(写真:NOV/PIXTA)

猛暑が続いており、清涼に冷たいものが美味しい。夜はビールやチューハイが美味しい季節だ。しかし、泡ばかり多いジョッキのビールや氷だらけのチューハイにがっかりした経験がある読者も多いのでないだろうか。大ジョッキ、中ジョッキ、グラスといった容器の大きさで金額は違っていても内容量はわからないことが多い。

日本では食品の内容量や成分表示は食品表示法で法的な義務づけがある。しかし、この法律は、レストランなどその場で調理して提供される食品については表示を義務づけていないのだ。だから表示がないことが多い。

最近の筆者の経験を踏まえてこの問題を考えてみよう。

氷だらけのチューハイ、わずか45mlの焼酎ロック

東京都内のある寿司屋で「デカ!レモンサワー」を注文した。内容量の表示はなく、たしかに容器はでかいのだが、氷がぎっしり入っていて数口で飲み干してしまうほどの量しかなかった。

埼玉県内のある日帰り温泉施設で焼酎ロックを頼んだ。日本酒は1合という表記があったが、焼酎にはなく、520円と安くない値段だった。届いたグラスには底にわずか数センチほどしか焼酎が入っていなかった。

【2023年8月10日14時35分追記】初出時の「焼酎ロック」の表記について一部文言を削除しました。

あまりにひどいので、店員に内容量を尋ねたところ45mlだということだった。ネットで検索するとまず、決まった基準はないが、60〜90mlとしているところが多いようだ。明らかに45mlは少ない。

東京都内の北海道産の食品等を扱う店舗ではソフトクリームが人気商品だ。バニラ、夕張メロンソフト、あるいはそのミックスが選べるが、牛乳もメロンも北海道を代表する食材であり、連日売り場でも行列が見られる。

夕張メロンの含有量についてはどこにも表示がない。そこで尋ねてみたがわからないという。メーカーに問い合わせてみるということで数日を要し、果汁の含有量は、0.8567%ということだった。

埼玉県内のファストフード店で「アップルマンゴーソフト」が大きなイメージ写真を掲載して販売されていた。マンゴ果汁の含有量を店員に聞いたがわからないという。店の奥に入って材料の包装物などを確認しているようで、答えは「たぶん果汁は入っていない」だった。

なぜ飲食店には食品の表示義務はないのか

食品表示法は食品の表示を義務づけている法律で、食品衛生法、JAS法、健康増進法の食品の表示に関する規定を統合して食品の表示に関する包括的な法律となった。しかし、同法で表示が義務づけられるか否かは商品の販売形態によって異なり、わかりにくい。

以下は一般消費者向けの加工食品の販売形態ごとの適用範囲をまとめたものだ。対象外の販売形態も多いことがわかる。

・製造場所以外で販売(容器包装あり)→適用対象

製造場所以外で販売(容器包装なし)→対象外

・製造場所で対面販売(容器包装あり)→適用対象(安全関連事項のみ義務)

製造場所で対面販売(容器包装なし)→対象外

外食等その場で飲食→対象外

ではなぜすべての販売形態で食品表示を義務づけないのであろうか。食品表示の適用範囲について2011年12月に消費者庁食品表示課が「食品表示の適用範囲について」という資料を公表している。

食品表示法制が食品表示法に一本化される前のものだが、食品表示に関する法令の適用対象となっていない外食などの販売形態について、「今後、食品表示のあり方についてどのように考えるべきか」という問いかけに対して、「新たに表示をしたり、表示事項を増やすことは、事業者にとってコストアップの要因であり、それが消費者価格に転嫁される可能性がある。その場合には、転嫁されたコストを購入した全ての消費者が負担することに留意が必要」と説明している。

さらに、消費者庁は、「現行の食品表示制度では、対面販売、店頭での量り売りや、レストランなどの飲食店などには、アレルギー表示を含む食品衛生法に基づく表示義務は原則として課されていません。これらの販売形態は、対面で販売されることが多く予め店員に内容を確認した上で購入することが可能であることや、日替わりメニュー等の表示切替えに係る対応が困難であることなどの課題もあることなどから表示義務が課されていないところです」とコメントしている(2012年11月1日食品安全委員会公表資料「Q&A 外食やお持ち帰り食品にもアレルギー表示の義務化を」における消費者庁コメント)。

景表法は表示がない商品を問題視できない

ちなみに、景品表示法(景表法)という法律がある。同法はすべての商品やサービスに適用される。この景表法は市場監視型の法律だ。

一方、食品表示法は事前規制法だ。事前に行政が表示対象や表示方法などを具体的に定める。

景表法は「優良誤認」(商品の品質や性能に関する虚偽表示)や「有利誤認」(価格や販売期間などの取引条件に関する虚偽表示)があるかを消費者庁が市場に出回っている商品につき調査する。そして問題があれば「措置命令」によって当該表示を排除するという制度だ。

したがって、表示がない商品を問題視することができない。内容量が400mlなのに500mlと表示したとか、外国産牛ステーキなのに和牛ステーキだと表示したような場合に機能する。

ただし、景表法に基づいて各業界ごとに公正競争規約が定められていることが多い。これは事前に事業者団体(公正取引協議会)が自主ルールとして具体的に表示方法を定めて加盟各社が従う。しかし、例えば、ビールにはビール酒造組合が定める「ビールの表示に関する公正競争規約」があるが、ジョッキやグラスでビールを提供する飲食店には適用されない。

食品表示法が表示義務を外食に求めていないのは前述の消費者庁のコメントの通りだが、筆者が重要だと思うのは、「対面販売なのだから消費者が知りたければ販売者に聞けばよいから」という理由だ。

販売者は自らが販売する商品について衛生面や品質、内容量等について責任を持っているということは大前提であるはずだ。しかし、表示義務がないことで、自らが売っている商品の内容物や内容量を把握していなかったり、不誠実な商売をしていることが多々見られるように思う。

消費者も関心をもって問い合わせを

すべての販売形態に食品の表示義務を課すべきとは思わないが、現状は問題が多いと思う。しかし、法規制を求めるだけが解決手段ではない。消費者も自らが口にする食品にもっと関心を持ち、疑義があれば問い合わせる姿勢を持つべきだ。

前述した夕張メロンソフトは長年の人気商品なのに販売者が果汁含有量すら把握していなかった。これは、今まで消費者の誰一人として問い合わせたことがない結果だとも想像できる。消費者の権利の一つに「知らされる権利」がある。権利は自らが獲得するべきものだ。

(細川 幸一 : 日本女子大学教授)