「安い、薄い、大画面」15インチMacBook Airの絶妙
6月13日に発売された、15インチのMacBook Air。極薄大画面を、手頃感のある価格で選べるシビアなマーケティングから生まれた製品だ(筆者撮影)
アップルは6月13日、新製品「MacBook Air 15インチモデル」を発売。13インチモデルと同様、シルバー、スターライト、スペースグレイ、ミッドナイトの4色展開で、価格は19万8800円〜(税込価格)。本稿では、13インチMacBook Airと14インチMacBook Proを使っている筆者が、スターライトの15インチMacBook Airを試した感想をお届けする。
画面が大きいのに「薄い」
15インチMacBook Airの最大の特徴は15.3インチという新しいサイズのLiquid Retinaディスプレーを搭載している点だ。
2022年6月に刷新し、M2を搭載した13.6インチのMacBook Airのデザインのテイストやプロセッサーはそのままに、大画面を実現した製品となる。
MacBook Airは15インチという大きな画面サイズを、大きくない追加投資で手に入れることができる、非常に戦略的な商品と言える(筆者撮影)
重さは1.51kgで、13インチモデルから270g重たくなっている。また厚みは0.2mm増し、1.15cmとなった。カバンに入れてみると小さなペットボトル1本分重たくなるが、手にしてみると非常にバランスが良く、大きくなったことも相まって、より薄さが際立つ。
解像度は2880×1864ピクセルで、13インチモデルに比べて1.26倍のピクセル数となった。実作業においては、横の長さ以上に、縦の長さの拡大にインパクトがある。
筆者はよく、画面を1:2の幅に分割して作業をする。例えば左にメモやブラウザー、右にテキストエディターやワープロという構成で、原稿を書き進めていく際にウインドーや画面を切り替えずに作業が進められるよう効率化している。この組み合わせは、ブラウザーと表計算、メモとプレゼンアプリなど、さまざまだ。
大画面を生かして、2つに画面を分割しての作業が非常に効率的(筆者撮影)
横長のディスプレーにおける大画面の優位性は、実は縦の領域が広がること。書類の一覧性が大きく高まる点は、離れがたくなる(筆者撮影)
そうした場面で、15インチMacBook Airの大きな画面サイズは、当然一度により多くの情報を表示することができるようになり、13インチのMacBook Airよりも画面のスクロールなどの操作が少なく済む。
もちろん巨大なスプレッドシートを広げてデータを一覧したり、PDFを開いて細かい文字を確認する際にも、大きなディスプレーが重宝する。
絶妙な価格設定
今回のMacBook Airのキャラクターを一言で表すなら、「手頃な価格で手に入る、大画面のポータブルMac」だ。
これまで15インチ、16インチの画面サイズを持つノート型のMacは、Proモデルに用意されてきた。例えば日本では、16インチMacBook Proの34万8800円(税込)が最低価格だった。
Proモデルを選べば、確かに画面サイズが大きくなる。しかしプロセッサーも強力になり、それを駆動するバッテリーと排熱機構で、ボディも大きく重くなる。大画面のノートブックが欲しいが、ビジネス文書の編集が中心だとすると、明らかにオーバースペックになってしまっていた。
そこで登場したのが、15インチMacBook Air、今回の新製品だ。特筆すべきはその絶妙な価格設定だ。
前述の16インチMacBook Proと15インチMacBook Airとの価格差は、15万円弱と、非常に大きい。M2も十分高速で、たまにしか動画編集をしないという人にとっては、大画面モデルに大きな出費をしなくて済むようになる。
アメリカでの価格を比較すると、製品のポジションがさらによくわかる。前述の16インチMacBook Proは2499ドルから。一方15インチMacBook Airは1299ドルからと、ほぼ倍の価格設定となっているのだ。年に8%インフレを起こしている中で、アップルは各製品カテゴリーのプライスポイントを据え置いていることから、かなり競争力ある価格設定と位置づけることができそうだ。
なお、適用される為替レートの違いがあり、MacBook Pro 16インチには126円59銭という、日本市場にとって極めて有利な価格設定をしているため、ProとAirの大画面モデルにおける価格差のインパクトが薄まっている。
下から15インチMacBook Air、14インチMacBook Pro、13インチMacBook Air。15インチモデルが極めて大きな画面サイズを得られることがわかる(筆者撮影)
一方、13インチモデルとの比較も面白い。13インチMacBook Airには、M2の8コアGPUモデルを用意し、最低価格を抑えているが、15インチモデルには10コアGPUモデルのみが用意される。同じM2チップに揃えると、13インチモデルとの価格差は1万8000円となる。
オプション1つ分の価格で大画面が選べる点は、非常に野心的で絶妙な価格設定と言える。
驚かされる「サウンド」
ボディデザインやプロセッサーなどは、13インチモデルに準じる仕様が多く、その画面サイズが主役に思われた15インチMacBook Air。
しかし意外なほどに異なっていたのが、スピーカーが奏でるサウンドだった。
13インチモデルには、ツイーターとウーハーの4スピーカーがヒンジ部分に搭載され、ディスプレーに反射してこちらに音を届ける仕組みだった。
15インチモデルは構造こそ同じだが、広がったスペースを生かして、MacBook Proと同じフォースキャンセリングウーハーを備える6つのスピーカーシステムが組み込まれた。
映像や音楽を楽しむと、内蔵スピーカーにもかかわらず、どっしりとした低音が楽しめる。しかも、不快なビリビリ音(本体が振動してしまう音)が、いくら音を大きくしても出てこない、破綻しない再生を実現してくれるのだ。
13インチと15インチを並べて、同じ音楽や動画を再生してみると、同じように空間オーディオで音の広がりや回り込んで聞こえてくるようなサラウンドを楽しむことができるが、やはり低音がしっとりとどっしり構え、外部スピーカーを用意しているかのような満足感が得られた。
Macのラインナップには、一体型デスクトップのiMacも存在しており、こちらは24インチ4.5Kディスプレーを備えている。スピーカーにもこだわりが見られる製品だ。それがあったとしても、家に置く目的のコンピューターとして、15インチMacBook Airがより良い選択肢になるのではないだろうか。
映像体験がより多く想定される、一人暮らしや勉強部屋、書斎などに、家に置く目的でも、非常に満足度が高く、日常や仕事で扱うほとんどの作業を、どこにでも持ち運ぶこともできるのだ。
意外と追加出費が多いかも
個人が手にするうえで、死角をかなり潰しつつある15インチMacBook Air。
これまでMacBook Airを長年使ってきて、大きな画面に興味を持っていた人、またMacBook Proの大画面は欲しいが、そこまでのスペックはいらないと考えていた人、さらに、個人用のコンピューターを手に入れたいという多くの人に訴求する競争力ある製品と言える。
ただし、既存のMacBookシリーズから乗り換える場合、少し出費が多くなる可能性がある。
16インチMacBook Proから買い換える人は、HDMIポートやSDカードスロットなどが本体からなくなるため、USB-Cハブなどを用意しなければならない。
またMacBook Airは長らく13インチサイズで展開されてきたため、持ち歩く人は、カバンやキャリングケースを13インチサイズで揃えてきたはずだ。
下から15インチMacBook Air、14インチMacBook Pro、13インチMacBook Air。13インチモデルより15インチモデルが0.2mm厚みがあるが、見た目も持った感じもほとんど同じだ(筆者撮影)
15インチになると、横幅3.43cm、奥行き2.26cm拡大する。数字にするとわずかな違いだが、ぴったりに作られているケースは入らず、また13インチサイズにフィットするよう作られたカバンにも収まらなくなる。
そのため、15インチモデルに買い換える際、カバンやケースも揃え直さなければならない可能性がある。そうした追加出費も見ながら、本体のメモリーやストレージ容量などの最適なチョイスをするといいだろう。
おすすめは、メモリー16GB、ストレージ512GBに増強した25万4800円(税込)の仕様だ。
(松村 太郎 : ジャーナリスト)