入社してすぐ転職を意識する若者たち。なぜなのでしょうか(写真:cba / PIXTA)

パーソルキャリアが運営する転職サービス「doda(デューダ)」は、新社会人が入社月の2023年4月に登録した会員数が過去最高数になった、と発表しました。

なぜこれほどまでに登録者が増えたのか。背景にはコロナ禍による社会不安、「配属ガチャ」に象徴されるキャリア不安があるようです。

入社してすぐに転職

新人が、入社後すぐに転職サイトに登録する。

転職が当たり前になった世の中ですから、まあそういうこともあるのだろう、と思わなくもありません。

ただ一方で、「入社してすぐに転職を考えるなんて、ケシカラン!」。そう腹立たしく感じる読者もいるのではないでしょうか。

その背景について「ここにきての変化と、大きな流れとしての変化の2つがあるのだろうと見ています」と語るのは、doda副編集長の桜井貴史さんです。

「直近の理由として、コロナ禍での不安の高まりがあります。今年の新入社員は、学生時代にコロナを経験し、社会や経済が大きく変化するのを体感しました。両親が在宅勤務を始めた、などということもあるでしょう。このことから、働きはじめて、自分の力でスキルを伸ばしていくとか、自分が成長していくことが、変化の時代であるからこそ大事だ、と感じているんです」

「また、同じタイミングで『配属ガチャ』という言葉が広まりました。先輩たちの就活も見ていて、自分でキャリアを選ばなければならないとか、配属によって運命が変わりかねないという不安を感じている。転職サイトへの登録者数の増加は、『すぐに転職したい』ということではなく、そんな不安の表れではないかと思います」

「配属ガチャ」というのは、ソーシャルゲームなどでアイテムを手に入れるために回す「ガチャ」になぞらえ、「自分自身がどの部署に配属されるのか、入社してみないとわからない」という不安に重ねた言葉です。

最初の配属が希望から遠かった場合、いつでも転職カードを切れるようにする。それもサイトへの登録者が増えている背景の1つ、ということなのでしょう。

多様性を踏まえた「働く価値観」の変化

もう少し長いスパンで見ると、転職が以前よりさらに「当たり前」になった、という流れもありそうです。桜井さんは、こう説明します。

「2010年ぐらいからの変化を見ていると、この間の大きな変化は3つあります。まず、転職サイトへのアクセスが容易になりました。スマホからワンクリックで履歴書を送れるなど、簡便にもなりました。

2つ目は、転職自体のイメージの変化です。転職=給料ダウン、というイメージはなくなり、若い世代ほど転職によって昇給する、昇進する、というポジティブなイメージを持っています。

3番目は、働く価値観の変化です。今の世代は多様性、ダイバーシティを中学生の頃から学んできており、またSNSの台頭で自分らしく生きるゾーンが作りやすくなっています。『みんなが同じじゃなければいけない』はおかしい、ということをすごく大事にしている世代。それを『働く』でも実現したいと思うのは当然で、成長する中で自分らしさを勝ち取ることを意識してもいます。その中で、転職も自分らしく生きることの1つの手段になっている、ということなのでしょう」

入社してすぐ転職サイトに登録する、という、ここだけを切り取ると「後ろ向き」な感じがしなくもありませんが、実際はそうではなく、自分が成長することを真剣に考えるからこその登録で、むしろ「前向き」な行動なのかもしれません。

パーソル総合研究所が実施する「働く10000人の就業・成長定点調査」によれば、例えば自己啓発学習時間も、若い世代ほど伸びているそうで、ここにも成長志向が見て取れます。

「登録者数が増えているのは確かですが、では実際に転職している人の数がすごく増えているかというと、そこまで増えているわけではありません。私たちが用意するサービスも多様化していますから、いろいろなキャリアアドバイスが受けられるとか、どういう企業が自分を注目しているかがわかるとか、どういうスキルが買われているかがわかるとか、それを知りたいという人が増えているんです。すぐに転職しよう、というのではなく、自分のキャリア観の棚卸しであるとか、市場価値を探れる、というメリットが求められているという印象があります」

それでも感じる違和感

社会変化とキャリア不安に若い世代の気持ちが揺れていることはわかりました。自分がどこに身を置き、どんな経験をすれば成長できるのかを真面目に考える若手が多いことも理解できます。

でも、やはり違和感が残る読者もいるかもしれません。つまり、これから仕事に関してできることを増やして、キャリアを切り開いていこうという若者が、その前に転職を視野に入れて行動する、ということへの違和感です。

キャリア開発の話でよく使われるWILL、CAN、MUSTの枠組みを使って説明しましょう。

会社に入りたての若手は、CAN(できること)がほとんどない状態。入社にあたって人事担当者は「MUST(やるべきこと)に取り組んでCANが増えれば、WILL(やりたいこと)に近づくことができる」などと説明します。

MUSTに取り組み始めたばかりなのに、まだ見えないWILLを求めて転職サイトに登録するのはおかしくはないか?まだCANも身についていないのに。これが違和感の正体です。

もちろん、転職サイトに登録する新人たちも、MUSTをないがしろにしているわけではないでしょう。WILLに思いを馳せながら、MUSTに取り組み、CANを積み上げる日々を送るはず。違和感はひとまず棚に上げて、彼らの不安を軽減し、成長をサポートすることが企業の先輩層には必要でしょう。

企業側も対応を変え始めている一面もあります。オンボーディングという言葉が人事では一般的になりました。これは、同じ船に乗り組む仲間として、研修や1on1などさまざまなコミュニケーション施策によって、きちんとチームに馴染んでもらう、という手法を指します。

企業もほしい人材像を具体的に提示する必要

また採用が売り手市場となる中で、企業もキャリアのロードマップをはっきり提示せざるを得なくなってもいます。具体的にいうと、どういう人材を募集していて、その業務によってどんなスキルが得られ、市場価値がどのぐらい上がるか。それらを提示していかないと、採用獲得競争に負ける恐れがあります。

繰り返しになりますが、若手人材の成長志向は高まっています。だからこそ、なおさら企業のサポート力が問われている、ということになるでしょう。


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(間杉 俊彦 : フリーライター)