5歳の主人公「みー」のふとした疑問をきっかけに、自分のからだと心を知り、肯定する大切さを学ぶ、NHK Eテレの人気番組『アイラブみー』。主人公・みーの体験を通して、「じぶんを大切にすることはどういうことなのか?」を子どもと一緒に学ぶことができると話題です。

親から子へ伝えるべき、大切な「性教育」

6月21日には、『アイラブみー』から生まれた絵本『アイラブみー じぶんをたいせつにするえほん』(新潮社刊)が発売。ここでは番組と絵本の監修を務める北山ひと美先生に、家庭での性教育のあり方についてお話を伺いました。

●子どもへの性被害は“テレビの向こうの話”ではない

──近年、性教育の重要性がメディアでも大きく取り上げられていますよね。

北山ひと美先生(以下北山先生):子どもへの性被害や虐待は昔からありましたが、近年は、被害を受けた方が声をあげられるようになった時代背景も大きく、「被害を防ぐためにはなにが必要になるのか」がより考えられるようになりました。

性被害や虐待はテレビの向こう側の話ではなく、だれにでも起こりうる身近な話です。だからこそ、被害者にも加害者にもならないために、性教育で正しい知識を身につけていく必要があります。

一方で、残念ながら学校での性教育はそこまで進んでいません。からだの仕組みや避妊方法などは文科省の学習指導要領に盛り込まれているものの、欧州や他のアジア諸国と比較すると教える範囲や内容はかなり限定的です。

独自カリキュラムをつくって教えている教員もいますが、そうなるとどうしても地域や学校での格差が大きくなってしまう…。だからこそ家庭での性教育が重要な意味をもちます。

●「トイレのドアを閉める」。これも立派な性教育

──家庭での性教育が大切になってくるということですが、具体的には何歳からどのように進めるべきでしょうか?

北山先生:性教育と聞くとなんとなく“お勉強”なイメージをもちますが、座学のような堅苦しいものではありません。何歳からという決まりもなくて、極端に言えば「生まれたときから、周囲の大人が物事をどう捉えてどう行動しているのか?」、これが小さな子どもにとっての性教育になります。周囲の大人の言動がロールモデルになるからこそ、日常の中で“メッセージ”を伝えていく必要があります。

たとえば、小さな子どもをトイレに連れていくときがいい例です。ドアを開けっぱなしにする、もしくは一緒に中に入る保護者も多いと思いますが、一度はドアを閉めてあげましょう。些細な行動に見えるかもしれませんが、ドアを閉めることで子どもは自然と「トイレはプライベートな空間なんだ」、「パンツを下げるときには他の人を入れちゃダメなんだ」と学んでいきます。もちろん必要に応じて補助したり、ドアの前で待機するのはOKですよ。

──うまくできるか心配でつい見てしまいますが、ドアを閉めることでメッセージを伝えるわけですね。

北山先生:お風呂も同じように、石鹸を泡立てる段階までしたうえで「胸や性器、おしりは自分で洗ってごらん」と。子どもたちはこういった声がけから「プライベートパーツは自分だけが触ってもいいところなんだ」と学んでいきます。

また、親の仕上げ洗いが必要なときには「ママが洗うけどいいかな?」と必ず質問をしましょう。これも“相手に触れるときは同意を得る”と教えるメッセージになります。

●子ども自身の“性器タッチ”は悪いことではない

──男女のからだの違いなど、教える内容はどのようにステップアップすべきでしょうか?

北山先生:私が園長を務める幼稚園では、例年5歳児クラスで触れ合いのすばらしさや、からだの成長、性器の名称などを伝える時間を設けています。でも“何歳だから”と線引きせずに、子どもが興味を持った瞬間がいちばんいいタイミングになります。「赤ちゃんってどうやってできるの?」、「男の子と女の子ってなんで違うの?」など、子どもに疑問が生まれたときに向き合って話をしてあげてください。

年齢別の目安としては、国際的な性教育の指針となっている、ユネスコの「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」を参考にして書かれている本など見てもいいですね。年齢別の学習目標や教え方のヒントがまとめられています。

──「幼児期の自慰行為」に関する投稿がSNSで話題になっていますが、親はどう止めるべきなのでしょうか?

北山先生:まず、言葉の選び方や伝え方も大切なポイントです。自慰行為ではなく「性器タッチ」、「性器触り」という言葉に変えてあげると、ネガティブに聞こえず、子どもも意味を正しく理解できるようになります。

プライベートパーツは自分のからだの一部で、自分だけが見たり触ったりする場所。だから、性器タッチを止める必要はありません! そこに触れることはもちろん、触れて気持ちよく感じるのはなんにも悪いことじゃありません。

思わず、「絶対に触っちゃダメ!」、「こんな汚いところを」と言ってしまうことがあるかもしれませんが、からだを肯定的に捉えるという視点で考えると、そのような声のかけ方は避けましょう。性器に触れて心地よさを感じることは、性的発達の過程で当たり前のこと。タブー視せずに「人前では触らない」などのルールを教えてあげてください。