2023年10月1日から始まる「インボイス(適格請求書)制度」。事業者が気をつけたい実務ポイントとは(写真:NOV/PIXTA)

2023年10月に始まる「インボイス(適格請求書)制度」に向け、国内の企業では自社システムの見直しが加速しています。その対応が不十分だと、取引先に不信感を与える可能性や、消費税の納税額に誤りが生じるリスクもあります。「会計ソフト」の導入や見直しをする際、どんな点に留意すればよいのでしょうか。『企業実務7月号』を抜粋・再構成し、インボイス制度にくわしい税理士・中小企業診断士の服部大さんが解説します。

2023年10月1日から始まるインボイス制度は、複数税率に対応した消費税の仕入税額控除方式です。さまざまな改正点に対応するため、事業者は次のようなポイントについて適切に対処しなければなりません。

気をつけたい3つの実務ポイント

(1)請求書フォーマットの変更

インボイス制度においては、「適格請求書発行事業者(以下、発行事業者)」として登録を受けた事業者は、インボイス(適格請求書)を発行することが可能です。

現在の請求書の記載項目と比較すると、インボイスでは次の項目を記載するように追加・変更されています。

●登録番号
●税率ごとの税抜または税込価額の合計額、適用税率
●税率ごとに区分して合計した消費税額等

なかでも、「登録番号」の記載は大きな変更点であり、インボイス登録を行なう企業については、税務署への登録申請手続きに加えて、自社の請求書フォーマットの改定にも取り組まなければなりません。

(2)登録番号の照合

インボイス制度開始後は、インボイス以外の請求書に基づいて支払った消費税については、「仕入税額控除」に制限が加わります。仕入税額控除とは、課税事業者が消費税の納税額を計算する際に、仕入などの経費とともに支払った消費税を、売上などで預かった消費税から控除する仕組みを指します。

インボイス制度が始まると、インボイスの発行を受けて消費税を支払う場合には、従来どおり仕入税額控除が可能です。一方で、免税事業者などが発行する「インボイス以外の請求書」に基づいて消費税を支払う場合には、2029年9月30日までの6年間で、仕入税額控除が段階的に縮小されてしまいます。

したがって、企業は支払先から発行を受けた請求書が、インボイスの要件を満たすか否かを確認する必要があります。そして、そのためには請求書に登録番号の記載があるかどうかを確認するだけでなく、記載された登録番号を国税庁の「適格請求書発行事業者公表サイト」で照合しなければなりません。

(3)記帳方法の確認

先述したとおり、インボイス制度開始後においては、支払先から発行される請求書がインボイスかどうかによって、仕入税額控除の計算に違いが生じます。ただし、経過措置によって免税事業者等が発行する「インボイス以外の請求書」の場合でも、2023年10月1日から3年間は仕入税額の80%、2026年10月1日以降の3年間は仕入税額の50%を控除することが可能です(図表1)。

(※外部配信先では図表などの画像を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)


(図表:本書より引用)

しかしながら、この経過措置については、経過措置の期間内であれば自動的に適用されるものではなく、「80%控除対象」など、経過措置の適用を受ける旨を記載した帳簿を保存しなければならないため、注意が必要です。

社内システムに求められる機能

インボイス制度に伴って自社システムの導入・見直しを行なう場合、効率的な業務遂行に適したものを選択することが重要です。具体的には、「会計」や「請求」「販売管理」「経費精算」「レジシステム」の区分ごとに、(図表2)のような機能を有していることが望ましいでしょう。


(図表:本書より引用)

(1)【会計】インボイスとそれ以外の請求書の区分管理

消費税の納税額を正しく計算するために、会計ソフトではインボイスとそれ以外の請求書による取引を区分し、適切な仕入税額控除を行なう必要があります。

また、「インボイス以外の請求書」による支払いの場合、帳簿には経過措置を適用する旨を記載しなければなりません。

会計ソフトを選ぶ際には、これらの機能を備えていることに加え、日頃の会計処理の負担を軽減するためにも、AIなどによる自動化が可能なサービスを選ぶとよいでしょう。

具体的には、仕入先や外注先ごとに発行事業者か否かを事前に設定することで、消費税区分の自動判定が行なわれる機能や、発行事業者以外への支払いとして仕訳処理を行なった場合、帳簿に経過措置を適用する旨が自動的に記載されるなどの機能が想定されます。

(2)【請求】インボイスの作成・保存

請求システムは、自社発行の請求書フォーマットをインボイス仕様に変更する必要があります。

なお、インボイス制度開始後は、請求書における消費税の端数処理についてもルール変更があります。これまでの請求書では、商品ごとに消費税の端数処理が可能でしたが、インボイス制度においては、各インボイスにつき、税率ごとの合計額に対して端数処理を行なわなければなりません。

保存要件を満たしたシステムかどうか

また、自社が発行したインボイスについては、その写しを保存することが義務付けられているため、保存要件を満たしたシステムであるかも重要なポイントです。

さらに値引や返品、割戻しを行なった場合には、「適格返還請求書」を発行する必要があるため、記載要件を満たすフォーマットで作成可能かどうか、あらかじめ確認しておく必要があります。

したがって、インボイス対応に向けて請求システムを検討する際は、登録番号の記載だけでなく、端数処理や保存要件などについてもしっかりと確認しましょう。

(3)【販売管理】取引先の管理

販売管理システムでは、取引先ごとにインボイスの発行事業者か否かを区分し、適切に管理する機能が求められます。特に仕入先については、それらの区分に基づいて仕入税額控除の計算にも違いが生じるため、正確なマスタ管理が必要です。

また請求書の発行機能を備えたシステムの場合には、先述したとおり、インボイスの記載項目や端数処理のルールに則った様式によって作成しなければなりません。特に納品書と請求書を併せてインボイスの記載項目を満たす場合には、納品書の様式についても注意が必要です。

(4)【経費精算】領収書の読取り

社内の経費精算システムについては、領収書やレシートからインボイスか否かをチェックする機能が有効です。支払先が発行事業者に該当するかどうかについては、タクシー代や飲食代、消耗品費などについても確認が必要です。

そのため、各従業員が経費精算を行なう際にも、経理担当者は受領した領収書やレシートに登録番号が記載されているかチェックし、さらに記載された登録番号を国税庁の「適格請求書発行事業者公表サイト」にて照合しなければなりません。

これらの一連の確認手続きを手作業で行なう場合には、業務負荷の増加が避けられません。AI-OCR機能が搭載された経費精算システムなどを活用し、領収書に記載された登録番号の読取りや、公表サイトとの照合作業を自動化することも効果的でしょう。

簡易インボイスの発行が可能か確認


『企業実務7月号』(日本実業出版社)。書影をクリックすると企業実務公式サイトにジャンプします

(5)【レジシステム】簡易インボイスへの対応

小売業や飲食店業など、レジシステムを利用する場合にも、インボイス対応が欠かせません。不特定多数の顧客に対して販売などを行なう場合には、「簡易インボイス(適格簡易請求書)」の交付が可能です。

簡易インボイスでは、領収書やレシートに顧客の氏名の記載が不要となることや、適用税率または消費税額等のいずれかのみの記載でよいなど、通常のインボイスよりも軽微な記載内容が認められます。そのため、登録番号の記載や端数処理のルールなどに加え、簡易インボイスの発行が可能かどうかも確認しましょう。

※後編は8月9日(水)に配信予定です

著者プロフィール
服部 大(はっとり だい) 
服部大税理士事務所/合同会社「ゆとりびと」代表社員。税理士法人で8年間勤務したのち、2020年2月に名古屋市で開業。これまで年商数百万円〜数十億円の個人事業主や法人の月次監査を担当。「わかりにくい税金の世界」をわかりやすく伝えられる専門家を志し、個人事業主や中小企業の税務相談・経営サポートほか、「税理士ドットコム」「マネーの達人」をはじめ多数の監修・執筆実績をもつ。https://zeirishihattori.com

(企業実務)