アニメ化され一大ブームを巻き起こした『もしドラ』の著者・岩崎夏海氏(写真:AP/アフロ)

 昨年11月に講談社から出版された『ゲームの歴史』が大炎上中だ。同書は、コンピューターゲームの誕生から現在に至るまでの歴史を、3巻にわたり解説するもの。

 著者は、大ベストセラー作品『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』を執筆したことで知られる小説家の岩崎夏海氏と、『映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレーーコンテンツ消費の現在形』などの著作があるライターでコラムニストの稲田豊史氏だ。

 大炎上の原因は、同書におびただしい数の誤りがあるためだ。発売直後から、識者による “突っ込み” が多々あった。

「ゲームフリーク元社員のとみさわ昭仁氏や、任天堂ゲーム機専門誌『ニンテンドードリーム』の元編集長である岩井浩之氏、PCエンジン、ゲームボーイなどの開発に携わった岩崎啓眞氏など、数々の “生き証人” らが、誤りを指摘しています。

 純粋な事実誤認から、いわゆる業界内で定説となっている “史観” から大きく外れているなど、さまざまな角度から批判が寄せられています」(ネットライター)

 発売当初、著者の岩崎夏海氏は誤りを指摘する声に対し、Twitter上で《この手の意見には全く与しない》と “反撃” したものの、現在はTwitterアカウントを削除している。また、共著者である稲田氏は同書への批判に対して一切反応していない。

 現在、同書は、アマゾンをはじめとする各種販売サイトで在庫切れ扱いになっている。版元である講談社は、

《2022年11月に刊行した『ゲームの歴史』全3巻(岩崎夏海・稲田豊史 著)の内容について事実誤認があるのではと複数の方からご指摘をいただいております。現在、編集部と著者で全体の確認作業を行っております》

 と発表しているが、

「すでに絶版・回収が決まったと聞いています。一部の誤りであれば、改定すれば直すことができますが、ほぼ全編にわたり批判を受けている状態。さすがに回収するしかないと判断したそうです」(出版社関係者)

 炎上騒ぎが大きくなるにつれ、“逆ギレ&逃走” した岩崎氏や沈黙を守る稲田氏への批判の声も高まっている。

「正直、稲田氏については、事情を知る人間の間では同情的なんですよ。と言うのも、彼はもともと “ブックライティング” でも活躍してきた人です。“ブックライティング” とは、著者から話を聞き取り、それを文章としてまとめ、一冊の本にする仕事です。いわゆるゴースト・ライターと似ていますが、クレジットが明記されます。

 彼はマーケティングアナリストの原田曜平氏の著作など、数多くの本を担当してきました。今回の仕事も基本的にはブックライティングで、この本の “中身” を考えたのは、すべて岩崎氏なんです。彼の立場からしたら、岩崎氏という “著者” がいる手前、批判に対し『訂正する』とも『すみません』とも言えないでしょうね」(同)

 実際、同書の3巻のあとがきには、

《まず、岩崎が最初のコンセプトを考え、それを稲田に話しながら、2人で議論し、練り上げたり深掘りしたりしていきます。そうしてまとまった考えを、最初に稲田が文章に落とし込み、その文章に対して岩崎・稲田の2人が、さらに加筆修正を加えて仕上げました》

 と書かれている。

「“著者” から聞き取るなかで、深堀りするのはブックライティングの仕事の一つですよ。あえて共著としたのは、ライターとして知名度の上がってきている稲田氏のネームバリューを利用したいという思いが、編集部側もしくは岩崎氏側にあったのでしょうね。

 もちろん、共著者として名前を出した以上、責任は逃れられませんけど……」(同)

 また、そもそも今回の企画に無理があったと語るのは別の出版社関係者だ。

「この本を出したのは、講談社のなかでも小中学生を対象とする『青い鳥文庫』ですよ。いわば児童書の一種なんです。だから、今回の騒動は『まんが日本の歴史』に、歴史学者から突っ込みが殺到しているような状態です。

 もちろん誤りはいけませんが、最初から “著者の独自史観でゲームを語る” という体裁にしておけば、同じ内容でもここまで炎上しなかったでしょう。

 すでにコンピューターゲームが誕生してから70年以上経ちました。逆に、本格的にゲームの歴史を網羅した本を作ろうとするなら、全3巻ではとても足りません」

 同書の回収・絶版の予定について講談社に問い合わせたところ、「すでに発表している以上のことは、現時点では何もお答えできません」と、否定しなかった。

“絶版書の歴史” が、また1ページ刻まれることになりそうだ……。