ヒョンデ「アイオニック6」のテスト車両に乗ることができた(筆者撮影)

昨年、電気自動車(BEV)の「アイオニック5」と燃料電池自動車(FCEV)の「ネッソ」の2車種をもって日本市場に再挑戦を始めた、韓国のヒュンダイ改めヒョンデ。しかし、この2台だけで販売を続けるというわけでは、もちろんない。

すでにアイオニック5より小柄なSUV「コナ」のBEV版「コナ・エレクトリック」が2023年中に導入されると言われているが、もう1台、アイオニック5と同じBEV専用車種の「アイオニック6」も導入も検討しているという。

実は、すでにテスト車両が日本に上陸しており、その貴重な1台に乗ることができた。今回は、このアイオニック6のデザインや走りを報告することにしよう。


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車名から想像すると、アイオニック5のひとクラス上に感じるアイオニック6だが、実際はハッチバックの5に対する4ドアクーペという位置付けになる。BMWの「5シリーズ」と「6シリーズ」の関係に近いかもしれない。

プラットフォームはアイオニック5と共通だが、ホイールベースは2950mmと50mm短い。ボディサイズは全長4855mm×全幅1880mm×全高1495mmで、220mm長く、10mm狭く、150mm低い。この数字からも、アイオニック5の上に位置する車種ではないことがわかる。

レパードJ.フェリーか? チェコのタトラか?

しかしながらスタイリングは、フォルクスワーゲン「ゴルフ」を思わせる実直な2ボックスのアイオニック5とは、まるで違う。

「エレクトリファイド・ストリームライナー」と名付けられたその姿は、ウエストラインも、その上に乗るルーフラインも弧を描いていて、強烈な個性を発散している。


「後ろ下がり」のプロポーションが個性を放つ(筆者撮影)

空気抵抗を示すCd値が0.21をマークしていることも凄いけれど、実物のインパクトはその数字さえ脇役にしてしまう。

その後ろ姿から、日産自動車が1990年代に販売していた「レパードJ.フェリー」を思い出す人もいるかもしれない。でも、旧いクルマにも興味がある筆者は、別のクルマが頭に思い浮かんだ。

チェコのタトラが1930〜70年代に生産していた、ストリームラインのセダンたちに、プロポーションが似ているのだ。ヨーロッパの自動車メディアでは、いくつか比較記事を出しているので、気になる方はインターネットで検索してみていただきたい。

ちなみに、一連のタトラはすべてバックボーンフレームのリアに空冷V型8気筒を積むという成り立ちで、設計したハンス・レドヴィンカは同様のメカニズムを好んだフェルディナント・ポルシェと親交があったというエピソードもある。

いずれにしても、好き嫌いの分かれる姿であることは間違いない。しかし、先行して発売された欧米での評価は高く、昨年のアイオニック5に続き、「ワールド・カー・オブ・ザ・イヤー」「ワールド・エレクトリック・ビークル」「ワールド・カー・デザイン・オブ・ザ・イヤー」の3冠を獲得している。


ヘッドライトはピクセルデザイン。バンパー形状も斬新だ(筆者撮影)

「タトラの再来」という見方も好意的に作用しているのかもしれないが、グローバルではこのような個性が高く評価されている、ということになる。

一方で前後のランプまわりには、アイオニック5に続いてピクセルデザインを多用しており、前衛的なイメージを表現している。このあたりは、アイオニックというサブブランドとしての統一感を出したのだろう。

ディテールでは、ドアミラーをデジタル式としたことと、シャークフィンタイプのアンテナをスケルトンにしたことが目を引く。先進性の表現方法が多彩であることに感心した。


立体的なスポイラー形状のリアまわり。テールライトもピクセルデザイン(筆者撮影)

ポルシェ「911ターボ」を思わせるリアスポイラーは、ダウンフォースを与えるためだろう。内部にはハイマウントストップランプが内蔵されている。

インテリアはスポーティかつエレガント

インテリアはエクステリアとは対照的に、アイオニック5と似ている部分が多い。メーターまわりはその代表で、センターまで伸びる横長のディスプレイが目の前に置かれている。


水平基調のインストルメントパネルの両端にデジタルドアミラーのモニターがつく(筆者撮影)

ただし、センターコンソールが高めに位置していたり、ドアトリムに水平基調ではなくオーガニックなカーブを取り入れていたり、独自の部分もある。クーペらしく、スポーティかつエレガントな造形を盛り込んでいると感じた。

センターディスプレイの下には、ディスプレイの機能を選ぶスイッチ、スタートボタン、エアコンの操作系などが並ぶ。このあたりはアイオニック5と同じだ。エアコンの操作はすべてタッチパネルとなっているが、温度調節などはダイヤルで残してくれたほうがありがたい。

もう1つ、運転席まわりで気づくのは、インパネ両端にデジタルドアミラーのモニターが置かれることだ。

とってつけたような配置でないことは好感が持てるが、車外のセンサー本体が見えるので、どうしてもまず視線がそちらに行ってしまう。「ホンダe」のようにセンサーが見えないほうが、慣れるまではよさそうだ。


デジタルドアミラーのモニター。外にあるセンサー(カメラ)につい目が行ってしまう(筆者撮影)

カラーコーディネートは、明るめのグレーを基調としたモノトーンでまとめてあって、モダンな造形に合っていた。

キャビンのスペースは、アイオニック5に近い。つまり、後席はかなり広く、身長170cmの筆者は足が楽に組めた。気になる頭上空間も、手のひらが入るぐらいは確保されている。駆動用バッテリーを収めたフロアはやや高めだが、気になるほどではない。

シートの座り心地は、前席は固め、後席は柔らかめで、助手席に後席から操作する前倒しなどがあることを考えると、ショーファードリブンも考慮に入れているのかもしれない。


シート形状は一般的。ブルーとオレンジのアクセントが入る(筆者撮影)

パッケージングにおけるアイオニック5との大きな違いは、ハッチバックではなく独立したトランクを持つこと。よって、後席のスライドやリクライニングはない。ノーズの小さなトランクにリッドがないことも、アイオニック5との違いだ。


ハッチバックのように見えて独立したトランクがあるのが特徴(筆者撮影)

日本の街に“この姿”が走る日

試乗車は、右ハンドルの2モーターAWD。0-100km/h加速5.1秒を豪語するだけあって、加速はかなり勢いがある。ドライブモードはエコ/ノーマル/スポーツの3種類。パドルは回生ブレーキの調節で0〜4の5段階あり、4にすると最強で、いわゆるワンペダルドライブができる。

高速道路で試したADAS(先進運転支援システム)は、車線変更のときにはステアリングアシストをしてくれたり、ウインカーを出すとメーターにサイドの映像を出してくれたり、高度でわかりやすいうえに作動もスムーズで、満足できるレベルだった。


デザインも表示もシンプルに考えられたメーターパネル(筆者撮影)

乗り心地はクーペだからか、アイオニック5より固め。ボディの剛性感はしっかりしているが、スピードを上げてもフラットになっていくことはなかった。245/40R20というタイヤのためもあるが、もう少しサスペンションのストローク感が欲しい。

ハンドリングはAWDであるためか、安定感を重視している印象。コーナーでアクセルを踏み込んでいくと旋回力が強まるものの、後輪駆動ベースであることは、あまり強調していないキャラクターだった。

このように、シャシーまわりにはさらなる熟成を望みたい部分もあるが、電動走行のマナーは優秀でもあることも確認できた。でも、このクルマはやはり“デザイン買い”する1台だろう。

日本で走る姿を見ることができるのはいつになるか、楽しみに待ちたいと思う。

(森口 将之 : モビリティジャーナリスト)