高速バスツアーで初めて長岡花火大会を見に行くことにした(筆者撮影)

新型コロナウイルスの5類引き下げ以降、初めて迎えた夏。全国各地で多くの夏祭りが復活しているが、夏の風物詩、花火も多くの地域でコロナ以前の規模で開催されている。

規模の大きさや特色ある花火の打ち上げを競う数ある大会の中でも、最も人気の高い花火大会の1つが、新潟県長岡市で毎年8月2〜3日の2夜にわたって行われる「長岡花火(正式には長岡まつり大花火大会)」であることに異論を挟む人は、おそらくいないであろう。

地元でも「日本一」と称しているし、実際にこれまでも2日間で100万人を超える観客が夜空の饗宴を楽しんできている。「一度はこの目で見てみたい」、そう思いながらなかなかその夢を果たせないで来たが、今年6月、長岡市で講演を行ったことをきっかけに急速に行きたい気持ちが高まり、初めて足を運んでみることにした。

0泊2日の弾丸高速バスツアーで参加

しかし、期日が迫っていたことと今年からすべての観覧席が事前予約による有料席となったこともあって、個人旅行ではなくバスツアーを探してみたものの、大手旅行会社のバスツアーはどこも「キャンセル待ち」。

ダメもとでそのうちの1社の「キャンセル待ち」を申し込んで期待せずに待っていたところ、7月末に旅行会社「クラブツーリズム」で予約が取れ、「0泊2日の弾丸花火見物ツアー」に参加できることになった。


筆者が乗った長岡花火へのツアーバス(高坂SAにて筆者撮影)

なんせ、0泊2日である。花火の本番とその前後の“のりしろ”の部分を除けば、ツアーの大半はバスで関越自動車道を走っているかSA/PA(サービスエリア/パーキングエリア)で休んでいるかだ。そこで、この高速道路堪能ツアーでもある旅を、高速道路愛好家の視点でトレースしてみたい。

出発前々日の夕方、ツアーの添乗員から「バスは4台で出発し、あなたは2号車です」との電話があった。「人気が高いんだなぁ」と感じ入りながら、当日の朝10時半、集合場所の新宿駅西口から少し歩いた都庁横のツアーバス乗り場に行ってみると、そこにいるバスは4台どころではなかった。

長岡花火を見るツアーは、大きく分けると「0泊2日」と「1泊2日以上」がある。「0泊」は花火終了後、すぐにバスに乗って夜通し高速道路を走り、明け方に東京などへ戻ってくるコース。

「1泊以上」は花火終了後、長岡からさほど遠くない場所に宿泊し、翌日あるいは翌々日まで、長岡とは別の場所を観光して夕方から夜にかけて戻ってくるコースで、その両方のツアー参加者が、いくつもの列に分かれて集まっていたのである。


クラブツーリズムの1泊2日の長岡花火ツアーバス(筆者撮影)

4台というのは、上野始発・新宿経由で「0泊」コースのバスだけだったことが行ってみて判明した。筆者が乗った2号車は、38人の参加者を乗せて午前10時40分に新宿を出発。バスは、クラブツーリズムの専用車ではなく、日の丸自動車という大手観光バス会社による運行であった。

青梅街道に入ったバスは環七から目白通りの渋滞を何とかすり抜け、関越道に入る。渋滞とまではいわなくとも、商用車のほかに群馬県や信州、そしてこのバス同様、新潟県などに向かうであろう家族連れの乗用車など、多くのクルマが走っていた。

3度の休憩を経て約6時間で長岡へ

最初の休憩地点は、高坂SA。フードコートは大混雑で、提示された20分ほどの休憩時間で食べられそうもないので、ここでの食事はあきらめた。次に停車した赤城高原SAでは、40分近い休憩時間をもらえたので、ラーメンを食べることができたが、それでも午後1時半を過ぎていたのにフードコートはかなりの待ち時間を要した。


午後1時半を過ぎても混雑する赤城高原SA(下り)のフードコート(筆者撮影)

3度目は、関越トンネルを抜けて塩沢石打SA。売店では長岡花火をデザインしたパッケージの箱菓子が数多く売られており、帰路は深夜になって買えるかどうかわからないので、先に購入しているツアー参加者が多く見られた。また、ここで夕飯用の弁当が搬入され、各自に配られた。

長岡市域に入ったバスは、花火の観覧会場最寄りの長岡ICではなく、混雑を避けて手前の長岡南越路スマートICで高速を降り、一般道でクラブツーリズムの団体専用パーキングスペースに到着。新宿を出発して、ほぼ6時間が経過していた。

専用の駐車スペースになっているのは、市営陸上競技場の駐車場で、次から次へと貸し切りバスが入ってくる。さまざまなバス会社の車体と日本各地のナンバープレートがやってくる様は、壮観だ。

ここで乗客は降りて、「マス席」「イス席」「スタンド席(陸上競技場内)」など、割り振られた席へと案内される。

しかし、まだ花火のスタートまで3時間近くあり、観覧席付近は炎天下で逃げ場がないので、近くのショッピングモールに避難した。ここも大混雑で座る場所はなかったが……。


花火大会が始まる直前のイス席会場の様子(筆者撮影)

現地で見る「日本一」の花火の迫力

夜7時20分、西の空に夕焼けの残照が消えかかる頃、「慰霊と平和への祈り」を込めた3発の10号花火を合図に、長岡大花火が始まった。

筆者が座ったのは、信濃川の左岸(長岡IC寄り)の河川敷にパイプ椅子が並べられた「イス席」。打ち上げはほぼ真正面の河原からで、仰ぎ見るような角度で花火を「浴びる」状態で観覧できる。

平原綾香が歌う『Jupiter』に連動して打ち上がる、長岡花火の粋「復興祈願花火フェニックス」は、横幅2kmにわたる大仕掛けで、全天が花火で覆われるような錯覚に陥る。ほぼ2時間、間断なく打ち上げられる巨大な夏の夜の華に、周囲の観客も酔いしれる様子が伝わってきた。


空を埋め尽くさんばかりの美しい花火(筆者撮影)

長岡花火は、これまでもNHKなどでほぼ毎年生中継が行われ、筆者も画面を通じて何度も観覧していたが、画面では伝わらない巨大さと腹に響く音の迫力は現地でしか味わえないものであり、100万人もの観客を集める理由がよく分かる。

花火大会が終了したのは、午後9時20分。観客の波にもまれながら10時前には、下車した駐車場で待っていたツアーバスに戻ったものの、周囲の道路の渋滞や東京に着く時間を始発電車の運行に合わせるような調整もあって、バスが駐車場を発車したのは、花火が終わってからほぼ2時間を経過した11時15分。


花火大会の帰りの混雑を示す立て看板が出ていた(筆者撮影)

帰路も長岡南越路スマートICから関越道に乗って、赤城高原SAに午前1時35分に到着。駐車枠は大型トラックとツアーバスで満杯で、なんと売店のレジの行列も絶望的なくらい長かった。

長岡花火は、バスツアーだけでなくマイカーでやってくる観客も多いので、レジの行列の何割かは「花火帰り」の観光客であろう。ここで25分の休憩を取り、さらに関越道最終の休憩地三芳PAで30分休息をし、空がかなり明るくなった午前4時45分、新宿駅西口のロータリーの一角にバスは戻った。

今回の高速道路の走行距離は、往復477km。休憩時間も含む高速道路上の滞在時間は、8時間45分だった。ちなみにこのツアーの参加費は、2万9000円。有料席代(イス席)が3500円で、それに夕飯用の幕の内弁当が付くので、バス代金は実質2万5000円程度という計算になる。

花火大会の隆盛とそれを支える高速道路

日本一と称され、100万人もの観客を集めるビッグイベントである長岡花火。同行した添乗員に聞いたところ、クラブツーリズムだけで150台ものバスが、この花火大会のツアーで稼働しているという。


長岡市のクラブツーリズム専用のバス駐車場の様子(筆者撮影)

会場ではHISや阪急交通社、読売旅行など数多くのツアー客も見かけたので、全部合わせると500台を超すバスが高速道路を疾駆して長岡へ集まってきていたことだろう。そう考えると、巨大イベントが高速道路とその道路を運行する多くのバスおよび運行スタッフに支えられていることが、改めて実感できる。

もちろん、長岡花火の観客輸送には上越新幹線も大きく貢献しているが、東京行きの最終列車が長岡駅発22時01分で、終了後の混雑を考えると要領よく駅に戻らないと乗り遅れることになりかねない。


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新幹線も在来線もこの区間に夜行列車はないので、長岡市かその周辺に泊まるしかなく、しかも宿は早くから満室となる。弾丸ツアーバスは確かに疲れるが、花火見物には貴重な手段であり、だからこそ膨大な貸し切りバスがその需要を支えていると言えよう。

なお、近年は長岡を意識してか、見ごたえのある花火大会が増えている。全国の業者によるデザイン花火が魅力の山形県鶴岡市の赤川花火大会、四尺玉が上がる埼玉県鴻巣市の「こうのす花火大会」なども、長岡と同様に全国規模で注目されるようになった。高速ドライブや高速バスツアーの目的地が花火大会というケースは、今後さらに増えそうな勢いである。

(佐滝 剛弘 : 城西国際大学教授)