勉強や生活の「習慣化」、どうすればうまくいくでしょうか?(写真:JIRI / PIXTA)

子育て分野の科学研究は日々進んでいます。これまで個人の体験や感想だけを根拠に「絶対に正しい」 「効果的だ」 と言われてきた子育ての中にも、 どうやらそうではない 「ダメ子育て」があるということが、最新の研究結果からわかってきました。

しかし、残念ながら、そうした最新の科学の成果のすべてが、素早く子育てや教育の現場に伝えられて、実践されているわけではありません。

そこで、『「ダメ子育て」を科学が変える!全米トップ校が親に教える57のこと』の著者、アメリカのスタンフォード大学・オンラインハイスクールで校長を務める星友啓氏が、最新科学が明かした家庭でも簡単に実践できる子育て法を厳選して紹介します。今回は、子どもに習慣化を身につけさせる方法から、脳が一番効率的に学べるタイミング、脳科学の意外な効果までをご紹介します。

子育てにおける「習慣化」

子育ての大きなテーマの一つである「習慣化」についてお話ししましょう。

毎朝運動するようにする。決まった時間に勉強するようにする。好き嫌いせず健康なものを食べる。子どもに大事な習慣を身につけさせてあげたい。

子どもに新しい習慣を身につけさせるとき悩ましいのが、ガラッと一気に変えていくのか、それとも、少しずつ変えていくのかという問題です。

いつもやっていることを一気に変えることで、心機一転、新しい習慣のリズムに乗っていけるのではないか。いやいや、今やっていないことを急にやるのは難しい。やはり、少しずつ慣らしていかないとできないのではないか。

「一気派」と「ちょっとずつ派」 、一体どちらがより効果的なのでしょうか。

この問いに脳の仕組みから答えれば、新しい習慣を身につけようとするときは、ちょっとずつ習慣を変えていくのが理にかなっているといえます。

実際、習慣を変えるプログラムなどでは「ちょっとずつ派」のアプローチをすることが効果的であると確認されています。

そもそも、習慣とは、自分の強い意志で行動しようとしなくても、ある一定の状況に置かれると自然としてしまう行動のことです。

たとえば、朝起きたら迷うことなく洗面所に行って歯を磨き始める。そうやって意識することなく行動することを、習慣というわけです。そして、何かを習慣化するということは、そうした自然な行動のパターンを脳に焼き付けるということになります。

ではどうやって、脳にそのパターンを焼き付けることができるのか?それはズバリ、何度も同じような状況で同じような行動をとることしかなし得ません。

繰り返し同じような体験をしていくことで、同じようなニューロンの回路が何度も何度も活性化されて、強固で通りのよいニューロン回路が出来上がってきます。そうした強いニューロン回路ができることで、また同じような体験が起きたときに、あれこれと考えることなく、これまでと同じような行動をすることができるのです。

朝起きて何も考えずに、洗面所に行き、歯を磨くような習慣ができるためには、繰り返しのトレーニングが必要なのです。

脳が一番効率的に学べる瞬間とは?

子どもの脳のメカニズムについて、もう一つ重要な事実を解説しておきましょう。それは、脳は間違えたときに、最も効率的に学べるようにできているということです。

これは昔から経験則的にも語り継がれてきた考え方ですが、近年の脳科学の成果からも再確認されています。

それだけに、間違えた瞬間をうまく活かしながら勉強させてあげることが、効率的な学習への近道となります。

重要な点なので、少し詳しく解説していきましょう。

私たちの脳は見る、聞くなどの知覚を通して周りの環境を認識して、その状況に関するなんらかの予測を立てます


(写真:マハロ/PIXTA)

たとえば、子どもが猫と遊んでいるとしましょう。子どもが猫の頭をなでたり、背中をさすったりすると、猫も楽しそうにじゃれついています。かわいい猫のリアクションがうれしくて、子どもも猫のいろんなところをなでて遊びを続けていきます。

この場面で、猫の状況を観察しながら、なでて遊んでいる限りは機嫌良くいられるだろうという予測を立てています。

しかし、じゃれ合う中で子どもが猫のしっぽをつかんでしまいました。その瞬間、これまで楽しそうだった猫が、急にうなり声を上げ、子どもを嫌がってにらみ付け、かみついてきました。

スキンシップをとっていれば、楽しく遊んでいられると思っていた子どもの予測が外れてしまうわけです。

そして、その体験をした子どもは、次に猫と遊ぶときには、しっぽに触れないように気をつけて遊ぶようになるのです。

このように、自分が立てた予測が間違っていたときに脳の中で学習が起こります。近い将来、似たような環境でより正確な予測ができるように、脳の回路が組み替わるのです。

実際に最近の研究により、脳の予測が外れたとき、脳内でドーパミンの分泌量が増え、ニューロン回路が効果的にアップデートされる仕組みもわかってきました。つまり、予測を立てて間違えたときに、脳はその間違いを正しく修正するための「準備」を整えるのです。

子どもに脳科学を教えると成績がアップする

この脳のメカニズムが、間違いを最高の学習チャンスにするのです。

そのため、子どもが間違えたとき、親子で落ち込んでいる暇はありません。それでは最大のチャンスを逃してしまいます。

日頃から、子どもが間違えたときに「間違えたから脳が学ぶ最高のチャンスだ」と思えるようにサポートしていきましょう。

それでは、そうしたイメージを子どもが持てるようにするためには、どうしたらいいのでしょうか?

もちろんシンプルに、日頃から「間違えたときが学ぶための最大のチャンスだ」ということを子どもに教えていくことが第一歩になります。そのうえで、小学校高学年くらいの子どもには、より効果的な方法があります。それは、脳科学の基礎を教えてあげること

脳のメカニズムは、小学校高学年くらいであれば、丁寧に説明することでスムーズに理解することができます。

難しく詳細な情報は必要ありません。大まかな脳のメカニズムを理解することで、学びや自分の能力に対するポジティブなイメージを持つことが目的です。

そうやって変化し続ける脳のイメージを持つことによって、実際に子どもの成績や学習に対する意識が改善することが明らかにされてきています。

ポジティブな自己イメージを持つことがパフォーマンスの向上につながる

たとえば、数学の教育学の世界的権威である、スタンフォード大学のボアラー教授「youcubed」という数学指導プログラムにおいて、脳科学の事実を子どもに教えることで子どもの成績がアップしたというデータが報告されています。

また、脳科学のシンプルな事実を学ぶことで、子どもが「成長マインドセット」を持てるようになります。

「成長マインドセット」は、世界的ベストセラー『マインドセット─「やればできる!」の研究』の著者、世界的な教育学者であるスタンフォード大学のキャロル・ドゥエック教授が提唱してきたコンセプトです。


子どもの才能や能力は既定のもので、学習したり成長しても変化しないというイメージが「固定マインドセット(fixed mindset)」。それに対して、才能・能力は努力やトレーニング次第で伸びていくというイメージが「成長マインドセット(growth mindset)」

これまでの研究によれば「成長マインドセット」を持っている子どもは、忍耐強く、成績やパフォーマンスも右肩上がりなのに対し、「固定マインドセット」の子どもは、諦めがちで向上心に欠け、成績やパフォーマンスも横ばい

つまり、脳科学を学ぶことで「成長マインドセット」でポジティブな自己イメージを持つことができるようになると、成績やパフォーマンスの向上につながるというわけです。

ぜひ、本記事で読んだ、シンプルな脳科学のイメージを子どもにも教えてあげてください。そうすることによって、子どもが正しくポジティブな脳のイメージを持てるようになり、効果的な学びができるようになります。

(星 友啓 : スタンフォード大学・オンラインハイスクール校長)