「摂食障害」を発症しやすい人の特徴・原因はご存知ですか?医師が監修!
摂食障害とは、心と身体の両方に影響が及ぶ病気を総称した呼び名です。
異常なほど体型への執着・見た目・食べ過ぎたり嘔吐したりを繰り返す行動などに目が行きがちとなりますが、その背景には心理的な苦悩を抱えている場合が多いです。
今回は、摂食障害の種類・症状・原因についてご紹介します。併せて受診の目安や治療方法についてもご紹介します。
摂食障害の種類・症状
摂食障害にはどんな種類がありますか?
ひとことに摂食障害といっても、症状は患者さんにより異なり、以下のようにさまざまな症状がみられます。必要とされる量の食事が摂れない・食べられない
自分でコントロールができず食べ過ぎる
一旦飲み込んだ食物を嘔吐(嘔吐行為を行う)
上記のような症状は先述したように拒食症と過食症に分けられ、さらに細かく分けると拒食症は神経性やせ症となり、その中でも制限型と過食・排出型に分けられるのです。
過食症には神経性過食症と過食性障害があります。
また、子供に多くみられるものとして回避制限性食物摂取症という症状もあります。食事を摂ると食べ物が喉に詰まったように感じる・食べても吐いてしまうのではないかなどという、不安や恐怖心から食べられなくなり痩せてしまう症状です。重要な疾患概念として捉えられています。
神経性やせ症(拒食症)ではどんな症状が出ますか?
食べることを拒否したり極端に食べる量を少なくしたりして、周りから見ると痩せ過ぎている見た目を維持しようとする症状です。神経性やせ症は、体重が増えることへの強い恐怖心からなる行動が目立ちます。体重が増えることを恐れ、体重増加を妨げる行為が日常的にみられる特徴があります。低体重であることを気にせず、むしろ低体重であることがよいと感じ、自身の理想の体型について歪んだ考えを持っているのです。先述したように神経性やせ型には、制限型と過食・排出型に分けられます。制限型とは、3ヶ月の間において意識的に嘔吐・下剤や浣腸を必要以上の使用を繰り返し認められない状態のことです。体重を減らすように、無理なダイエットや断食を行おうとします。また、適度な運動は健康によいとされていますが、ジョギングやウォーキングなど、過度な運動を行うことも制限型の症状に当てはまるでしょう。
過食・排出型は逆に3ヶ月の間において繰り返し過食を行ったり、下剤や浣腸の使用を必要以上に行ったりが認められる状態です。自分では制御できないくらい食べてしまい、過食後は太ることを恐れ、意識的に食べた物を嘔吐します。夜中に過食を行ったり他の人に分からないように嘔吐したりするので、周りが気がつかないケースが多いです。
過食性障害と神経性過食症の違いはなんですか?
明確な違いとして、食べ物を摂取したあと意識的に嘔吐したり下剤を使ったりしない点が挙げられます。過食とは自分ではコントロールできず、一定時間内に大量の食べ物を摂取してしまう症状です。
過食性障害は比較的肥満の方にみられます。苦しいと感じながら食べる・空腹感がなくても食べるなど、過食することに苦痛を感じていますが自身ではどうすることもできない状態です。
神経性過食症は、大量の食べ物を摂取したあと嘔吐・下剤・痩せ薬の乱用などを習慣化して行う状態です。神経性過食症を患っている方は標準体重の方が多いですが、中には低体重や高体重の方もいます。自身の体型や外見に気を遣い、他人からどのように見えるか常に考えてしまう状態に陥っているのです。
過食行動を行っている間、普段の自分とは別の人格としてみている場合があります。不安やストレスなどの逃避を、いつもと違う自分が過食という形で現れているのです。
摂食障害の原因
摂食障害の原因は何ですか?
摂食障害についてさまざまな研究が行われていますが、明確な原因は分かっていません。ただ、以下のような要因が関係しているのではないかと考えられています。生物的要因
心理的要因
社会的要因
家庭的要因
原因は1つだけではなく、上記の要因が複雑に混ざり合うことで摂食障害を引き起こしている可能性が高いといわれています。
摂食障害が起こりやすいのはどんな方ですか?
10代後半から20代前半の若い女性に多く、過食性障害では男性に多くみられます。思春期の頃によくみられる考え方として、他人によく思われたいと感じる・感じたことがある方も多いでしょう。ただ行き過ぎた考えを持っていると、外見を整えることで他人からの価値が得られることを「自分が認められている」と捉えてしまいます。
その考えの背景には、幼少期の家庭環境も関係していると考えられています。家族に認められない経験をしたり愛情を受けて育てられなかったりすると、そのときに得られなかった感情を他人から受けることへ喜びを感じ、無理をしてでも体型を維持しようとしてしまうのです。
また過食症によくみられる背景として、食べることで寂しさを埋めようとする感情や、ストレス発散の一環として行われます。
摂食障害は、家庭環境のほか、社会環境・対人ストレス・人間関係なども大きく関係しているといわれています。他人からの何気ない一言を気にし過ぎてしまい、どうしようもない怒り・哀しみ・不安を食べることに視点をあて執着してしまうことで、摂食障害となって現れてくる場合が多いと考えられているのです。
摂食障害の受診方法・治療
摂食障害と診断されるポイントは何ですか?
3ヶ月の間において以下のような症状がみられる場合、摂食障害と診断される可能性が高いでしょう。必要なカロリー摂取を抑える
食べたあと嘔吐や下剤などを乱用し排出
自身でコントロールできないほど食べてしまう
「食」において異常な行動を行うことが摂食障害と診断される目安になりますが、自身が自覚していない・自覚していても隠す傾向にあるため、周りも気がつきにくい場合があります。
以前に比べて痩せて見える・食べたあとすぐにトイレに行く・夜中に起きて大量に食べているなどの行為を見かけた場合、摂食障害に陥っている可能性は十分に考えられるでしょう。
何科を受診すべきですか?
まずは一般外来(内科)を受診し、身体的に異常がないか検査を行いましょう。場合によっては心療内科や精神科の受診も必要となるでしょう。摂食障害は、心と身体のサポートを行っていくことが重要です。身体や心にさまざまな症状がみられる前に、早期の受診が望ましいです。とくに拒食症にみられる低体重をはじめ、脈拍数の減少・低血圧・貧血・意識障害などが併発して起こる危険性もあるからです。
本人が摂食障害だと認識していない場合、無理に医療機関へ行くことは精神面で難しい点ですが、生命の危機に関する事態を招く恐れがあるためなるべく早い受診がよいでしょう。
摂食障害の治療方法を教えてください。
拒食症でも過食症でも、その患者さんの症状・症状の重さ・併発している病気などにより治療方法は異なります。神経性やせ症では、根本的に改善を行う薬物療法は残念ながら今のところまだ開発されていません。低体重は貧血や骨粗鬆症などの合併症が引き起こされやすいので、心理療法よりもまずは栄養摂取を優先的に行っていきます。
しかし、無理な栄養摂取は逆効果の場合もあります。患者さんの体重が増えることなどの不安に共感しながら、体重が増えることのよい点を伝えながら指導していく方法をとっていくことがよいでしょう。
過食症では、抗うつ薬を中心に薬物療法が有効的です。心理療法では、専門家による支持的精神療法や認知行動療法などがあります。
拒食症よりも特定の考え・行動・対人関係などが関係しているため、薬物と併用していくことで高い治療効果が期待されています。
摂食障害で入院は必要ですか?
摂食障害で入院を必要とするケースは拒食症となり、過食症での入院を行うケースは稀です。拒食症では栄養状態が極端に悪化した場合や、心不全・腎不全・電解質異常などの重篤な合併症が起こった場合に、生命の危機管理や栄養状態の改善を目的とした入院を行います。入院では経口栄養摂取や困難な場合は経鼻栄養摂取が行われ、目標体重を細かく設定し無理なく確実に体重を増やしていく方法をとります。
患者さん本人が治療の重要性を把握できない場合、家族の協力のもとで治療を行っていく形をとらざるをえません。栄養状態が改善した時点で、外来へ戻し治療を続けていきます。
最後に、読者へメッセージをお願いします。
摂食障害には拒食症や過食症といった、さまざまな症状があります。どれも異常な体型の思考や食へのこだわりがある状態です。しかし、摂食障害を患っている方の背景には深刻で辛い心情があります。もし周りで摂食障害と疑わしい症状のある方がいる場合、まずは寄り添ってあげてください。
摂食障害は、患者さん本人ではどうすることもできない症状です。治療を始めたらすぐに拒食や過食が治ることは少なく、根気よく治療を行う必要があります。患者さん本人の頑張りも必要ですが、周りのサポートも重要となってきます。
編集部まとめ
摂食障害は若い世代に多いですが、誰にでも起こり得る病気のひとつです。社会に出た大人でもストレスや対人関係がきっかけとなり、摂食障害を引き起こす可能性はあるでしょう。
周りになかなか相談しづらいことではありますが、ひとりで改善していくことは難しい病気でもあります。
周りを頼り、早期に医療機関を受診し、ほかの病気を引き起こす前に改善へと導いていきましょう。
参考文献
摂食障害(厚生労働省)