「ライム病」を発症すると現れる症状・原因・感染経路はご存知ですか?

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ライム病とは、スピロヘータという細菌の一種、ボレリアによって引き起こされる感染症のことです。

ヒトにも動物にも感染する人獣共通の感染症であり、野ネズミなどがボレリアを保菌しています。ヒトには、野生のマダニ科マダニ属のダニを介して感染します。

登山やキャンプによく行かれる方や、標高の高い山間部にお住いの方は、注意しておきたい感染症です。

ライム病の感染経路や症状・診断・治療方法・予防法について解説します。

ライム病の感染経路や症状

ライム病の原因や感染経路を教えてください。

ライム病の原因は、スピロヘータという細菌の一種、ボレリアによるものです。ボレリアを保菌している野ネズミや野鳥などについていた、野生のマダニ科マダニ属のダニがヒトを刺咬することによって感染します。
ヒトからヒトへの感染はありません
また、普段よく耳にする、寝具などに発生するイエダニからの感染もありませんのでご安心ください。少し咬まれてしまった程度ではめったに発症しませんが、ボレリアを保有するマダニが36時間以上にわたって付着していた場合には注意が必要です。

ライム病は日本でもみられる病気ですか?

アメリカでは年間数万人のライム病患者が発生しており、さらにその数も年々増加傾向にあることから、社会問題になっています。日本でも、アメリカほど多くはありませんが、感染患者が報告されています。
日本でのライム病感染の原因はシュルツェマダニによる刺咬がほとんどです。シュルツェマダニの生息地は、北海道や東北地方などのやや寒冷な地域・本州・四国・九州の標高の高い山間部です。
とくに北海道や東北地方の一部においては、市街地から離れた平野部でも生息しており、日本での感染患者の多くは北海道に集中しています。
しかし、ボレリアを保菌している野生動物やマダニの病原体保有率はアメリカと同程度であることから、実際の感染患者はもっと多いと推測されています。

感染初期の症状は?

感染初期(ステージ1)では、ライム病特有の遊走性紅斑という皮膚症状がみられます。見た目は一定ではありませんが、刺咬された部分が赤くなり、次第に的(まと)のように二重丸のような輪が5~20㎝ほどの大きさにまで広がるような症状が多くみられるようです。
痛みやかゆみはなく、触れるとほんのり熱をもっている程度です。こちらは数週間程度で消失します。
インフルエンザのような症状を伴うケースも報告されています。具体的には、筋肉痛・関節痛・頭痛・悪寒や発熱・全身の倦怠感などです。症状が軽度だと、気付かないこともあるので注意が必要です。

播種期の症状は?

播種期(ステージ2)では、病原体が血流やリンパ液にのることで全身に拡散されていきます。症状も全身に広がり、皮膚症状・神経症状・心疾患・眼症状・関節炎や筋肉炎などが具体的な症状です。
ほとんどの症状が良くなったり悪くなったりを繰り返しますが、全身の不調や疲労感は継続します。髄膜炎や顔面神経マヒ、不整脈や胸痛を伴う心筋炎・心膜炎といった重篤な症状に発展するケースもあります。日本での症例はあまり多くありません。

慢性期の症状は?

慢性期(ステージ3)では、重度の皮膚症状や慢性的な関節炎などの症状がみられます。
慢性萎縮性肢端皮膚炎になると、影響を受けてしまうのが末梢神経です。知覚神経障害を伴い、皮膚がちぢれたようになります。慢性関節炎は関節液が関節に溜まることから、腫れや傷みを伴う可動域制限がみられます。
また、慢性脳脊髄炎になると、倦怠感や疲労感・抗うつ症状などが長期的に続き、日常生活にも支障をきたしてしまうでしょう。現在、日本において慢性期の患者はまだ報告されていません。

ライム病の診断や治療方法

ライム病はどのように診断されますか?

ライム病の診断には、まず問診が行われます。マダニと接する機会があったかどうかを判断するためです。
野山にでかける機会はあったか?ライム病特有の遊走性紅斑はみられるか?この二点が診断において大切な手がかりになります。
遊走性紅斑が発生しないケースもあるので、インフルエンザのような症状があるだけでは見過ごされてしまうこともあります。

診断するにあたってどのような検査が行われますか?

紅斑がみられる場合には、皮膚生検という方法で患部の組織をくりぬき、ボレリアが検出されるか検査します。皮膚の一部をくりぬくと聞くと驚いてしまうかもしれませんが、局所麻酔を使用し、長くても30分程度で終わる検査です。
全身麻酔ではないので、検査後に眠くなることもありません。他には、病原体の遺伝子や抗体を調べるための血液検査やPCR検査などが行われます。
アメリカでは、まれにですが関節液や髄液を採取して検査することもあります。

ライム病の治療方法は?

細菌感染ですので、抗菌薬による治療が行われます。
初期症状の遊走性紅斑には、ドキシサイクリンなどの抗菌薬を2~3週間ほど服用します。髄膜炎・関節炎に進行してしまった場合には、セフトリアキソンを2~4週間ほど注射や点滴によって投与することが有効です。
症状が軽度であれば、経口薬でも治療ができます。心臓に症状がでてしまった場合は、ペースメーカーが必要になってしまうケースもあります。
早期にしっかり治療することで合併症を予防できる効果が期待できますので、初期段階でしっかり病原菌を退治することが重要です。

ライム病を治療しないとどうなりますか?

最初の感染から数か月、数年経ってからステージ3にあげた慢性症状があらわれます。すでに病原菌が全身を巡っている状態ですので、どこで炎症が起きてもおかしくありません。
長年にわたる疲労感や倦怠感・末端神経障害などが発生し、日常生活に支障をきたしてしまうでしょう。
ひざなどの大きな関節において、腫れや痛みが数年にわたって繰り返されるケースもあります。良くなったり悪くなったりを繰り返すので、非常にやっかいな病気です。
初期症状である遊走性紅斑が、ライム病を診断する大切な手がかりになります。消失してしまう前に早めに医師に相談し、適切な治療を受けましょう。

ライム病の予防法や注意点

ライム病を予防するために気を付けることはありますか?

マダニに刺咬されないように注意することが最大の予防法です。マダニの活動が活発になる、春から秋にかけて野山などにでかける際に、気を付けていただきたいことをまとめます。

不必要に藪などに分け入らない

マダニが付着した際に確認しやすいよう、白っぽい服装を心がける

長袖・長ズボン・手袋を着用し、裾は靴下にしまうなど素肌へのマダニの付着を予防する

頭皮への付着を予防するため、帽子を着用する

石や草原などに直接腰をかけたり、寝転んだりしない

肌の露出部分にはジエチルトルアミド(ディート)を有効成分とした虫よけ剤を使用する

帰宅した際には、なるべくその日のうちにマダニが付着していないか全身を点検する

自然とのふれあいはとても気持ちがよいものですが、野生動物がいるところにはマダニも生息しています。マダニは、ライム病だけではなく、さまざまな感染症の仲介者です。
もし野生動物に出会っても、むやみに近付かない・触らない・動物が通ったであろう後にできた獣道に立ち入らないことも覚えておいてください。

マダニに咬まれてしまったらどうすればよいですか?

もしマダニに刺咬されてしまった場合には、なるべく36時間以内に体から取り除くことが重要です。時間が経ってしまうと、感染症の危険だけではなく、マダニがセメント物質を分泌して固着してしまい、除去が難しくなります。
取り除くときには、マダニの体をつぶさないように頭か口をはさんでまっすぐに引き抜きます。先がとがっている毛抜きがあれば、それを使用してください。
万が一マダニの体をつぶしてしまうと、マダニの体内にいる細菌などが刺咬部からヒトの体内へ一気に流れ込んでしまう危険があります。また、ヒトの体内に刺し込まれているマダニの口器が残らないように取り除くことが大切ですので、皮膚科や外科で除去してもらうのが確実でしょう。
その後、1ヶ月程度は体調に変化がないか注意してください。もし何か不調があれば、症状にあわせて皮膚科や内科を受診し、「マダニに咬まれた」と伝えるようにしましょう。

後遺症が残る可能性はありますか?

ライム病を治療した後6ヶ月以内に、だるさ・集中力低下・全身の関節痛や筋肉痛の症状が発生する患者が約10%みられます。これは、『ライム病後症候群』と呼ばれており、症状が半年以上続くこともあります。
原因は不明ですが、投薬のタイミングや組み合わせなどの研究は現在も進めているところです。
アメリカでは、この10年で約70%増加し、現在はライム病を治療した患者のうち5人に1人が後遺症に悩んでいるといわれています。

最後に、読者へメッセージをお願いします。

残念ながら、ライム病に有効なワクチンは現在開発されていません。そのため、感染しないための予防が大切です。
また、もしマダニに咬まれてしまった場合には、「気が済んだら勝手に取れる」と言われても放置せず、できれば皮膚科などの医療機関で確実に除去してもらうようにしてください。
ライム病は、後遺症を伴うケースもある大変やっかいな病気です。しかし、初期の時点でしっかり検査・治療を受ければ、2週間ほど薬を服用するだけで治ってしまうこともあります。
楽しい思い出が一生の後悔にならないように、野山にでかける際にはマダニ予防に努めるようにしましょう。

編集部まとめ


マダニを介して感染するライム病。全身症状や後遺症を伴うケースもある大変やっかいな感染症です。初期の段階で治療することで、合併症を防ぐ効果が期待できます。

もしマダニに咬まれてしまったら、なるべく皮膚科などの医療機関で確実に除去してもらうようにしましょう。

また、何よりも大切なのがマダニに咬まれないように予防することです。野山にでかける際には、マダニ対策を行うようにしましょう。

参考文献

ライム病とは(NIID国立感染症研究所)

ライム病(東京都感染症情報センター)