ZMPの「RakuRo」。お茶の水女子大学での試乗体験会にて(筆者撮影)

真夏の日差しが降り注ぐお茶の水女子大学(東京都文京区)のキャンパス内で、女子学生や外部からきた中高年のサラリーマンらが、遠隔操作で自動運転する歩行速モビリティZMP「RakuRo(ラクロ)」を試乗した。

試乗中や試乗後に感想を聞くと、「可愛い」「楽しい」、そして「思ったよりも動きが賢い」などさまざまだ。


東洋経済オンライン「自動車最前線」は、自動車にまつわるホットなニュースをタイムリーに配信! 記事一覧はこちら

今回の試乗イベントは、自動運転等の技術開発企業であるZMP(本社:東京都文京区)が新規事業発表を行う中で実施したもの。

車体の前後からレーザーを照射して自車位置を確認し、物体を認識するカメラも併用。事前に作った3次元地図の中を、ZMPが独自開発したクラウド上のOS(オペレーティング・システム)「IZAC」によって遠隔操作する仕組みだ。

同様の仕組みで、警備や消毒を行う「PATORO(パトロ)」や宅配用の「DeliRO(デリロ)」がある。こうした移動体を、国は「遠隔操作型小型車」と呼ぶ。


ZMPの「遠隔操作型小型車」各種(筆者撮影)

2023年4月1日、道路交通法の一部を改正する法律(令和4年法律第32号)が施行され、歩道等を走行できる新たな移動体として認められた。ほかの事業者も含めて、遠隔操作型小型車を使った実証試験がこれまで全国各地で行われてきたが、特に大きなトラブルは報告されていない。

しかし、この遠隔操作型小型車、宅配をはじめとした事業として成り立つのだろうか。法改正されたとはいえ、自動運転ではありがちな“実証のための実証”で終わってしまうことはないのだろうか。そんな疑念を持つ人もいるだろう。

電動キックボードも含めた協議

はたして、遠隔操作型小型車は普及するのだろうか。まずは、遠隔操作型小型が誕生した背景から確認しておきたい。

自動運転といえば、2010年代からアメリカでGoogleが自社開発を始めたり、日本では産官学連携によるオールジャパン体制で実証試験や法整備が進められたりと、過去約10年間でさまざまな動きがあった。

そうした技術革新を、歩道等を走行する移動体でも生かそうというのが遠隔操作型小型車である。

国が、遠隔操作型小型車等を含む道路交通法の改正に向けた明確な動きを見せたのは、2020年7月のこと。そして、警察庁が「多様な交通主体の交通ルール等の在り方に関する有識者検討会」を開催した。

「多様な交通主体」という名称には、2020年時点で海外でも普及や実証が盛んになっていた「電動キックボード」や「自動配送ロボット」が念頭に置かれ、今後さまざまな小型移動体が登場する可能性が込められている。


「特定原付」として7月に解禁された電動キックボード(筆者撮影)

このころは、欧米や中国で自動配送ロボットの実証試験が日本に先んじて行われている様子が、テレビやネットで紹介されていた時期でもあった。

そして、2021年12月に公表された同検討会の報告書において、新たな交通ルール(車両区分)として、最高速度や通行できる場所により異なる、大きく3類型が提示された。

歩道通行車(時速6〜10km以下)、小型低速車(時速15〜20km以下)、そして既存の原動機付自転車等(時速15〜20km超)という3つだ。

このうち小型低速車については、2023年7月1日の改正道交法の施行により、特定小型原動機付自転車(特定原付)として新しい車両区分が誕生している。

一般原動機付自転車(一般原付)と区分し、「特例」として歩道等の走行を認めたものだ。特定原付については、「特定原付『7月解禁』で電動キックボードどうなる」「電動キックボード『時速6kmモード』の現実解」に詳しい。

そして、「多様な交通主体」3類型の残りの1つである歩道通行車の中に、遠隔操作型小型車が新たに加わったというわけだ。

「歩道走行型ロボット=遠隔操作型小型車」ではない

ただし、歩道などを移動するロボットのすべてが「遠隔操作型小型車」に該当するわけではない。この解釈が少々、面倒なところだ。

改正道路交通法の施行に伴い、警察庁が2023年7月に公開した「歩道走行型ロボットの公道実証実験に係わる留意事項」によると、以下のように歩道走行型ロボットの定義がある。

「法により歩行者が通行すべき場所として規定されている場所を通行させるロボットであって、自動運転技術又は遠隔操作により通行させるロボット」

また、セグウェイ等のモビリティについては、これまで「搭乗型移動支援ロボット」としていたが、これは歩道走行型ロボットに含めないとしている。さらに、歩道走行型ロボットは、「レールや架線によらないで運転する車」とした。

そのため、「歩道走行型ロボット」は法律上、「自動車」「原動機付自転車」「原動機を用いる軽車両」「移動用小型車」「原動機を用いる身体障害車用の車」、そして「遠隔操作型小型車」のいずれかに該当する。

要するに遠隔操作型小型車は、大きなくくりとしての歩道走行型ロボットの中の、1つの形なのだ。遠隔操作型小型車の基準は、次の通りであり。

■大きさ:長さ120cm以下×幅70cm以下×高さ120cm以下(周辺検知用のセンサーやカメラなどを除く)。

■車体構造:電動車であり、最高速度は時速6km、そして歩行者に危害を及ぼすおそれがある鋭利な突出部がないこと。また、停止するための押しボタンなどを有すること。

また、運送用の遠隔操作型小型車については、ロボットデリバリー協会が策定した、「自動運転ロボットの安全基準等」に従い認定を受ける必要がある。

どんなシーンで事業化が可能か?

では、遠隔操作型小型車はどのようなユースケースが考えられるのか。ZMPでは「搭乗型は動物園や遊園地などでのエンターテインメント系の需要が主体」と、これまでの実証試験を踏まえた事業の方向性を示す。

例えば、2021年6月に千葉市動物公園(千葉県千葉市)でのRakuRoを使った実証では、ゾウ、キリン、ミーアキャットなどの「定番人気コース」(約7分)や、チーターやハイエナがいる「ニューフェースコース」(約8分)を、それぞれ1人1回800円で実施。親子で隊列を組んだ走行が人気となった。


ホンダが楽天と協業した自動デリバリープロトタイプ。ホンダが開発した可搬式電池のホンダモバイルパワーパックを搭載(筆者撮影)

社会実装においては、入園料に遠隔操作型小型車の利用も含めたパッケージ価格設定なども可能になるだろう。

リピーターを含めて利用頻度が増えれば、仮に単独事業として黒字にならなくても、利用者向けの話題性を含めて事業者にとって導入する意義があるかもしれない。

現在、前出のZMPでは宅配用のDeliRoの実証試験を行う準備を、東京の月島周辺で進めている。

ZMPのWEBサイトでは、「DeliRo(デリロ) は、荷物を入れるボックスを搭載し、自動運転技術を応用した宅配ロボットです」としており、スーパーやコンビニでお米のような重いものを買った場合に、マンションなどの自宅まで運ぶことを用途とし、片道2km・往復4km程度の移動を想定する。

自動ドアやエレベーターを制御するシステムとのデータ共有ができれば、マンションの高層階への宅配も可能だが、ある程度の時間がかかることを考えると、マンションのエントランス前で荷物を引き取ることなどが考えられるという。


ZMPのクラウドOS「IZAC」に関する展示(筆者撮影)

また、フードデリバリーでの活用も考えられるが、クーラーやヒーターを併用すると走行用電池を消費することになるため、保冷バックなどで対応できる食べものに限定されるかもしれない。いずれにしても、課題となるのは天候への対応や料金設定だ。

医療や防災にも応用できる可能性

遠隔操作型小型車を使った事業を成立させるには、使用する事業者と周囲のインフラ、そして他のモビリティとのデータ連携が必然となる。

現在のところ、ZMPなどの事業者が独自にクラウド上での管理OSを開発しているが、いわゆる都市OSと呼ばれる社会全体でのデータマネージメントを国としてどのように標準化していくのかが、今後の課題となるだろう。

また、欧米のIT大手が、スマートフォンのシステムにこうしたデータマネージメントのプラットフォーム化を進めてくる可能性も考えられ、それが普及すれば事実上の標準化であるデファクトスタンダードになるかもしれない。


警備などですでに活躍している、各社の「遠隔操作型小型車」(筆者撮影)

別の視点では、災害時に遠隔操作型小型が通信拠点になったり、搭載バッテリーの標準化によって緊急医療機器で同じバッテリーが使用できたりするなど、防災を視野に入れた技術開発も考えられるはずだ。

まだまだ、具体的な事業の姿がはっきりと見えてこない遠隔操作型小型車だが、社会の中で活躍していくことを期待したい。

(桃田 健史 : ジャーナリスト)