欧州のビッグクラブが続々と来日する7月。その一番手としてスコットランド王者セルティックが登場、横浜F・マリノスと対戦する。新シーズン、所属する日本人選手たちはどんな活躍を見せてくれるか――。

 2022−23シーズン、チャンピオンズリーグ(CL)でプレーした日本人は計6人で、セルティック所属の選手(古橋亨梧、前田大然、旗手怜央)がその半分を占めた。横浜F・マリノスでおよそ3年半采配を振った日本通のアンジェ・ポステコグルーが、もしセルティックの監督でなかったら、その数はそのまま3人減になっていたはずである。彼に感謝状を渡したくなるほどだ。

 セルティックには2005−06から2008−09までの4シーズン、中村俊輔が在籍しており、その間、CL本大会には3度出場している。2006−07シーズンにはグループリーグを突破。ベスト16入りを果たしている。マンチェスター・ユナイテッドとのホーム&アウェー戦では中村がいずれも得点を決め、話題を集めたものだ。


本拠地セルティックパークでゴールを決め大声援を浴びる古橋亨梧

 とはいえセルティックは、実力的にはイングランド・プレミアリーグに照らせば下位チームに相当すると言われる。2部(チャンピオンシップ)の上位ではないかという声もあるほどだ。すなわち、スコットランドリーグ覇者は、CL出場に関しては有利な立ち位置に身を置いていることになる。

 スコットランドリーグのチームがCL本大会に出場するためには、2シーズン前までは予備予選を勝ち抜く必要があった。それが同リーグのUEFAランク上昇に伴い、本大会出場の枠が拡大。2022−23シーズンは、前季の優勝チームであるセルティックが本大会にストレートインすれば、2位のレンジャーズも予備予選を経て本大会出場を決めた。

 ポステコグルーと日本人選手は、追い風が吹いたタイミングで、セルティック入りしたことになる。まさに裏道を抜けるようにCL本大会出場を果たした。

 想起するのはザルツブルクの一員として、CL予備予選3回戦に臨んだ2007−08シーズンの宮本恒靖(現日本サッカー協会専務理事)だ。CL本大会出場まであと1勝。シャフタール・ドネツク相手にザルツブルクは残り3分という段まで2−2。アウェーゴールの差でリードしていた。本大会出場に手に届きそうなところまで迫ったが、土壇場でシャフタールに逆転ゴールを許し、涙を飲んだ。

【実績は十分なロジャーズ新監督】

 しかし宮本は、こう言って胸を張ったものだ。「私の姿はCLを目指そうとする日本人選手の参考になったと思う。必ずしもビッグクラブに入らなくても、CL出場が狙えることを、後に続く人に示すことができた」と。

 その12シーズン後(2019−20シーズン)、宮本がつけた道筋に従うようにザルツブルクからCL本大会出場を実現したのが南野拓実だ。グループステージでリバプールと対戦すると、対戦相手の監督ユルゲン・クロップに見初められ、そのシーズン途中、リバプールへの移籍を決めるというシンデレラストーリーを描くことになった。

 旗手怜央には依然として移籍話が燻っていると聞くが、古橋亨梧、前田大然は今季もセルティックでプレーすることがほぼ決まっている。巣立っていったのは監督のポステコグルーだった。招聘されたのはトッテナム・ホットスパー。つい2年前まで横浜FMの監督だったことを考えると、2階級特進どころの話ではない。監督としてシンデレラストーリーを描いている。

 今季からポステコグルーに代わって采配を振るのはブレンダン・ロジャーズだ。前レスター監督であり、元リバプール監督。セルティックでも2016−17シーズンから3シーズン弱、采配を振った経験がある。少なくとも世界的知名度という点で、ポステコグルーに大きく勝っている。

 セルティックというチームの特異性をそこに見る気がする。実力的にはプレミアの降格圏にあっておかしくないチームながら、一方で名の知れた実績十分の監督を招く力がある。同じグラスゴーのライバルチーム、レンジャーズにも言えることだが、スタジアムに足を運べば、サッカーの母国の香りと言うべき、文字通りの本場感を堪能することができる。そこにマイナー色は微塵もない。

 セルティックの本拠地、セルティックパークは約6万人収容のビッグスタジアムである。レンジャーズのホーム、アイブロックスは約5万人収容ながら、UEFAから欧州最高級を意味する4スター・スタジアムに認定されている。

【世界的なファンの広がりこそが真髄】

 グラスゴーにはさらに、2001−02シーズンのCL決勝を開催したナショナルスタジアム=ハムデンパークもある。こちらの収容人数も約5万2000なので、同市は人口約63万に対し、3つのスタジアムで16万以上の座席数を擁していることになる。世界屈指のサッカータウンでもあるのだ。

 セルティックに関して言えば、それに民族性、宗教性が輪を掛ける。スペインで言うならばセルタ・デ・ビーゴがそうであるように、ケルト人(Celt)のチームなのだ。「Celtic」とは「ケルト的」を意味する。

 ケルト人の民族的な底力は、アウェー戦に出かければ一目瞭然となる。世界各地に点在するケルト人がこの時とばかりに駆けつけ、ホームのファンに引けを取らない熱い応援を展開する。横浜FM戦(7月19日)の会場となる日産スタジアム、ガンバ大阪戦(7月22日)の会場になるパナソニックスタジアム吹田にも、グリーンのレプレカユニフォームに身を包むケルト人サポーターが、少なからず結集するに違いない。レベル的にはプレミア下位かもしれないが、ファンの広がりは世界的。セルティックの真髄はそこにある。

 横浜FM戦は、昨季の途中からセルティックに加わり、今季レンタルから完全移籍となった岩田智輝にとって凱旋試合になる。シーズンが深まるにつれ、ポステコグルーの評価も上昇。守備的MFあるいはセンターバックとして、多機能性を発揮しながら出場機会を増やしていった。今季はチャンピオンズリーガーになることが確実視されている。

 問題はロジャーズ監督との相性だ。ポステコグルーとは横浜FM時代からの関係があった。セルティック入りも、ポステコグルーに望まれた結果、実現したものと推測される。だがジョーンズ監督との関係は過去にない。それは岩田のみならず、古橋、前田、旗手、さらには23歳のCB小林友希についてもあてはまる。ジョーンズは彼ら日本人選手に、ポステコグルーのようなシンパシーを抱くだろうか。

 昨季の主力で、チームを去った選手は、現段階ではポルトガル人FWのジョタ(ジョアン・フィリペ)ぐらいか。ジョタはカリム・ベンゼマも移籍したサウジアラビアのアル・イテハドに2500万ポンド(約46億円)で買われていったと聞く。

 代わって獲得したのが、オーストラリア代表の左ウイング、マルコ・ティリオとノルウェー代表のMF、オーディン・チアゴ・ホルム。ポジションはそれぞれ前田、旗手あたりと重なる。新たなライバルたちとの競い合いにも目を凝らしたい。