ダイエットのために「ゼロカロリー」を謳う食料品を選んだことはないだろうか。科学ジャーナリストの生田哲さんは「複数の研究によると、ゼロカロリー甘味料には体重を減少させる効果はなく、むしろ体重を増やしてしまうおそれがある」という――。(第5回)

※本稿は、生田哲『「健康神話」を科学的に検証する』(草思社)の一部を再編集したものです。

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■ゼロカロリー甘味料は健康リスクを高める

【神話】
ゼロカロリー甘味料を使えば、太らない

私たちが甘いものに目がないのは、甘い物が生き物のエネルギー源であることを本能で知っているからである。甘さとカロリーは固く結びついている。食料が不足していた古代なら、カロリー豊富な甘いものは大歓迎されたが、飽食の現代、人は、甘さだけ欲しいが、カロリーはいらない、といい出す。

この無茶な要求に応じて世に出てきたのが、ゼロカロリー甘味料である。ゼロカロリー甘味料で甘くすれば、カロリーがないのだから太るはずがないと謳(うた)うが、本当にそうなのか?

【科学的検証】
ウソである

ゼロカロリー甘味料は、カロリーがないため、体重を増やすことなく、甘さを堪能できるように思える。しかし、2017年、カナダにあるマニトバ大学医学部のメガン・アザド教授のグループは、真実はこの反対であることを発表した(*1)。

この研究は、人工甘味料を使った体重管理について発表された37の治験論文をメタ分析したものである。この分析では、合計40万人以上の被験者を約10年間にわたって追跡調査している。しかも、37論文のうち7論文は「二重盲検試験」を採用していることから、この分析の信頼度は高いと思われる。

「二重盲検試験」は、どの被験者が人工甘味料を使ったのか、使わなかったのかを本人にも観察者にも知らせないで行うことで、人工甘味料の効果を客観的に判定しようとする試験法である。結果はこうだ。人工甘味料は、体重を減少させる助けにはならなかった。その代わり、人工甘味料の入った飲み物を1日1杯以上摂取する人は、すなわち、普段、人工甘味料を使用している人は、使用していない人にくらべ、体重増加、肥満、糖尿病、心臓病のリスクが高くなった。

(*1)Azad MB et al. Nonnutritive sweeteners and cardiometabolic health: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials and prospective cohort studies. CMAJ July 17, 2017 189 (28) E929-E939. PMID: 28716847

ダイエットに人工甘味料は使えない

人工甘味料を使用すると、喧伝されている効果や私たちの期待とは裏腹に、太ることが明らかとなった。論文の著者のひとりアザド教授は、こういう。

「多くの人々はカロリーゼロなら、健康被害ゼロと思い込んでいます。しかし、この研究を通して、私は、体重管理はカロリーだけではない何かがあることを認識しました」

つまり、体重管理は、私たちが考えている以上に複雑なしくみで行われているようである。この新しい研究によって、人工甘味料は体重管理を解決するための特効薬や「魔法の弾丸」ではないことが明らかになった。

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同じく人工甘味料の研究を続けるパーデュー大学心理学科のスーザン・スウィザース教授は、この論文にかかわっていない中立の立場で、こう慎重に述べている。

「残念ながら、体重を落とすことを目的とした人工甘味料の有効性を支持する有力な証拠は存在しません」

これは学者らしい慎重な言い回しであるが、要するに、人工甘味料にやせる効果はない、と断言しているのである。それどころか、人工甘味料は人を太らせる。この理由は何か。

■ゼロカロリーでも“太らせるホルモン”が放出される

じつは、人工甘味料にはふたつの問題がある。ひとつめは、人工甘味料が私たちの味覚を鈍くすること。

人工甘味料の甘さに慣れると、非常に甘いものでないと満足できなくなり、それまで以上に甘いものを求めるようになる。甘みを受け取る甘味センサーが、人工甘味料の強い甘さに適応するのである。しかも、甘味センサーは舌だけでなく、胃、腸、膵臓(すいぞう)にも存在する。

胃の甘味センサーが甘みを感知すると、グレリンというホルモンが放出される。グレリンは、脳の視床下部にある摂食中枢を刺激し、食欲を湧き出たせる。しかも人工甘味料の刺激は砂糖よりも格段に強いため、食欲が極度に刺激され、大食いして太る。

ふたつめは、人工甘味料がインスリンを放出させること。そもそもインスリンは、人を太らせるホルモンである。なぜか?

血液中に溶けているブドウ糖は筋肉でエネルギー源となって消費されるか、脂肪組織に取り込まれて体内に蓄積する。どちらの道に進むかを決定するのが、インスリンの量である。インスリンが少なければ、ブドウ糖は筋肉に行って消費されるが、インスリンが多ければ、ブドウ糖は脂肪組織に取り込まれて体内に蓄積するので、太る。

砂糖はインスリンを大量に放出させるので、人を太らせる。だが、砂糖だけでなく、人工甘味料もまたインスリンを放出させ、太らせることが報告されている(*2)。

(*2)Mathur K et al. Effect of artificial sweeteners on insulin resistance among type-2 diabetes mellitus patients. J Family Med Prim Care 2020 Jan; 9(1): 69-71. PMID 32110567

■約8万人を対象にした実験でも体重増加が見られた

アメリカがん協会からの資金提供を受けて行われた7万8000人の女性を対象にした研究でも、サッカリンを使用することによって体重が増えることが報告されている。ネズミを使った実験でも、人工甘味料を加えたヨーグルトを摂取したネズミは、プレーンヨーグルトを摂取したネズミにくらべ、食事全体の摂取量が多く、体重も増加していた。人工甘味料で体重を落とすという目標は、達成できなかった。

それから、人工甘味料は安全性に心配があるので、使用を避けるのが賢明な選択、と私は思っている。やせたいなら、コーラやジュースを飲むのではなく、水を飲むといい。アザド教授は、もう人工甘味料を使用していない、という。「毎日、私はコーヒーに人工甘味料のスプレンダを入れて飲んでいたのですが、今は、ミルクに代えました」。

■人工甘味料であったとしても虫歯になる

【神話】
人工甘味料は虫歯ができにくい

経験的に知られていることだが、アイスクリーム、チョコレート、ケーキなど砂糖が大量に入った食べ物を日常的に食べると虫歯ができやすい。甘いものを食べたいが、虫歯が恐い。虫歯は砂糖が原因だとすると、人工甘味料を使えば、虫歯ができにくくなるのか?

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【科学的検証】
ウソである。

虫歯は、プラーク(歯垢(しこう))の中に住む細菌がつくる酸によって歯が溶ける病気である。砂糖を例にして、どのように虫歯ができるのかを説明しよう。歯の表面や歯と歯ぐきの境目、歯と歯の間には、白いネバネバした塊が付着している。これをプラークと呼んでいる。

プラークの中にバイ菌が住んでいる。名前を虫歯菌という。虫歯菌は砂糖をエサにして生きているが、このときに「酸」ができる。この酸によってプラークのphが低下する。これが何を意味するのか。

phは、水溶液がどれだけ酸性が強いか、または弱いかを示す物差しで、水素イオン濃度ともいう。phは1〜14まであり、中性は7、酸性は1〜6、アルカリ性は8〜14である。phは指数で表記されるため、ph5.0の水素イオン濃度は、ph7.0の中性よりも100倍も高い。たとえば、0.1%の砂糖水を10ml飲むと、プラークのphは5.0以下になる。唾液のphは通常6.8〜7.0であるから、砂糖水は、プラークの酸性の度合いを100倍も高めることがわかる。

一方、歯の表面を覆うエナメル質は、リン酸カルシウムでできていて、ph5.5以下になると急激に溶け出す。だから、砂糖を食べると、歯のエナメル質が溶け出し、虫歯になりやすい。しかし、経験から私たちは、そう簡単に虫歯にならないことも知っている。

■砂糖が入ってなくても口の中は酸性になりやすい

この酸は唾液によって中和されるだけでなく、溶け出した歯の表面が唾液によって修復されるからである。うまくできたものである。だが、砂糖の摂取を続けると、唾液による歯の修復が間に合わなくなり、虫歯になる。それなら、虫歯菌のエサである砂糖を含まないソフトドリンクなら虫歯ができない、と思うかもしれない。だが、残念ながら、そうはいかない。

生田哲『「健康神話」を科学的に検証する』(草思社)

人工甘味料の入ったソーダやスポーツドリンクなどには、砂糖こそ入ってないものの、口内を酸性にしやすい。なぜならば、砂糖を含んだドリンクにも砂糖を含まないドリンクにも、クエン酸とリン酸が大量に含まれているからである。クエン酸もリン酸も立派な「酸」であるため、虫歯をつくる原因となる。要するに、酸の多いドリンクは虫歯菌という虫歯の媒介者を除外しているに過ぎない。

砂糖を大量に含んだドリンクを飲めば、細菌が砂糖をエサにして酸をつくるが、人工甘味料の入ったソーダやスポーツドリンクを飲めば、歯全体が「酸」にドップリ浸かることになる。この酸が歯のエナメル質を溶かし、虫歯をつくる。虫歯の初期段階では、歯のエナメル質が侵食によってはがされる。さらに奥の象牙質まで侵食が進むと、甘いものや冷たいものがしみるようになる。

■エナジードリンクの酸性度はスポーツドリンクの2倍

シュガーフリーを謳うエナジードリンクやスポーツドリンクは、ソフトドリンクよりも歯にいいかというと、そうではない。アメリカの調査では、エナジードリンクの酸性度(ph3.2)はスポーツドリンクの2倍も強かった。通常、唾液のphは6.8〜7.0で中性であり、これらのドリンクによって低下したphが元に戻るのに約30分かかる。この30分間、歯は酸に浸されている。

大抵の人は、エナジードリンクやスポーツドリンクを飲んだときに、以下に示す適切な行動をとらない傾向にある。このため3人に1人の子どもは虫歯を持ち、しかもエナメル質が傷つくと、虫歯菌が付着しやすくなるため、虫歯がさらに進行しやすくなる。

では、虫歯を防ぐにはどうすればいいのか。明らかな解決策は、酸を大量に含んだ甘いドリンクを一切飲まないことである。だが、甘いドリンクを飲んでしまった人、あるいは、飲むことをやめられない人のために対策を紹介しよう。

・もっと水を飲む。もっと水を飲むことによって、エナジードリンク、スポーツドリンク、ソフトドリンクの摂取量を減らす。
・素早く飲む。早く飲み終えるほど、酸が口の中にとどまる時間を短縮できる。唾液のphをより迅速に中性に戻すことができる。
・ストローを使う。ストローを使うことで、歯が酸に浸る時間を減らす。
・口を水ですすぐ。酸を大量に含んだドリンクを飲んだ直後に、歯を磨く前に口を水ですすぐ。
・歯を磨く。

酸を大量に含んだドリンクを飲んだ後に、口を水ですすぎ、歯を磨く。それから、寝る前に酸を大量に含んだドリンクを飲まないことも忘れないでほしい。そうしないと、酸が一晩中あなたの歯を侵食することになるからである。

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生田 哲(いくた・さとし)
科学ジャーナリスト
1955年、北海道に生まれる。薬学博士。がん、糖尿病、遺伝子研究で有名なシティ・オブ・ホープ研究所、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)、カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)などの博士研究員、1986年から91年までイリノイ工科大学助教授を務める。遺伝子の構造やドラッグデザインをテーマに研究生活を送る。現在は日本で、生化学、医学、薬学、教育を中心とする執筆活動や講演活動、脳と栄養に関する研究とコンサルティング活動を行う。著書に、『遺伝子のスイッチ』(東洋経済新報社)、『心と体を健康にする腸内細菌と脳の真実』(育鵬社)、『ビタミンCの大量摂取がカゼを防ぎ、がんに効く』(講談社)、『よみがえる脳』(SBクリエイティブ)、『子どもの脳は食べ物で変わる』(PHP研究所)、『「健康神話」を科学的に検証する』(草思社)など多数。
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(科学ジャーナリスト 生田 哲)