白内障の手術はどのタイミングで受けるのがいいの?
白内障の有病率は、初期も含めて80歳以上で100%といいますから、高齢になれば誰もが避けては通れない病気です。白内障の治療は点眼薬か手術のどちらかになりますが、点眼薬は進行を抑えることが目的であり、それによって治るわけではありません。生活に支障が出てきたら、いずれ手術を考えなければならなくなります。でも、そのベストタイミングは? 葛飾区金町の杉田眼科の院長・吉田真人先生にお話を伺いました。
監修医師:
吉田 真人(杉田眼科 院長)
昭和大学医学部卒業後、同大学病院附属東病院眼科での准教授(医局長)を経て杉田眼科院長に就任。現在は、昭和大学病院附属東病院眼科兼任講師(医局長)。医学博士、日本眼科学会、日本白内障屈接学会、等会員。日本眼科学会認定眼科専門医等、専門は白内障、眼形成、涙道、前眼部疾患。
手術を決めるタイミングと基準
編集部
白内障の治療は点眼薬と手術だと伺いました。点眼薬はあくまで進行を抑える為のものですよね? 手術を受けるベストタイミングのような時期はあるのでしょうか?
吉田先生
もちろん、白内障と診断されたら早めに手術をしていただきたいのですが、手術への恐怖感や術後の見え方に慣れるのに時間がかかってしまうということなどがありますので、様子をみる方は多いですね。
編集部
確かに手術というと誰でも少し心配になりますね。それでは、手術の時期はどのように決めていくのでしょう?
吉田先生
「ものが見えなくなって困る」という状態になった時です。例えば、車を運転する、テレビを見る、そういう時に困るということです。つまり、自覚症状が出た時です。基準としては、視力が0.7よりも下がった時になりますね。
編集部
日常生活に支障をきたすほど自覚症状がでたタイミングですね?
吉田先生
ただ、先ほど申し上げたのはあくまで目安です。というのも、生活は人によって違いますから、その人の生活の仕方によって手術をするかしないか、あるいは、いつごろ手術をするのかを医師と相談することが大切です。
編集部
生活の仕方次第とはどういうことですか?
吉田先生
例えば、80代で自宅でほとんど動かないような方は、見えなくてもそれほど困らないんです。しかし、70代ですと毎日仕事をしている方たちもいます。それも、世界中を飛び回っていたり、自宅で作家活動をしていたりする。見えないと仕事にならないわけですね。手術の時期は、そうした生活の仕方に合わせて決めなければいけないと思います。ですから、一律に決めるのではなく、患者さんに合わせて時期も方法もセミオーダー的に行うのがベストでしょう。
生活の仕方や希望に合わせて手術の方法やレンズを変えることができる
編集部
手術の時期だけでなく、手術の内容も変えることができるのですか?
吉田先生
昔の白内障の手術は、術後に目の前が明るくなって、「あっ、字が読めた」というぐらいのレベルでも満足いただけました。
ところが今は、単に見えないものが見えるようになるというだけではなくて、ものを見る質の領域にも踏み込んで、なるべく患者さんの生活に合わせる手術ができる時代になってきています。例えば、「近くが見たい。遠くは眼鏡でいい」とか、「眼鏡なんてかけたくない。近くも中間も遠くもある程度見えないといやだ」とか、患者さんのさまざまな要望に応えることができるようになっているのです。
編集部
それはまさにセミオーダーですね。
吉田先生
そうです。まだありますよ。「冬場に眼鏡をかけてラーメンを食べるとレンズがくもる。これがいやだ」などといっている患者さんたちに、眼鏡のない生活も提供できるようになっています。白内障の手術では、濁った水晶体の代わりになる眼内レンズを挿入するのですが、1つの距離しかピントが合わせられない単焦点眼内レンズと、2つの距離(遠くと近く)にピントが合わせられる多焦点眼内レンズ(老眼度数付眼内レンズ)など、自分の希望するレンズを選ぶことができます。
編集部
いろいろな種類のレンズがあるんですね。
吉田先生
各社メーカーがいろいろな種類の眼内レンズを出しており、選択肢はとても増えています。最近は乱視矯正眼内レンズというようなレンズも出てきていますから、眼鏡やコンタクトレンズで乱視を矯正しなくても、眼内レンズで矯正できる場合もあります。
編集部
治療は保険適用されますか?
吉田先生
白内障手術は保険適用されます。ただし、その場合の眼内レンズは単焦点眼内レンズで、多焦点眼内レンズは基本的に適用外です。また、民間医療保険の先進医療特約保険に入っている方たちを対象にした厚生労働省認可の先進医療認可レンズという多焦点眼内レンズがあります。先進医療特約保険に加入していて、条件が合う患者さんは特約を利用すればほとんど医療費の負担はありません。
高齢の方もレーシック手術をした方も白内障の手術は可能
編集部
白内障の手術は、ほかの病気があってもできるものでしょうか。年齢的に糖尿病の患者さんも大勢いるのではないですか?
吉田先生
糖尿病のコントロールをきちんとすれば手術は可能です。何か病気があったら絶対にできないというものではありません。もちろん、その病気の主治医の先生たちと話し合いながら行います。
編集部
今のお話ですと、年齢的に制限があるということもなさそうですね?
吉田先生
そうです。私が手術した最高齢の患者さんは102歳です。杉田眼科では2017年に96歳の患者さんの日帰り手術をしていますよ。
編集部
最近はレーシック手術を受ける方も多いと聞いたのですが、そういった方でも白内障の手術はできるんですか?
吉田先生
もちろん受けられます。レーシック手術をした方に関しては、以前は角膜の屈折力の計算がうまくいかないなどの面もあり、白内障の手術をする際に適合する度数の眼内レンズが決まらず、私たちも苦労しました。今は屈折力を測定する機器も高度になり、レーシックによって矯正された度数を考慮する計算式を使っていますから問題ありません。
編集部
いずれ手術を受けることになるとしても、やはり少しためらう患者さんもいるでしょうね?
吉田先生
手術をすすめても「手術はいやだ」といって我慢する方は非常に多いですね。そうこうするうちにとうとう見えなくなってしまう方も少なからずいますが、白内障であれば手遅れということはありません。しかし、それでは生活に支障が出ますし、危険です。また、緑内障になる可能性がないわけではないので、白内障と診断されたら定期的に医師の診察は受けていただきたいですね。
編集部まとめ
白内障の手術のタイミングは、その人の生活の仕方や希望によって変わってくるようです。
また、吉田先生に聞くと、ひとくちに眼の手術といっても、緑内障の手術、網膜剥離(はくり)の手術、腫瘍(しゅよう)の手術など多様であり、眼科医の中でもそれぞれの専門性を持っているそうです。手術を受ける際には医師の専門について確認することも必要でしょう。日ごろから通っている馴染みの医師だからお任せするというわけにはいかないそうです。一方で、気になることがあればすぐに相談できる医師は、眼科に限らず必要だろうと吉田先生はいいます。長期間診察していれば、患者さんのこともよくわかっている分、医師も対処がしやすいとのことです。