売れる営業マンと、そうでない営業マンの違いとは(写真:kouta/PIXTA)

「営業たるもの、明るく元気に顧客と接するべき」……どんな会社でも当たり前のように言われていることだろう。しかし、それこそが実は「昭和の営業のステレオタイプ」に縛られているかもしれないと指摘するのは、超内向的なのにトップ営業にまで上り詰めた渡瀬謙氏だ。

同氏によれば、「明るい営業」を手放した瞬間、売れるようになることもあるというが、その理由とは(記事は渡瀬謙著『静かな営業』(PHP研究所)の内容を一部抜粋・再編集したものです)。

グイグイ行くタイプが売れる?

昭和の時代の売れる営業像は、明るく元気で声が大きい人というイメージでした。どちらかというと「騒がしい営業」です。私が新人の頃などは、宴会の席で人一倍盛り上げている人が、実際に売れていました。人のふところにグイグイと入っていくようなタイプが、営業向きと言われていました。

でも、いまではどうでしょうか。知らない人が電話でいきなり元気良く話しかけてきたら、引いちゃいますよね。見ず知らずの人が自宅のインターフォンのカメラ越しに満面の笑顔でこちらを見ていたら、何も聞かずに断りたくなりますよね。

以前、知らない土地で道に迷ってしまった私は、3人で遊んでいた子どもたちに声をかけたことがあります。「駅に行きたいんだけど、どっちに行けばいいのかな?」。すると彼らはお互いに目を見合わせて、「知らない」と言って逃げていきました。

ちょっとショックでしたが、おそらく学校や家庭でそうしなさいと教わっていたのでしょう。知らない人が近づいてきたら警戒するのが当たり前の世の中なのです。このような時代において、明るく元気なだけの営業ではもう通用しないどころか、逆にマイナスになっているという現状を知っておくべきです。

ところが、いざ自分が人に何かを売る仕事を始めてみると、なぜか昭和風の営業スタイルになってしまう人が多いのが現実です。本来は物静かな性格の人も、ムリして笑顔を作り、必死にしゃべって売ろうとしています。

どうしてでしょうか?

「明るいから」売れない

自分がされたらイヤな営業スタイルを、なぜやってしまうのでしょうか? その理由は「営業とは明るく元気でしゃべりがうまくなければいけない」という既成概念がいまだに根強いから。

漫画などで描かれている営業像はまさにその典型です。

・傲慢なお客さまにひたすら頭を下げる
・お客さまを怒らせてお茶をかけられる
・ゴルフや料亭で接待してご機嫌を取る

もちろん物語として面白くするために誇張して描かれているのでしょうが、知らない人はこれを鵜呑みにします。こうして、「営業って泥くさくてイヤな仕事だ」というイメージが出来上がってしまっているのです。

でも、安心してください。時代は変わりました。これからは、静かな人が堂々と静かに売れる時代です。大きな声を出す必要もなければ、ムリに明るく盛り上げる必要もありません。「営業はこうあるべき」というこれまでの妄想は一切捨ててください。

その理由をこのあと、論理的に解説します。

私自身、いわゆる「静かな人」でした。内向的で口下手で、人とのコミュニケーションもうまくない。そのため、営業になったばかりの頃にはよく、こう言われていました。

「もっと明るく振る舞いなさい。明るい営業と暗い営業のどちらにお客さまは会いたいと思うか。明るいほうだろう。売りたかったらムリにでも明るくしなさい」。当時は黙って聞いていましたが、正直、半信半疑でした。

私自身が「明るい営業に会いたいか」というと、そんなこともないだろうと思っていたからです。少なくとも私は、明るい人よりも物静かな人とのほうが落ち着いて話ができました。だから、明るければいいということでもないんじゃないか……。

無理して明るく振る舞っていた

それでも当時の風潮として、「営業=明るい」というのは常識でしたから、とくに反論することもなかったですし、きっとそういうものなのだろうとも思っていました。

しかし、私がいくら明るい営業を心がけても、まったく売れませんでした。ムリに笑顔を作り、頑張って大きな声でしゃべり、大げさなリアクションをする。自分の中では明るさMAXの状態でお客さまと接します。

でも、お客さまの反応はいつも冷ややかでした。

いくら明るく振る舞ってみても、売れないどころか、売れそうな手ごたえすらまったく感じられません。上司の指示通りにやっているのに、まったく結果が出ないので、混乱します。

「本当にこのやり方が正しいのかな?」という疑問が出てきます。この記事を読んでいるあなたも、そんなモヤモヤした気持ちを抱えているかもしれませんね。

なぜ、いくら明るく振る舞っても売れなかったのか。先に答えを言ってしまえば、「ムリして明るい営業で売ろうとしていた」からです。とくに私のようにもともと暗いタイプは、明るい自分を演じることばかりに意識が向いてしまいます。

ムリをしているときというのは、お客さまの言葉がきちんと入ってこなかったり、ちょっとした変化に気づかなかったりと、情報収集力が低下します。ここが問題でした。

お客さまから得られる情報が不十分だと、いくら一生懸命に商品説明をしても、相手には刺さりません。これが「ムリして明るくしても売れない」カラクリです。

とはいえ、「明るくてはダメ」ということではありません。根が明るい人は、 とくに明るい演技をする必要もないので自然体でいられます。後の章で解説しますが、この自然体こそが売れる秘訣なのです。多くの人は短絡的に「明るい=売れる」と思いがちです。しかし、「明るいから売れる」「暗いから売れない」ということではなく、あくまで大事なのは「自然体」なのです。

「過去の栄光を知る先輩」という障害

ただし、ここに大きな障害が立ちはだかります。「過去の栄光を知る上司や先輩」たちです。

景気が良かった頃は、多くの会社が業績を伸ばしていました。当時はいまとは違い、世の中の人の購買意欲も強く、個人情報についての意識もいまほど高くはありませんでした。昭和型の「明るく元気に売る」「根性で売る」が通用した時代です。

その営業スタイルで成果を出してきた人たちは、「このやり方で売れる!」という絶対の自信を持っています。

私も飲みの席などで、年配の上司からよく聞かされていました。

「俺が若い頃は、毎日100件飛び込みをしていたぞ」
「歩いて靴がすり減るから月に1回は買い替えていた」
「お客さまと飲みに行って仲良くなるのが一番だ」

もちろん、頑張って成果を出してきたことは認めます。でも、これからの時代に同じことをやっても、同じ成果は出ないでしょう。とはいえ、おそらく彼らも、そのことにはうすうす気づいているはずなのです。それでも他に良い方法を知らないので、自分の成功体験でしか語れないのです。

たまらないのは、過去の栄光をベースに指導される側です。とくに、物静かなタイプの人は余計な苦労をさせられることになります。自分に合った営業スタイルで仕事をすればきちんと成果を出せる人が、気合いや根性ばかりを強要されて、売れないドロ沼に引きずり込まれてしまっているケースをよく見ます。

もちろん、根性や努力を全否定はしませんが、それが正しい方向に向けられているかどうかが重要です。少なくとも「明るく元気に」という指導は、テクニックでもコツでもなんでもありません。

転職したとたんに売れるようになる人

初めて入った会社で「営業とは明るくなくてはならない」「営業とは根性と足で稼ぐものだ」という指導を受けた場合、「営業とはこういうものだ」と思い込んでしまうのは当然です。そして、そのことに疑問も持たず、自分には合わない苦しい営業を続けている人も数多くいます。

そんな人に知っておいてほしいことがあります。営業は、会社によって全然違うスタイルになっているということを。

いまだに昭和型の根性営業を続けている会社がある一方で、ムリせず長時間労働もせず、スマートな営業活動を繰り広げている会社もあります。新人研修として「飛び込み営業」「手当たり次第の営業電話」をさせている会社もあれば、顧客に迷惑だからと禁止している会社もあります。


前の会社で苦労していた人が、転職したとたんにガンガン売れるようになるというのは、よくあることです。それは、会社によって営業の仕方がまったく違うからに他なりません。違う上司になりやり方が変わったら売れるようになったという人も多いです。

いま売れずに苦しんでいる人や、過去に営業でつらい思いをした人でも、営業スタイルが変われば必ず結果を出せます。

「過去の栄光型」の上司を持って苦しんでいる人にはこうアドバイスします。

「社内では上司の指示をハイハイと聞いておいて、社外に出たら自分のスタイルで進めなさい」

不本意かもしれませんが、そうしないと売れないですし、そのままだと当人が不幸になるだけですから。

(渡瀬 謙 : サイレント セールストレーナー)