今シーズンが終わると、大谷翔平(ロサンゼルス・エンゼルス)はFAになる。

 FAまで数カ月になった選手が、夏のトレードで放出されることは珍しくない。たとえば2017年の夏、ダルビッシュ有(現サンディエゴ・パドレス)は若手3人と交換にテキサス・レンジャーズからロサンゼルス・ドジャースへと移籍した。

 けれどもこの夏、エンゼルスが大谷を手放す可能性は、かぎりなくゼロに近い。


大谷翔平は一度もポストシーズンを経験していない

 エンゼルスは、ポストシーズン進出を狙える位置にいる。6月16日(日本時間17日)が終わった時点で40勝32敗(勝率.556)。ア・リーグ西地区1位のレンジャーズとは3.5ゲーム差の3位だ。

 各地区1位の3チームを除く、12チームによるワイルドカード・レースでは、4位につけている。すぐ上の2位タイ、ポストシーズン進出圏内にいるヒューストン・アストロズとニューヨーク・ヤンキースとの差は勝率だけ。ゲーム差はない。

 ここから、トレード・デッドラインの8月1日までに負けが込んでも、よほどの大型連敗がないかぎり、ポストシーズン進出の望みが潰えることはない。

 順位は相対的なものなので、単純な比較はできないが、昨シーズンのシアトル・マリナーズは68試合を終えた時点で借金10(29勝39敗)を背負っていた。だが、そこから巻き返し、終わってみれば貯金18(90勝72敗)。ワイルドカードの2番手に位置し、2001年以来21年ぶりのポストシーズン進出を果たした。

 今夏のトレード市場で、エンゼルスは買い手として動くはずだ。

 補強を行なわなかった場合、エンゼルスがポストシーズンにたどり着いたとしても、大谷がエンゼルスと再契約を交わすとは思えない。昨シーズンの終盤、大谷は試合後の会見で「エンゼルスのファンと球団が好きだ」と前置きしつつ、「それ以上に勝ちたいって気持ちのほうが強い」と語っている。

【トラウトも今年8月で32歳】

 また、エンゼルスには、大谷の引き留め以外にも、勝ちたい理由がある。マイク・トラウトは8月7日に32歳の誕生日を迎える。もしかすると、全盛期は過ぎつつあるのかもしれない。

 2011年のメジャーデビューから10シーズン目の2020年まで、トラウトの三振率が23.5%を超えたのは2014年(26.1%)しかなかった。それが、直近の2シーズンは28%前後。今シーズンも27.4%だ。

 また、OPS(出塁率+長打率)は.812。ほかの選手ならそう低い数値ではないが、メジャーリーグ2年目以降、トラウトのOPSは.935を下回ったことがない。

 2019年の開幕前に、エンゼルスとトラウトは12年4億2650万ドル(約471億円・当時)の延長契約を交わした。しかしトラウトのポストシーズン出場は、その前の2014年に3試合だけ。エンゼルスはデトロイト・タイガースと並び、現時点では最もポストシーズンから遠ざかっている。

 エンゼルスがポストシーズンへ進むために補強が最も必要なポイントは、ローテーションだろう。先発10登板以上の5人のうち、防御率3.29の大谷を除く4人は、いずれも防御率4.00を超えている。

 最大の問題は、大谷とともに三本柱を形成することが期待されていた、パブロ・サンドバルとタイラー・アンダーソンにある。

 ふたりとも好投する試合はあるものの、クオリティスタート(先発6イニング以上&自責点3以下)が2登板続いたことは一度もない。エンゼルスとしては、ローテーションのうしろを担う投手ではなく、できればエースか2番手クラス、少なくとも3番手クラスを手に入れたいところだ。

 他球団が放出する可能性のある先発投手のうち、マーカス・ストローマン(シカゴ・カブス)とエドゥアルド・ロドリゲス(タイガース)は、2点台前半の防御率を記録している。どちらも複数年契約の途中ながら、今オフに契約を打ち切る権利を持つ。

 ただし、カブスがトレード市場で売り手に回るかどうかはまだ不透明。ロドリゲスは左手の人差し指を痛めていて、復帰は早くても8月になりそうだ。

【剛腕チャップマンも獲得可能】

 来オフにFAとなる、ともに28歳のサイ・ヤング賞投手、シェーン・ビーバー(クリーブランド・ガーディアンズ)とコービン・バーンズ(ミルウォーキー・ブルワーズ)も、売りに出されるとは決まっていない。

 現時点でトレード市場に出る可能性が非常に高く、エンゼルスの需要を満たす先発投手は、ジョーダン・モンゴメリー(セントルイス・カージナルス)、ジャック・フラハーティ(カージナルス)、ルーカス・ジオリト(シカゴ・ホワイトソックス)あたりだろうか。彼らはFAまで数カ月だ。

 もちろん、そういった投手を得るには、それなりの見返りが必要になる。しかし、エンゼルスはプロスペクトを豊富に抱えているわけではない。

 各メディアが開幕前に発表したプロスペクト・ランキングにおいて、トップ100に入っていたのは捕手のローガン・オホッピー(23歳)と遊撃手のザック・ネット(22歳)に、現在はAAにいる捕手のエドガー・クエロ(20歳)くらいだ。このなかでトレード要員にできるのは、クエロしかいない。あとのふたりは離脱中ながら、それまではレギュラーを務めていた。

 ほかには、エンゼルスが手放すかどうかはさておき、先発投手のリード・デトマーズ(23歳)、外野手のミッキー・モニアック(25歳)とジョー・アデル(24歳)は、他球団が欲しがるかもしれない。3人とも元プロスペクトで、まだ25歳以下と若い。

 先発投手以外にも、エンゼルスはクローザーのカルロス・エステベスにつなぐセットアッパーがほしい。ブルペンは予想以上に健闘しているものの、勝利の方程式を確立するには至っておらず、エステベスの疲労も懸念される。

 こちらは、アロルディス・チャップマン(カンザスシティ・ロイヤルズ)が獲得可能だ。もっとも、そこまでのビッグネームでなくとも構わない。

【ポストシーズン初の二刀流?】

 野手に目を向けると、一塁手のジャレッド・ウォルシュが不振ながら、チャド・ウォーラックとマット・サイスの両捕手がよく打っていることもあり、打線全体の水準は高い。ローテーションとブルペンをグレードアップすれば、ポストシーズン進出に向けて陣容は整うはずだ。

 ちなみに、ベーブ・ルースはポストシーズン(当時はワールドシリーズのみ)において、本格的な二刀流選手としてはプレーしていない。

 ワールドシリーズ出場10度のうち、登板は1916年と1918年だけ。1916年の野手出場はなく、1918年は2試合でレフトを守ったが、野手としての先発出場はなかった。ワールドシリーズ史上2位の通算15本塁打は、1921年以降に打ったものだ。