2023年10月に始まる「インボイス(適格請求書)制度」で、押さえておくべきこととは(写真:mapo/PIXTA)

2023年10月に始まる「インボイス(適格請求書)制度」に向け、国内の企業では自社システムの見直しが加速しています。その対応が不十分だと、取引先に不信感を与える可能性や、消費税の納税額に誤りが生じるリスクもあります。「会計ソフト」の導入や見直しをする際、どんな点に留意すればよいのでしょうか。『企業実務7月号』を抜粋・再構成し、インボイス制度にくわしい税理士・中小企業診断士の服部大さんが解説します。(前編記事はこちらから)

2023年10月1日から始まるインボイス制度は、複数税率に対応した消費税の仕入税額控除方式です。さまざまな改正点に対応するため、事業者は次のようなポイントについて適切に対処しなければなりません。

導入・見直しのポイント

インボイス制度開始に向けて、会計ソフトなどの社内システムの導入・見直しを行なう場合には、やみくもにサービスを選定しても、期待する効果は得にくいでしょう。

特にインボイス制度では、登録番号の照合作業や取引先の管理など、これまでになかった業務が追加されるため、システムによって事務負担の増加を回避することが極めて重要です。(図表3)のポイントを意識して検討しましょう。
(※外部配信先では図表などの画像を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)


(図表:本書より引用)

(1)課題の共有

自社のシステム変更にあたっては、まずは社内で課題を共有することが大切です。

特にインボイス制度では、会計面だけでなく、営業や販売活動にも影響が及ぶため、部門の垣根を越えた対応が求められます。そのため、社内全体で制度に対する理解を深め、既存システムによる対応が可能かどうか、十分に議論を重ねましょう。

(2)業務フローの点検

インボイス対応に向け、会計ソフトや請求システムなどの導入・見直しを実行する場合には、事前に業務フローの点検が必要です。

社内の業務フローが複雑化することで、AIやITツールでは代替しきれない業務が発生し、システムによる利便性が損なわれる原因になります。あらかじめ、業務フローを整理することで、業務効率化や人為的ミスの削減にもつながりやすくなります。

(3)システムの選定

会計ソフトや請求システムなど、自社に導入するサービスを選定する際には、システム間の連携について必ず確認しましょう。

先述のとおり、インボイス制度は会計ソフトだけでなく、請求や販売管理、経費精算、レジシステムなどの対応も必要です。各システムにおいて適切な機能を有することに加え、システムごとに蓄積したデータを会計ソフトへスピーディーに集約できることが重要です(図表4)。


(図表:本書より引用)

たとえば、請求やレジシステムで生成した売上データや、販売管理システムで作成した取引先マスタを会計ソフトへ反映できれば、売上の発生仕訳の計上や消費税区分の入力を自動化できます。

システム間の連携も十分に考慮を

また、経費精算システムについても、インボイスか否かの照合が完了した経費データを会計ソフトへ連動することで、適切な消費税区分の選択や、仕入税額控除に関する経過措置の適用を受ける場合の帳簿への記載についても自動化できるでしょう。

さまざまなシステムをまとめて提供するクラウド型会計ソフトやERPパッケージであれば、シームレスなシステム間連携が可能な場合も多いですが、システムごとに異なるサービスを導入しているケースでは注意が必要です。

したがって、インボイス対応に向けて社内システムの導入・見直しを行なう場合には、システムごとの機能をチェックするだけでなく、システム間連携を十分に考慮したうえで、最適なサービスを選択しましょう。

(4)導入後のフォロー

一般的にインボイス制度への対応については、経理部が中心となって行ないますが、営業部や購買部などにも影響が及ぶため、部門間でシステムの調整を行なうことが重要です。

特に請求や販売管理、経費精算システムの導入・見直しについては、現場部門の業務における変更点も多いため、システム導入後も定期的に社内研修を実施するなど、導入後のフォローについても丁寧に行ないましょう。

(5)補助金制度の活用

インボイス制度への対応に取り組む企業や個人事業主を支援するため、国は補助金制度の拡充を行なっています。

たとえば、「小規模事業者持続化補助金」では、免税事業者がインボイス発行事業者として登録した場合、補助上限額が一律50万円加算されます。

補助金制度の確認も


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また、「IT導入補助金」は、インボイス対応のための会計ソフトの導入も対象にできるよう、補助下限額が撤廃されました。特にIT導入補助金(デジタル化基盤導入枠)は、インボイス制度開始前から課税事業者の場合でも補助対象となる可能性があり、補助額は最大350万円に設定されています。

補助金制度を活用することで自己負担額の圧縮にもつながるため、会計ソフトを含め、社内システムの導入・見直しを行なう場合には、申請の可否についても確認することをおすすめします。

著者プロフィール
服部 大(はっとり だい) 
服部大税理士事務所/合同会社「ゆとりびと」代表社員。税理士法人で8年間勤務したのち、2020年2月に名古屋市で開業。これまで年商数百万円〜数十億円の個人事業主や法人の月次監査を担当。「わかりにくい税金の世界」をわかりやすく伝えられる専門家を志し、個人事業主や中小企業の税務相談・経営サポートほか、「税理士ドットコム」「マネーの達人」をはじめ多数の監修・執筆実績をもつ。https://zeirishihattori.com

(企業実務)