子どもの発達にまつわる悩みの対処法を伝授します(写真:beauty-box/PIXTA)

「うちの子、他の子と違うかも…?」と不安に思っている親御さんは多いのではないでしょうか? 友人や家族に相談できる人がいればいいでしょうが、わが子のこととなると、弱みをさらすようでなかなかできず、ずっともやもやを抱えてしまう……。そんな子どもの発達にまつわる親からの悩み相談のうち、2つの事例について、脳科学者が対処法を伝授します。

※本稿は脳科学者の久保田競氏と認知発達学者の原田妙子氏の新著『脳科学の先生! 子どもの発達障害の悩みを最新研究で解決してください』から一部抜粋・再構成したものです。

※本稿での子どもの発達相談への回答方針
1.どうして変わった行動をとってしまうのか、子どもの立場からの視点を提示
2.それに関連する脳科学や発達心理学の最新研究を解説
3.1、2をふまえて、相談者がどうやって問題に対処すべきかを回答

やれているように見せるために苦労していることも

Q.小3の息子、私は発達障害を疑っています。登校しぶりがありますが、無理に登校させ続けてもいいのでしょうか。

■家族状況
shumama(相談したい子の母、40代前半)、夫、長男(相談したい子、8歳)、長女

■相談の詳細
現在、小学校3年生の長男についての相談です。1学期の終わりごろから登校しぶりがあります。行きたくないのに、苦しみながら登校し、しばらくすると腹痛を訴えて1日欠席し、また嫌がりながら登校するというかんじです。先生に相談したところ、学校生活では友だちとも楽しくあそんでいたり、授業で発表もしたりと問題なさそうに見えるそうです。夏休み中は、元気でしたが、また学校がはじまり、かなり苦しそうに登校しています。

小さいころから、自分の世界に入り込んで周りの声が聞こえなくなることが多く、好きなことには何時間も集中する子でした。反面、切り替えが苦手で、手先の細かい作業が苦手でした。家では甘えん坊で、やや幼く感じます。

現在は、運動が得意で、勉強は嫌いです。勉強は15分くらいすると頭が痛くなるそうですが、宿題だけはきちんとしています。私は、発達障害を疑っていますが、夫や両親、先生からはそのような指摘はなく、私が心配しすぎているようにうつっているようです。このまま、息子に無理をさせ続けてもいいのか、迷っています。アドバイスをいただければ、助かります。よろしくお願い致します。

A.登校の無理強いはせず、なるべく早く発達相談を受けることをお勧めします

息子さん、つらいですね。小学校3、4年になると、人間関係も複雑になりますし、成長の差も大きく出てくる時期です。勉強は得意ではない、ということで、どこかでつまずいているのかもしれません。わからない授業をずっと聞き続けているのも苦痛でしょう。

学校では、がんばってなんとかやれているように見えるのかもしれません。でも、実際にはそう見せるために、本人はかなり苦労している、ということもありえます。頑張ってやってきたけど、どうにも学校に行くのがしんどくなる、行ってもお腹が痛くなって翌日は休んでしまう、という状況になっているのだと思います。

過集中、切り替えが難しい、細かい作業が苦手、幼いといった息子さんの特徴からは、shumamaさんが疑っておられるように発達障害の特性が感じられます。言葉が堪能だと周りの人はわからないかもしれません。

でも、例えば、脳内のワーキングメモリー(一時的に記憶する能力)の発達に問題があると、黒板を写すのに時間がかかり、もたもたしているうちに黒板は消されてしまう、ということがあります。相当がんばらないとついていけません。

また、もしかしたら、一見楽しくおしゃべりしているように見えている友だち関係も、相当無理をしているのかもしれません。

どの部分がしんどいのか、息子さんが苦手なことはなんなのか、それを正しく評価してもらうために、一度発達相談を受けてみてはいかがでしょうか。

まずはスクールカウンセラーか発達支援センターに

発達相談は、その子の発達の凸凹を知るのに適しています。何が得意で何が苦手なのか。苦手なことがわかれば、その部分を補強することができます。これからも学校生活は続きます。まずは、息子さんの特性を客観的に評価してもらい、理解しましょう。学校のスクールカウンセラーの先生に相談して、どこに行けばよいのか教えてもらってもいいですし、地域の発達支援センターに相談されてもいいかと思います。

息子さんの父親や祖父母には心配しすぎ、と思われているとのことですが、実際に学校に行くのが苦しく、腹痛という形になって不適応が現れているというのは、甘くみていてはいけない状況だと思われます。

とはいえ、発達相談は今、どこの自治体でもかなり混んでいて、数カ月待ちということもありえます。とりあえず今、無理して学校に通わせ続けるべきか、というご質問には、どうか登校を強制しないでください、とお願いするしかありません。

何も手当をすることなしに無理して登校させ続けることで、ダメージが広がり、修復により長い時間がかかってしまうことがよくあるのです。しんどい原因がわかり、それに対する備えをどうするかわかるまでは、登校が本当にきついときには休ませてあげてはどうでしょう。登校しぶり、腹痛はSOSです。

それと同時に、少しでも行けそうなら、保健室でもいいから登校させてもらうなど、先生にお願いしてみてください。というのも、まったく学校に登校しない生活を続けるよりは、時には保健室まででも登校することで、朝起きて夜寝るという生活のリズムが保てますし、お友だちと話す機会も増え、気持ちの切り替えがしやすいことがあるからです。

息子さんの状態を見極めるのはかなり難しいとは思いますが、shunmamaさんは、どうか息子さんのいちばんの理解者になってあげてください。

キーポイント
・やれているように見えるのと、実際にやれているのは違う
・どの部分がしんどいのか、苦手なことを知るためにも発達相談を
・まずはスクールカウンセラーか発達支援センターに相談する
・登校を強制するとダメージが広がり、修復がより長引く

Q.寝つきが悪く、本を6冊読んでも寝てくれません。どうしたら寝てくれるでしょう?

■家族状況
ふみこ(相談したい子の母、30代前半)、夫(30代前半)、長女(相談したい子、3歳)

■相談の詳細
娘は、なかなか夜寝てくれません。赤ちゃんの時から少し眠るとすぐに起き、お気に入りのビデオを見させたりしてまた寝かせて、を繰り返し、「朝になったら起きて夜になったら寝る」というリズムを作るのに苦労してきました。本を5冊、6冊と読んでもまだ寝てくれず。6冊読み終わると、また1冊目から読んで、とせがまれます。

こっちもさっさと寝かしつけて、家のことをしたり自分の時間を持ちたいと思うのですが、結局夜11時くらいになるまでなかなか寝てくれず、夜中に目を覚ますこともあります。ビデオを見せて私はウトウトしていますが、ゆっくり休めず、いつも寝不足です。娘は朝ゆっくり起きてきますが、私は夫を送り出すためにそういうわけにもいきません。なんだか自分のグチのようになってしまいました。母親失格ですね……。

実は、知的な遅れはないが自閉スペクトラム症の疑いがあると言われていて、そのせいもあるのかなと思いながら……。もうすぐ幼稚園入園なので、それまでになんとかしなきゃ、と焦っています。

A. 睡眠の問題も発達特性。「光」を効果的に使いましょう

毎日寝るのが夜11時とは、確かに遅いですね。ちなみに、欧米やアジアなど17カ国における0〜3歳までの乳幼児の睡眠について調査した研究では、アジアの国々では欧米に比べて寝る時刻が遅く、総睡眠時間も短い国が多いのですが、特に日本の平均総睡眠時間は最も短く、11.6時間だったという報告があります。

睡眠時間が短い(2歳半〜6歳までに10時間以下の場合)と、長い子と比較して多動や肥満の傾向が強まり、知能検査の数値が低いという研究結果もあります。また、大人でもそうですが、寝不足が続くとイライラして怒りっぽくなりがちです。子どもも同じで、睡眠不足や夜型傾向だと、攻撃行動が増すことがあります。

さらに、3歳時の総睡眠時間が9〜10時間の子、8〜9時間の子は、11時間以上睡眠をとっている子に比べて中学1年時の肥満のリスクがそれぞれ1.24倍、1.59倍高い、という報告もあります。

発達障害児では睡眠の問題がある割合は高い

また、発達に特性のあるお子さんの場合、娘さんのように寝付きの悪さや、夜中に起きてしまったりといった睡眠の悩みを抱える親御さんは少なくありません。子どもが寝てくれないと親も寝不足になるのでつらいところです。

参考までに、発達障害児の場合、ASDでは50〜80%、ADHDでは25〜50%のお子さんに、なかなか寝ない、起きない、寝過ぎといった睡眠の問題があるという研究結果があります(ちなみに定型発達児の場合、睡眠に問題のあるお子さんは25%程度)。

乳児では、まだ朝起きて夜寝る、という睡眠サイクルが定着していないのが普通ではありますが、後にASDと診断されたお子さんでは、生後6〜12ヶ月で入眠の問題があったというケースが高い頻度でみられます。

発達障害は生まれつきの「脳の機能障害」で、それが睡眠の調整にも関係していると考えられていますが、はっきりしたことはわかっていません。感覚過敏のために少しの物音で起きてしまうとか、昼間のストレスが原因だとか、興奮しやすいせいだとかいろいろな理由があると思います。

ふみこさんは毎日6冊もの本を読み聞かせているとは、すごく努力をされているのですね。母親失格なんてことはないですよ。ご自分を責めないでくださいね。

娘さんは本が好きなようですから、やがて、自分で本を読むようになってくれるのではないですか。もう少しつき合ってあげてください。

少し気になったのは、夜中に起きてしまったときに「ビデオを見せる」ということ。実はビデオやテレビ、パソコンなどの光る画面を見ることは、睡眠ホルモン「メラトニン」の分泌が抑えられ、自然な眠りへの誘いを妨げてしまいます。寝室にテレビがある子の割合は1〜2歳で17%、3〜5歳で30%あり、寝室にテレビがある子どもはない子どもに比べて20〜30分睡眠時間が短い、という調査結果もあります。

寝る前2時間くらいは、画面を見せないようにして光の刺激を入れないようにしましょう。代わりにトントンしてあげるとか身体をなでてあげたりすることで、安心して眠りにつくこともあります。

また、昼間の運動は足りていますか。昼間に十分身体を動かして疲れていると、すんなりと寝てくれるものです。

幼稚園に入園すると、早起きが必要になります。今のうちから、朝、少しずつ早く起こすようにしてはどうでしょう。「早寝早起き」、まずは「早起き」から始めましょう。

睡眠リズムを作るには

起きたらすぐにカーテンを開けて、朝の光を取り入れましょう。朝から外にお散歩に行くのもいいですね。雨で暗いなら朝から電気をつけて明るくしてください。「朝、光を浴びる」ことで、メラトニンの分泌が抑制されて目が覚め、睡眠リズムが作られます。

幼稚園、小学校と進むにつれて、朝起きて幼稚園や学校に行き、活動して夜は疲れて寝る、という生活が身についてきます。しかしそれでも、もしかしたら、ママが部屋から出ていった後で、1人でこっそり本を読んだりしているかもしれません。

人間にとって睡眠はとても重要ですが、その長さや深さというのは、実は個人差があります。娘さんが毎朝起きて、問題なく活動できていれば、どうかそのまま見守ってあげてください。早く寝なきゃ、という気持ちがストレスになる場合もあります。

今はもう大学生になった自閉スペクトラム症特性のある青年が言っていました。


「保育園ではお昼寝の時間が何より苦痛だった。みんなで同じ時間に寝なければいけない。僕は全然寝たくなかったし、その時間お絵かきをしていたかったのに、寝たふりをしなきゃいけなかった。小学校に入ると夜中寝られないとこっそり本やマンガを読んでたんだけど、親に見つかるとすごく怒られた。

中学校では夜中までゲームをしていて、やっぱり親に怒られた。僕は、睡眠時間が短くても大丈夫なタイプだったんだけど、親はよほど僕に早く寝て欲しかったんだろうと思う。僕自身も、みんなが寝ている時間に起きていることに罪悪感があった。でも眠れなかったんだからしかたがない。

『早く寝ないと学校に行けなくなるでしょっ!』親にそう言われ続けて、『学校に行かないなら早く寝る必要がない』と思った僕は、入学した高校に通うのをやめた。僕は眠れないということより、眠れないことで親が怒ったり悲しんだりすることの方がずっとつらかった」

その後この青年は、高卒認定試験を受けて合格。建築家になるために大学に通っています。このようにお子さん自身が眠れないことに罪の意識を感じてしまうようなことのないよう、上手にサポートしていきたいものです。

生活に支障がある場合はサプリメントも

もし、昼夜逆転など、日常生活に差し障るほど眠りの問題がひどい場合は、薬物を使った解決法もあります。「メラトベル」は睡眠ホルモン「メラトニン」と同じ構造をもつ薬で、眠気を促したり、睡眠のリズムを整える作用があります。アメリカでは薬局のサプリメントコーナーで普通に売られています。

日本でも2020年に、発達障害のある6〜15歳の小児を対象に保険診療での処方が認められました。依存性が少ないとされている薬ですので、関心のある方は医師に相談してみてください。

キーポイント
・発達障害児の場合、ASDでは50〜80%、ADHDでは25〜50%の子どもに、睡眠の問題があるという研究結果が(定型発達児は25%程度)
・寝る前2時間はビデオなどの画面を見せない。朝日を浴びて早起きの習慣を
・寝られないことを責めない。睡眠サプリメントも利用してみては

(久保田 競 : 京都大学名誉教授)
(原田 妙子 : 浜松医科大学子どものこころの発達研究センター特任助教)