収納サイズにもこだわりアリ!人気コンパクト焚き火台「ピコグリル」開発秘話|The ORIGIN of the CAMP GEAR

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【The ORIGIN of the CAMP GEAR】

「本体はもちろん、スピット(五徳兼串)も、専用網も、なんなら付いてきたケースも全部が全部使い勝手良くって高過ぎない値段も含めてむしろ感謝の気持ちしか思い浮かばなかった」(原文ママ)

そう話すのはピコグリル498ユーザーでキャンプ仲間のA。せっかく取材するので「ユーザー的に知りたいことがあれば」と聞いてみたら、やたら早口でこれだけが返ってきました。お前どんだけ好きなんだピコグリル。

そんなわけでキャンプのど定番・王道アイテムを紹介する本企画「The ORIGIN of the CAMP GEAR」、今回はコンパクト焚き火台の王道「ピコグリル」をご紹介。

 

■数多ある“極薄” “軽量”な焚き火台の元祖的存在

2023年現在では当たり前になった“極薄”で“軽量”な焚き火台ですが、ピコグリルがそのトップバッターと言っても過言ではないでしょう。キャンプブームの少し前、2012年頃には知る人ぞ知る焚き火台でしたが、その後、人気キャンプ芸人が紹介したことで一気に有名に。いまではソロキャンパー御用達焚き火台と言えるほど人気の焚き火台です。

日本で最もポピュラーな398に調理機能を強化した498、複数人での使用を可能にした760の3モデルに加え、円筒形のユニークな形状の239、最軽量の85と、バリエーションも豊富。

▲改めて見ても「よくできているなぁ」と感じるフレーム

その特徴は、とにかくコンパクトで軽量、取り扱い簡単。初めてピコグリルに出合ったとき、平たい何かが出てきたと思っているうちにあっという間に焚き火台にトランスフォーム。あんぐり口を開けて「すげー」の一言だけをひたすらに口にしたのを覚えています。

ピコグリルを企画・開発・販売するSTC社の経営者兼デザイナーのブルーノ氏は「ピコグリルをデザインするにあたって、『軽さ』『安定感』『取り回しの良さ』を最初に設定しました。カヌーでの川旅がライフワークのひとつですが、当時スイスでは、サイズも大きく重量のある焚き火台が主流で、軽量コンパクトな焚き火台がありませんでした。持ち込める荷物に限りがある中で、暖を取り調理可能な焚き火台として、自らデザイン、試作を繰り返し、開発したのがピコグリルです」と話します。

ちなみにSTC社は、スイスを拠点に4名の経営陣で運営する、いわば日本のガレージブランドのような存在です。

▲ピコグリル最初のプロダクト「ピコグリル239」。398同様、収納形態は極薄になる

市場にある焚き火台を試して回ったそうですが、どれもしっくりこず。そうであれば自分でデザインして納得のいくアイテムを生み出そう! というのがピコグリルのスタートにあるとのこと。

多くのキャンパーの心を掴んで離さないピコグリル。デザイナー自らのアウトドア体験から妥協なしにデザインされたその全容を改めてじっくり眺めていきましょう。

 

■「持ち運び簡単」「炎も楽しみたい」「でも収納サイズはC4以下」への徹底したこだわり

▲収納時は、スマホと比べても大差ない厚さに。398、498ともに同程度の厚さで、持ち運びがとにかく楽

ピコグリルで一番の特徴は、極薄な収納サイズと軽さ。日本で最も人気のピコグリル398の収納時サイズは約33.5×23.5×1cmとA4サイズ程度。重量も約365gと驚きの仕様です。最適な素材選びも含めて開発までに3年ほど要したといいます。ご存知の通り、収納時は封筒袋に収まってしまうほどの薄さですが、これにも理由があります。

▲左から398、498、760。それぞれ機能性が異なるため自分のスタイルに合わせてチョイスできる

「ピコグリルの収納サイズにはかなりこだわり、特にピコグリル239と398はC4サイズ(ヨーロッパで手紙として送れる最大サイズ)以下を目指しました。C4サイズにしたことで小さなバックパックにもしまえるので、グループでのハイキングでも焚き火を楽しめますし、何よりも輸送コストを下げることでより安価にできました」(STC社 ブルーノ氏)

▲基本の構成パーツはフレームと火床だけ。オプション品も一緒に収納可能

また、独自のギミックもキャンパーの度肝を抜きました。パッケージを開ければ、細い脚に薄い鉄板だけ。「本当にこれで焚き火できるの?」と思ったキャンパーは私だけではないはず。

それでも触ってみると、開くだけで自立するフレームに、薄い鉄板を開いて脚にセットするだけ。初めて触ったときは「なんか壊しちゃいそう」とおっかなびっくりでしたが、慣れてしまえば即セットアップ完了。パパッと焚き火の準備ができちゃうわけです。

▲火床は広げるだけで余計な組み立て作業がいらない。収納ケースの中も汚れにくくなっているのは地味に嬉しいポイント

「火床の重心が低めなので安定感がある。組立だけでなく収納も簡単で、火床をそのまま内側に折りたたむだけ。これは他にも利点があって、汚れた面同士を合わせて収納するので、収納バッグ内を汚すこともない。平たいのでザックに入れやすいし、MTBでのバイクパッキングの際にもパッキングしやすい。収納性について文句のつけようがなくて困っています」(キャンプ仲間 A)

って…困る必要ある?

 

■焚き火台としての機能も譲らない独自のV字火床

とはいえ「いやいや、そんな小さくたって、どうせ大して燃えないんでしょ?」なんて思っていました。しかし実際は、みなさんご存知の通り、この焚き火台よく燃えます。

▲V字形状の火床なので、着火時も薪で火種を潰しにくく、簡単に焚き火を始められる

その秘訣は火床のデザイン。火床の連結部分となる部分を中心にV字型に傾斜がついた独自構造が空気の通り道を作り出し、効率よく薪を燃焼させます。さらに吸気のためのスリットもあるため、小型にも関わらず、焚き火台としてしっかりと機能するわけです。これは、サイズ感や機能が異なる398 / 498 / 760に共通した機構ではありますが、全く同じではなくそれぞれに合わせて設計されています。

「登山口をベースキャンプに焚き火を楽しむことや、自転車でのバイクキャンプをすることが多いので、一般的な焚き火用の薪(35cm前後)がそのまま入る幅広のサイズが確保されているのがいいですよね。」(キャンプ仲間 A)

▲パッキングサイズが薄く小さいので、軽量なキャンプスタイルにぴったり

とはいえ、長時間の焚き火には少し弱いかなというのが個人的な印象。長い時間焚き火して灰が溜まると、どうしても空気の通りは悪くなります。大型の焚き火台に比べると火床が狭いので、当たり前といえば当たり前なんですが。

▲「とにかく焚き火を楽しみたいんじゃ!」という方には760(写真右)がおすすめ。火床がふた回りほど大きいのでより長い時間焚き火を楽しめる

ちなみに、そもそもそういう設計思想なのだから当たり前なのですが、一番人気のピコグリル398は、クッカーで煮込みつつ、その隣で焼き物できるくらいの絶妙なサイズ感です。だからこそ、ここまで人気になっているわけですが、市販されている小型の網などを代用しているキャンパーも多いですね。

公式でも別売でスピット(※五徳兼串 600円)や専用グリル網(1500円)が販売されています。キャンプ仲間A曰く

「スピットは五徳としての使い勝手はもちろんですが、デカいソーセージやベーコンを刺して焼けるのもお気に入りポイント。グリル網も強度十分。小型のホーロー鍋で米を炊くのが好きなんですが、2合も炊くとかなりズッシリ。それでも難なく支えてくれます」とのこと。

ほかにも旅先のおいしい食材を諦めずに済むのもピコグリルだからこそ。

「通常のクッカー&バーナーでは調理しにくい貝類、焼き魚、焼き鳥、分厚い肉、丸ごと野菜等を気軽に晩飯候補に入れられます。余計な調理器具を省略できるのも最高」という。

個人的には「グリルトング」(3500円)を買おうかどうか本気で悩んでいます。見た目がかわいい割にしっかりと機能がついていて、いいとこ突いてくるよなぁ。

 

■軽量コンパクトながらも十分な耐久性の秘訣はバネ用ステンレス鋼にあり

また、強度もピコグリル開発のこだわりポイント。

▲太めの薪を2、3本入れても難なく使える。しかも、わざわざ薪を割らなくてもいい

太い薪を載せても問題なく、熱を入れても変形に耐えられる、そして何より長いこと使える。小型・軽量でありつつも十分な耐久性を持たせるため、とにかく素材を探しては試す日々だったそう。

試行錯誤を繰り返す中で目をつけたのがバネ用ステンレス鋼。錆びによる腐食に強く、取り扱いやすく、強度も高いのが特徴です。

▲火床の底の熾火っていい。夜、灯りを落として熾火のゆらめきを眺める時間のなんと贅沢なことか。

とはいえ、さすがにハードに使いこなせば故障もします。そんな時でも安心のアフターケアもばっちり。正規販売店のPikari Outdoor-shopでは火床やフレームを単体パーツとして販売しているので、より長く愛着を持って使い続けられるようになっています。

「火床やフレームなど交換可能なパーツやアイテムであれば、弊社で販売しています。スイスが本国なのでなかなか難しい部分もありますが、STC社も『長く愛用してほしい』と協力してくれていて、パーツがない場合でも可能な限り対応できる体制を取っています」(Pikari Outdoor-shop 光山さん)

キャンプ仲間で愛用者のAも「ガシガシ水洗いをしたり使いすぎで火床に穴や亀裂が入ってしまいましたが、フレームは変わらず使えるので買い替えはもったいない。公式のパーツ販売で火床だけ買えるため、パーツ交換しながら使い続けられるのが本当にありがたいです」と話していました。

 

■環境保護への強い意志

小さくて軽い、収納サイズも小さい。しかも強度も十分。これ、実は環境への配慮も意図したデザインなのだそう。

「小さければその分必要な材料も少なくて済みます。材料が少なければ、材料を作るためのエネルギーも減る。収納サイズを小さくできれば、輸送も省エネ。ひとつの道具を長く使うことができれば、もちろんその方が環境負荷は低くて済みますから、長期間の使用に耐えられるギアでありたかったのです。だからこそ、使用している素材はオールステンレス。すべてステンレスなのでリサイクルも非常に簡単です。これはピコグリル398に限らず、STC社のすべての商品で共通しています」(STC社 ブルーノ氏)

▲焚き火後の火床裏面。このテンパーカラーが“自分専用”感があり、たまらない

使用する際は「火床が薄く重心も低いので、厚めの耐熱シートを使うのがおすすめ。実際に少し苔を焦がしてしまったので。もしカーボンフェルトを使うなら、フェルトにたまに水をかけてあげると良かったですね」(キャンプ仲間 A)とのこと。低めの焚き火台は芝生を焦がしてしまうこともあるので、神経質になりすぎる必要はありませんが、地面への遮熱対策を考えながら使うとより良いでしょう。

 

■実はピコグリル498、760は日本発祥だった!?

遠くスイスのブランドですが、実は日本のキャンパーたちの声がピコグリルの開発に大きく関わっているんだとか。

▲日本のファミキャン、グルキャン需要を受けて開発された760。みんなで火を眺めるも良し、それぞれ料理を作るも良しの抜群のサイズ感

「2012年の取り扱い開始以降、最低でも週に一回は販売状況や日本市場の様子をSTC社に共有しています。より良い商品開発に活かしてほしいというのがその狙いでした。実際、ピコグリル498やピコグリル760は日本のニーズを汲み取った商品です。『焚き火調理をもっと本格的に楽しみたい』というソロキャンパーの声が498に、『大人数でのキャンプでも使えるサイズ感がほしい』というファミリーやグループキャンパーの声が760を開発する原点になりました。」(Pikari Outdoor-shop 光山さん)

本国スイスではハイキングシーンでの使用が多く、収納性や調理に特化した239が人気。

そんな中、日本のグルキャン文化やファミリー需要、焚き火調理を要望するピコグリルユーザーの声を吸い上げてSTC社に共有したことで、五徳位置を変更できる焚き火調理機能を強化した498や、ひと回り大型の複数人で焚き火を囲めるサイズ感の760の開発に繋がったというのです。

▲調理機能が強化されたピコグリル498。五徳の高さを変えられるので、火力調整が難しい焚き火調理も造作ない

ちなみにピコグリルはヨーロッパ諸国、アメリカ、その他の国々でも販売されているなかで、日本での愛用者が特に多いとのこと。日本のキャンプスタイルとスイスのそれにはどこか共通点があるのかもしれませんね。

*  *  *

発売当初は物珍しさもありましたが、それ以上に使い勝手の良さやアフターサービスの手厚さがここまで人気になった秘訣なのかもしれません。

商品に関係のない話といえばそれまでなんですが、完全な余談を少し。

きっとピコグリルを取り扱いたい会社はたくさんあっただろうに、これだけ人気になっても日本の正規販売店は2社のまま。

この理由をブルーノ氏に聞いてみたところ、「確かにさまざまなショップから取引のお話をいただいたこともあります。ですが、ピコグリルを世に出してから、日本市場に広めてくれたのが今の2社なんです。そんな彼らを守りたい」そう話してくれました。

他にも「取り扱い開始時から為替価格が2倍近くになっているけど、値上げを抑えるのにSTC社も一緒になって協力している」なんて話も聞きました。なんというかこう、職人気質というか人情というか、この取材をする中で、より一層ピコグリルを好きになりました。

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>> Pikari Outdoor-shop

 

>> [連載]The ORIGIN of the CAMP GEAR

<取材・文/山口健壱>

山口健壱(ヤマケン)|1989年生まれ茨城県出身。脱サラし、日本全国をキャンプでめぐる旅ののち、千葉県のキャンプ場でスタッフを経験。メーカーの商品イラストや番組MCなどもつとめる。著書に「キャンプのあやしいルール真相解明〜根拠のない思い込みにサヨウナラ」(三才ブックス)

 

 

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