4月1日に社長となったカウフマン氏(右)は、最高管理責任者(CAO)として竹内会長(左)をサポートしてきた(写真:オリンパス

「グローバルメドテックに向けて基盤は整ってきた。グローバルで医療市場の高い要求値を満たしていけるように組織文化を高めていくことを、シュテファンには期待している」

2022年10月末にオリンパスが開いた社長交代記者会見。当時、社長だった竹内康雄氏(66)は、バトンを渡すことになった取締役のシュテファン・カウフマン氏(55)についてそう述べた。カウフマン氏は人事経験が長く、組織に対するアプローチに長けた人物。海外子会社をとりまとめてきた実績もある。

そして2023年4月1日。カウフマン氏が社長に、竹内氏は代表権を持つ会長に就任した。4月3日には、顕微鏡などを手がけていた科学事業の売却が完了した。買い手となったのは投資ファンドのベイン・キャピタルだ。

カメラなどを手がけていた映像事業は、こちらも投資ファンドの日本産業パートナーズに2021年に売却済み。これでオリンパスは、内視鏡と治療機器のみを手がける医療の会社となった。

世界を意識、執行役の過半が外国人に

以前のオリンパスは、大まかにいえば医療機器、カメラ、顕微鏡の3つの事業を手がけていた。

カメラは、利益貢献がほとんどない赤字事業だったものの、一般にはオリンパスの看板商品としての役割を長年担ってきた。顕微鏡はオリンパスの祖業だ。1919年設立の同社は顕微鏡の国産化からスタートした。研究機関が主要顧客で需要も安定しており、利益率も高い好採算事業だった。

2019年から社長を務めた竹内氏は、「グローバルメドテックカンパニーになる」という旗印のもと、2事業の売却など矢継ぎ早に改革を進めてきた。グローバルメドテックカンパニーとは、端的にいうと「世界で戦える医療の会社」だ。

グローバル展開に向けた変化は着実に進んでいる。新体制はドイツ人のカウフマン社長をはじめ、執行役10人のうち6人が外国籍。2022年度の6人(うち外国籍3人)体制から、医療分野を中心に大幅に人数を増やした。また4月からは、日本国内を含めた全社員にジョブ型雇用を適用。世界規模で適正な人材を登用できるようにする。

オリンパスは医療用の内視鏡で世界シェア7割を握る。カメラや顕微鏡で培ってきた光学技術を応用し、1952年に世界で初めて実用的な胃カメラの開発に成功した。

以降、内視鏡を使った医療の普及に取り組んできた。内視鏡は身体への負担を少なくした検査や手術ができる点などに強みがあり、普及活動の成果もあって世界的に市場は拡大傾向だ。

強みの内視鏡を軸に伸ばす

オリンパスには内視鏡のパイオニアとしての強みがある。医者が医療行為を学ぶ場である大学病院でのシェアが高いため、内視鏡を使う医者はまずオリンパスの機器で訓練を積むことになる。医者の間で師弟制度が浸透していることもオリンパス製品の使用が広がる要因となる。


オリンパスの内視鏡は世界で使われている(写真:オリンパス

体内に挿入する内視鏡の操作は患者の苦痛に直結する。そこで医者は扱い慣れた機器を選ぶ傾向にある。

「(オリンパスと競合の)富士フイルムは定期的に説明の機会を求めてくるが、慣れた機器をそう簡単には置き換えられない」。ある内視鏡医はそう話す。

内視鏡と並ぶ事業となる治療機器は、一般的に手術を中心とした治療に使う機器を指す。中でもオリンパスが注力しているのは、内視鏡の先端に取りつけて腫瘍などの採取に使うはさみや、内視鏡を用いて体内に設置できるものなど、内視鏡と親和性のある領域だ。

治療機器は、医療の会社として成長するための重点領域と位置づけられている。患者の症例によって使用するものが異なる治療機器は、種類を拡充することによって対処できる症例が増える。内視鏡の関連領域として治療機器を拡大することで、成長を加速させる狙いだ。

竹内社長時代の2019〜2022年度に、オリンパスは6社もの企業を買収しているが、うち5社が治療機器分野だった。2023年2月には韓国の消化器用治療機器メーカーを最大483億円で買収すると発表、6月には子会社化する予定だ。

市場において優位なポジションを維持している内視鏡に加え、関連する治療機器の拡充も進むオリンパス。ただ、オリンパスの目指すグローバルメドテックカンパニーは、単に事業内容を指すものではない。

2019年11月に発表した経営計画で示された、2023年3月期の「営業利益率20%以上」という数値目標。医療への事業集中を進めつつ効率化を徹底したことにより、計画どおり達成できる見通しだ。この20%、実は世界的な医療メーカーの利益率と同じ水準だ。

「世界水準」にも満足せず

竹内氏が「世界的な医療機器メーカー」として名指しするのは、アメリカのジョンソン・エンド・ジョンソンや、アイルランドのメドトロニック。いずれも売上高は3.5兆円超と、オリンパスの約4倍の規模だ。これらの超巨大企業は利益率も高い。つまり、開発投資に回せる資金も桁違いに多い。


技術革新のスピードが速い医療業界では、開発資金がものをいう。買収も必要になる。世界を舞台に戦うためには、高い利益を出しながらそれらを先行投資に充て続け、最先端を走り続けなければならない。オリンパスが内視鏡と周辺領域に特化すると決めたのもそのためだ。

利益率も目標としていた世界水準が近い。が、竹内氏は「社員の意識は医療の会社としてまだまだ不十分」と満足していない。「患者の安全に対する感覚がメディカルの会社の域に達していない。メディカルの会社の社員は、朝起きたら患者のことを考える。風土を変えることで利益も伸びる」と話す。

祖業の売却など会社の歴史に残る4年間を経て、医療専業、高利益率の会社に転身したオリンパス。新社長のカウフマン氏は、今後の成長の方向性について、内視鏡医療のさらなる普及拡大とAI(人工知能)診断などソフトウェア領域の強化に言及している。

医療の会社としての基盤を整えたオリンパスは真のグローバルメドテックカンパニーになることができるか。欧米の巨人がひしめく医療業界で、その舵取りに注目が集まる。

(吉野 月華 : 東洋経済 記者)