しく乗り越えよう」というスタンスがうかがえます。

振り返ると2020年代に入ってから、コロナ禍やウクライナ情勢、さらには凄惨な事件や事故が続くなど、シリアスなニュースが続いてテレビやネット上に影を落としていました。それだけに「猛暑は危機だけど、どこか明るさを感じさせながら報じられるニュース」として扱いやすいものなのでしょう。

猛暑をメディアが扱う理由で忘れてはいけないのが、「数字を作る」というビジネス面。

テレビの情報番組はメインの視聴者層が中高年や主婦のため、天気の話題は最も自然なものとみなされ、複数回ピックアップする構成も見られます。そもそも情報番組における天気関連のコーナーには、古くから「井戸端会議のネタにしてもらおう」という意図がありました。近年の夏は手堅く視聴率を確保するためにも、猛暑の情報が欠かせなくなっているのです。

一方のウェブメディアも、「外出前に気温をチェックする」ほか、「猛暑のニュースは思わず見てしまう」という人を見込んで記事をたびたび配信。情報がシンプルで制作の手間が少ないため、記事制作のうえでコスパがいいジャンルの1つとみなされているようです。

近年のように全国各地が暑くなったことで、もともと話題になりやすかった天気の優先度がさらに上昇。中高年層だけでなく若年層も学校や会社で「暑いね」「昨日よりキツイかも」「その携帯ファンいいね」などと猛暑の話題があいさつ代わりのように語られるケースが増えています。

今なら通勤、夏フェス、高校野球甲子園大会などの是非を論じる人もいますし、ゲリラ豪雨、雷、台風、ひょう、あられなども含めて話す人もいるでしょう。主婦の中には「子どもや親を猛暑から守ろう」という人が多く、テレビやネットで情報収集してアプリやSNSなどで友人と共有する人もいるようです。メディアはそれらの人々に向けて、猛暑という話題のネタを提供しているのでしょう。

「いい身分」「運がいい」の優越感

そして最後にもう1つピックアップしておきたいのが、在宅者の“優越感”狙い。猛暑関連のニュースには、「買い物や犬の散歩など以外は外出しない」という主婦、在宅ワークやリモートワークの人、学校や仕事が休みの人などに「優越感を得てもらおう」という制作意図もあると言われています。

暑そうな人々を見て、「自分はいい身分にいる」「家にいられて運がいい」と感じてもらおう。あるいは、外出しないことや、勉強や仕事をサボっていることへの「仕方がない」という言い訳にしてもらおう。もし何かしらの不満を抱えていたとしても、「あんなに暑い思いをしなくてもいい自分のほうがマシ」と思ってもらおう。

とくに情報番組の制作サイドには、そのような在宅者の優越感をくすぐるような構成で連日の視聴を狙っているところがあります。あなたも情報番組で猛暑関連のニュースを見て、「暑そうだな」と言いながらもニヤリとしてしまったことはないでしょうか。

このところ猛暑関連のニュースが増えているのは、メディアとして危機を呼びかけることや、ビジネスとして数字を上げることだけではありません。「この番組を見ている自分も、ほかの視聴者も涼しいところにいる」という優越感の共有が演出されているのです。

ちなみに現在、情報番組の話題の軸となっているのは、猛暑と大谷翔平選手の2つ。関連性のないことのように見えますが、「涼しい家で見られることの優越感を得てもらおう」という点では共通しているのではないでしょうか。

(木村 隆志 : コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者)