「新入生の3人に1人」がAppleのM2 MacBook Airを購入。なぜ東大・駒場キャンパスはMacユーザーで溢れるのか?
東京大学の駒場キャンパスには、学生たちの生活を支える東京大学消費生活協同組合、通称「東大生協」がある。東大生協では大学生たちにとって学業だけでなく、キャンパスライフ全般に欠かせないMacBookを「駒場モデルパソコン」として、手厚いサポートサービスを付けて販売している。その取り組みの内容と学生たちの反響を、東大生協駒場購買部の杉田豊店長に聞いた。
東大がMacを“標準パソコン”とする理由
東大生協では、2016年に「駒場モデルパソコン」(以下、駒場モデル)を企画し、標準パソコンとしてMacBookシリーズの販売を開始した。
当時13インチMacBook Airを駒場モデルとしていた東大生協。以来AppleのMacBookシリーズの中から「パソコンを必要とする学生が、一番コストパフォーマンスの良さを実感できるマシンを駒場モデルとして選定している」と杉田店長は切りだした。
筆者が東大生協を訪問した際には、Apple M2シリコンを搭載する13インチMacBook Airが駒場モデルとして販売されていた。ストレージ容量は256GB。「学生たちが学業だけでなく、さまざまな用途に快適に使えるように」という意図から、メインメモリは16GBにカスタマイズにしている。カラバリは、スペースグレイ、またはスターライトより選べる。
そもそも、なぜMacBookシリーズが標準パソコンとして採用されることになったのか。杉田店長は「いくつかの理由がある」と説明する。
「駒場キャンパスには、情報教育棟という学生に対して情報関連教育を行うための専用施設があり、そこに大量のiMacを導入しています。その施設との関係もあり、学生が時間と場所に縛られることなく学べるノートパソコンを選ぶべきと考えたことから、東大生協でもMacBookの提供を決めました」(杉田店長)
搭載する機能や仕様が機種によって異なるWindows PCに対して、Macは本体とOSの仕様が機種や世代を超えて、ある程度共通している。またキャンパス内に多くMacユーザーがいることから、使い方でわからないことや、オススメのアプリなどの情報を学生同士で共有しやすいメリットもある。
さらに「AirDrop」機能を使えば、近くにいるAppleデバイスを持つ学生同士で授業に使うドキュメントや写真などを簡単にやりとりできる。そういった機能面の利便性も、評判がよいそうだ。
学問の内容によってはWindowsとMac、両方のOSに対応できる環境が求められるが、コスト的にも学生に2台のパソコンを持つことは強要できない。その点、Macの場合「Boot Camp」でWindowsをインストールして、OSを切り換えながら使えることも、東大がMacを選択する決め手のひとつになったという(現在、Boot CampはIntelプロセッサ搭載Macでのみ利用可)。
安いだけじゃない、学生が駒場モデルを選ぶメリット
東京大学には毎年3,000人規模の学生が入学する。駒場キャンパスは、全学生が1・2年生の間に通うキャンパスだ。杉田店長によると、その中で毎年約3割の学生が駒場モデルパソコンを生協で買い求めるそうだ。2022年度は852台を販売した。
では、学生にとって駒場モデルを選ぶメリットはどこにあるのだろうか。
現在東大生協で販売されている駒場モデルの13インチMacBook Airは、2023年5月時点で219,000円(税込)。すでにMacの心得があり、後述する「先輩が教える講習会」が不要であれば、204,000円(税込)で買える。
対して、Apple Storeが学生・教職員価格で提供する同じ機種にメモリをカスタマイズした場合、販売価格は175,000円(税込)だ。
一見するとApple Storeで購入したほうが得に思えるが、駒場モデルには「東大生が在学中の4年間に安心して学問に専念できるように」という意図から、東大生協による独自の「4年間安心サポートと動産保険」がついてくる。
またAppleによる「AppleCare+ for Mac」が31,800円(税込)/3年間(MacBook Air M2の場合)で提供されていることを考えれば、駒場モデルは「本体と安心」の両方が少しお得に手に入るといえそうだ。
東大生協で販売されている駒場モデルの13インチMacBook Air
なお先輩が教える講習会は、毎年、新入生が入学したばかりの4月に構内で集中開催される。内容はMacの基本的な使い方や便利機能、東大での学びに役立つ「レポート講習会」などに広くまたがる。内容も、グループワークの進め方からレポートの作成・提出方法までと手厚い。
さらに、駒場モデルには、生協スタッフによる専用サポート窓口「こまさぽ」が無料でついてくる。授業の合間などに、パソコンの不具合に関する相談受付や、修理が必要な場合は申し込みのサポートや代替機の貸出しも行っている。各種ケーブルを忘れて登校したときに利用できる「無償貸出」のサービスもありがたい。
毎年4月には先輩による講習会が開かれ、新入生はMacやiPadの使い方を身につける(写真提供/東大生協駒場購買部)
生協スタッフによる専用サポート窓口「こまさぽ」では、Macの不具合に関する相談やケーブルの貸し出しなども受け付けている
東大ではシラバスの閲覧や履修登録、授業資料の配布やメール配信など学生のためのクラウドサービスも充実している。入学時に「学内システム準備会」として生協のスタッフや先輩が手ほどきを行う期間も設けている。
iPadとApple Pencilを使いこなす学生も急増中
パソコンを使いこなしながら学びを深めるスタイルは、今や大学生のキャンパスライフに定着した。コロナ禍が落ち着いた現在も、リモート学習環境を活かしたオンライン授業は東大でも多くの講義が採り入れているという。Slackのようなグループワークに適したコミュニケーションツールも、学びの効率改善を後押ししている。
駒場キャンパスの敷地内には、いわゆるパソコンルームだけでなく、いたるところに学生が無料で使える高速Wi-Fi環境が張り巡らされている。筆者が取材に訪れた日も、購買部に隣接する「駒場食堂」にはMacやiPadを活用する大勢の学生たちの姿があった。
キャンパス内の至るところで、MacBookやiPadを活用する学生の姿が(写真提供/東大生協駒場購買部)
近ごろは駒場キャンパスでも、iPadを学習ツールとして活用する東大生が特に増えてきた。学生からのニーズの高まりを受けて、東大生協もMacだけでなく、iPadを加えた学習用デバイスの提案に力を入れていると杉田店長は話す。
「講義のノートを取ったり、グループワークを効率化させたりするために、いまでは多くの学生がiPadとApple Pencilを活用しています。東大生協では新学期に合わせて、価格が手頃で汎用性も高いiPad(第9世代)とApple Pencilを『iPad新学期特別セット』として、先輩たちによる講習会と生協の4年間保証などを付けて79,800円(税込)で販売しています」(杉田店長)
iPad(第9世代)はセットだけでなく、単体でも販売中
東大生にとって、今やiPadは欠かせない学習ツールになっているそうだ(写真提供/東大生協駒場購買部)
新学期にはまた、駒場モデルのMacBookとiPadに、レポートや論文の作成提出などに必要なアイテムとして、プリンタ複合機を付けた「学修セット」が台数を限定して販売されている。
東大生協では、学業に役立つ周辺機器やアクセサリも多数販売している
学生が創造力を育めるように
これらの東大生協によるサポートは、駒場キャンパスの学生たちに軒並み好評価を得ているようだ。
その成果は、毎年「新入学生の約3割」が駒場モデルを購入するという数字にも表れている。杉田店長のもとにも「安心して学業に打ち込める」「新入学時のサポートがとても役に立った」などの学生からの反響が多く寄せられるそうだ。
「いま学生たちのキャンパスライフには、MacBookやiPadが欠かせません。学業以外にも、多くの学生たちが部活やサークル、プライベートな時間に創造力を育めるように、これからも東大生協としてベストな環境を提供していきたい」と杉田店長は意気込みを語った。
AirPods ProやMagic Mouse、Magic KeyboardといったApple純正品も幅広く取り扱っている
実は杉田店長自身も、AppleデバイスやさまざまなデジタルITのテクノロジーに興味関心を寄せるガジェットファンなのだという。
筆者がインタビューに訪れた頃は、ちょうどAppleの世界開発者会議「WWDC23」が開催を間近に控える時期だった。「新しいMacやOSの機能がどうなるのか、とても楽しみですね」と話す杉田店長の口もとに笑みがこぼれた。
文・取材/山本敦