なでしこジャパンはW杯優勝の12年前と同じ上昇気流を生み出せるか 必要な要素は?
いよいよFIFA女子ワールドカップが今日7月20日にオーストラリア&ニュージーランドで開幕する。2011年になでしこジャパンが世界を制したあの日から12年、世代交代が進み、あの景色を見た者はキャプテンの熊谷紗希(ASローマ)ただひとりとなった。前回2019年のフランス大会では、「完全に準備不足だった」と熊谷が悔やむように、けが人も多いチーム状況が響き、ベスト16で敗退という結果に終わっている。今大会はさらに若い力が加入し、平均年齢24.8歳。このメンバーで再び頂点を目指す。
大会直前のパナマとの親善試合で5ゴールを決めたなでしこジャパン
本大会前最後の国際親善試合となった7月14日のパナマ戦では、相手が格下とはいえ5ゴールを奪取。その中に藤野あおば(日テレ・東京ヴェルディベレーザ)の初ゴールも含まれていた。本人にとっては代表9試合目での初ゴール。初招集されたのはU-20女子ワールドカップを準優勝で終えたあとの昨年10月。長い時間だったに違いない。
U-20の勢いそのままに、藤野は池田太監督から連続してチャンスを与えられていた。初の海外遠征では真の"世界"に触れた。ヨーロッパチャンピオンのイングランドだ。ベストメンバーで初めて挑む3バックということもあって4−0の惨敗ではあったが、藤野はイングランドに対しても果敢に挑み、長谷川唯(マンチェスター・シティ)のスピードあふれる展開にもしっかり反応すると、芯を食ったシュートを放ち、ポテンシャルの高さを見せつけた。それでもゴールは遠かった。
「チームが勝つための力になる」
藤野がよく口にする言葉だ。瞬時にプレーの自己分析をしてピッチ上で自分なりに修正を施す。そうして少しずつブラッシュアップしていく完璧主義な一面もある。だからこそここまでのノーゴールが「すごい焦りにつながっていた」と語る。
第一優先は"他者を生かすパス"を選択しがちだった。しかし、パナマ戦はその味方を生かすよさと同レベルで、自らの足を振る積極性が見えた。中央に走り込んできたかと思えば、少し前までは中に折り返していた位置からもDFを一瞬でかわせるタイミングで思いきり振り抜いた。それでもまだ藤野に"その時"は訪れなかった。
「相手をズラしたり、試行錯誤しながらアイデアを出せた部分もあったけど、ミナさん(田中美南)が打ったシュートが自分のところにこぼれてこないーーそこまで入っていきたいけど、自分の予測ができてない。もどかしい気持ちでした」
どうしたらゴールを奪えるか、ハーフタイムも自問自答を繰り返した。
後半に向かうピッチで長谷川から、こう声をかけられた。
「今日は絶対に決めよう!」
藤野は「これで気持ちが割りきれた」と言う。「ゴールを決めるためにここに来た」と自分に言い聞かせた。そして、ゴールに近いポジションに走り込んだ藤野にようやく"その時"が訪れた。左サイドをかけあがった宮澤ひなたが中へ折り返すと手前に入っていた植木理子(日テレ・東京ヴェルディベレーザ)がスルー。ボールは藤野の足元に。珍しくもたついたが、素早く右足を振り抜いた。
「ずっと求めていたものだった」(藤野)ゴール後、真っ先に長谷川のもとへ。そしてすぐさまベンチへ向かった。「今日こそゴールを決めたい」とこぼす藤野に平尾知佳(アルビレックス新潟レディース)は「大丈夫!」だと太鼓判を押した。走り出す藤野の視線の先には、彼女以上に満面の笑みを浮かべた平尾が両手を広げて待っていた。
チームの結束は高まってきている。強度が上がるワールドカップでパナマ戦のように主導権を握ることは容易くできないだろう。なでしこが、4バックから3バックに切り替えてからの戦績は10戦5勝5敗。格上には2月のShe Believes Cupでカナダに1勝したのみと厳しい戦績ではある。けれど、2011年も直前の遠征でアメリカに連戦で惨敗を喫するなど、決していい状態ではなく、現地入りしてからも手探りのまま勝ち上がっていくことで、上昇気流を生んだ。
ひとつでも何かを乗り越えた時、チームは必ず強くなる。12年前に優勝したチームにあってこのチームがまだないものは、「粘り」ではないだろうか。また、2011年のチームには"誰も置いていかない""誰が欠けてもこのチームにはならない"という説明のつかない団結するために「吸引力」があった。ベンチとピッチが同じ温度で戦えるチームには粘りを生む原動力が備わっている。藤野がゴールしたあとのピッチ上の、そしてベンチ前に駆け出した選手たちの表情に、その可能性を見た。
日本のワールドカップは22日、ザンビアとの一戦で幕を開ける。