F1サーカスはひと時だけヨーロッパを離れ、再び北米大陸へ──。

「北米のパリ」と称され、美しい街並みで知られるモントリオール。カナダGPの舞台となるジル・ビルヌーブ・サーキットは万博会場として造営された人工島・ノートルダム島の公園周遊路であり、水と緑に囲まれた美しいサーキットだ。


角田裕毅の実力はF1パドックでも認められつつある

「2日前にモントリオールにやってきて、まだ少し時差ボケはあります。昨日の夜もあまりよく眠れなくて、午前4時に起きてしまってYouTubeを見たりしていましたけど、ここは雰囲気もとてもいいですし、このサーキットを走るのはすごく楽しみです」

 そう語る角田裕毅だが、前戦スペインGPの結末にはまだ納得ができていない様子だった。

「まだ困惑しています。ペナルティ自体は厳しすぎるし、馬鹿げていると思いますし、何人かのドライバーに聞いても『アンフェアだ』という答えでした。なので今日、これからFIAと話すつもりです」

 今のルールに照らし合わせれば、あのドライビングが周冠宇(アルファロメオ)に対して「十分なスペースを残していなかった」と判断されるのは仕方のないことだった。

 ハードレーシングとブレーキングのアグレッシブさで知られる角田のなかでは「このくらいは許されるべき」という感覚があるのだろう。それに賛同するドライバーもいるだろう。

 だが、スチュワードがそう裁定を下したからには、ルールと自分の感覚にズレがある可能性もある。スチュワードの裁定に納得がいかないとしながらも、FIAの見解を聞き理解を深めたいと、自らFIAにアプローチを取った。

 納得がいこうといかなかろうと、ペナルティはマイナスにしかならない。今後のことを考えれば、改善すべきところは改善し、FIAに訴えるべきところは訴えなければならない。

 ただ、ルーキーイヤーのように文句を言うだけではなく、そのようなアプローチを採ることができるようになったのは、やはりチームリーダーとして確実にポイントを獲得していかなければならないという精神的成長の表れだろう。

【好走が期待できるサーキット】

「僕に改善の余地があるなら、今後はもっといい仕事ができるということなので、FIAと話をして彼らの考えや説明を聞きたいと思います。それによって僕が何か理解できるかもしれません」

 アグレッシブに限界まで攻めるというアプローチを変えるつもりはない──と断言する角田だが、その一方で「改善できるところがあれば変えますし、そういう気持ちはあります」とも語っている。

 カナダGPの舞台ジル・ビルヌーブ・サーキットはコンクリートウォールに囲まれており、トラックリミットのあり方も、相手へのブロックの仕方も、オーバーテイクの仕掛け方も、通常のサーキットとは異なる。

 ダウンフォースを必要とする中高速コーナーはなく、4本のストレートをシケインやヘアピンでつないだレイアウト。空力特性的にもアルファタウリAT04にとって悪くないはずだ。

 バクーやモナコなどメカニカル性能が重要となる市街地サーキットでもいい走りを見せてきた。路面のバンピーさにも強い。決してオールラウンダーではないAT04でも好走が期待できるサーキットだ。

「ここまでのところバンピーなサーキットでは悪くないですし、モナコでもかなりいいパフォーマンスを発揮できました。なので、今週末に向けて前向きです。先週のシミュレーターでの作業でも満足のいくセットアップ調整作業ができています」

 カナダのようなストップ&ゴーのサーキットでは、ルイス・ハミルトン(メルセデスAMG)が得意としていることからもわかるとおり、ブレーキングのうまいドライバーが"違い"を生み出せる。まさに、角田向きのサーキットだと言えるだろう。

 昨年はパワーユニットの投入ペナルティで予選アタックを見送ったため、実力を披露するチャンスすらなかった。だが、今年は光るものを見せておきたいところだ。

 トップ4チーム8台は別格の速さを誇っているため、中団グループとしては9位・10位の「たった2席」の入賞圏を争うことになる。それも、かなりの僅差の争いだ。

【来季シートの噂もちらほら...】

 重要なのは、予選で前に行き、できるだけ上位でレースを戦うことだ。そうすれば遅いクルマに抑え込まれたりせず、予選よりも圧倒的に優れているアルファタウリのレースペースを遺憾なく発揮することができる。

「ペナルティを受けたとはいえ、バルセロナで9位フィニッシュできたこと自体はポジティブですし、レースを通してソリッドなペースがあったと思います。今年のレースでは安定していいペースなので、今週もそれを最大限に発揮したいと思っています。問題は予選。そのポジションを上げれば、もう少しラクにレースをすることができるので、それが今週末の目標です」

 マイアミもモナコもバルセロナも、内容としてはこれ以上ない十分な出来だった。レッドブルの来季シートや2026年のアストンマーティン・ホンダのシートを巡って噂が立つのも、F1パドックが今季の角田の成長をはっきりと認めているからだ。

 ただ、ほんのわずかの綻びで、ポイントは簡単に逃げていってしまった。

 このカナダでは、完璧なレース週末を貫き通したい。その結果として、角田裕毅とアルファタウリがどこまで行けるのか──。

 そろそろ今シーズンの真の力を、結果というかたちで見せてもらいたい。