「カリニ肺炎」の症状・原因はご存知ですか?医師が監修!
カリニ肺炎とは、いったいどのような病気なのでしょうか。その症状や原因を詳しく解説します。
現在は、ニューモシスチス肺炎(Pneumocystis pneumounia:PCP)という病名で呼ばれている日和見感染症のひとつです。
つまり、病気や病気の治療により免疫が著しく抑制されることが原因となり引き起こされます。
特に自覚症状が現れず、気付かないまま重篤化することもある危険な感染症でもあります。
今回はニューモシスチス肺炎の予後や予防方法についての疑問にもお答えしますので、ぜひ参考にしてみてください。
カリニ肺炎の症状と原因
カリニ肺炎とはどのような病気なのですか?
カリニ肺炎とは、ニューモシスチス肺炎(Pneumocystis pneumounia:PCP)の旧称のことです。この病気は、「ニューモシスチス・イロベチイ」という真菌の一種に感染することで呼吸器症状が引き起こされます。以前は「ニューモシスチス・カリニ」という原虫によって引き起こされるとされていたため、カリニ肺炎と呼ばれていました。
「ニューモシスチス・イロベチイ」は、健康な人には害が及ぼさないような弱い真菌です。しかし、免疫力が下がった状態では病気を発症しやすくなるのです。これを日和見感染症といいます。
PCPは特に、HIV感染によるエイズ患者での発症が多く報告されています。
どのような症状が出るのかを教えてください。
PCPの特徴的な3つの症状は、労作時の息苦しさ・痰の絡まない乾いた咳・発熱です。ただし、必ずしもこれらの症状の全てが現れるわけではありません。一般的にPCPの症状は、急激に悪化するのではなく徐々に進んでいきます。そのため、低酸素状態であっても自覚症状を感じにくいことが特徴のひとつです。
強い咳が続くことで肺の一部に穴が開き、空気が漏れ出す気胸という状態が引き起こされることもあります。この状態になると咳だけでなく、息切れや胸痛といった症状が現れます。
自分で気付くことができる病気ですか?
主な症状は、発熱・咳・労作時の息苦しさです。これらの初期症状で異変に気付くこともできます。ただし、PCPは無症状の場合もあります。また、自覚症状が現れる場合でも、ある程度まで病状が進んでから現れることが多いです。感染に気付かず放置し、重篤化してしまうケースもあります。
発症する原因が知りたいです。
病気の治療により、免疫力が抑制されることが主な原因です。例えば、ヒト免疫不全ウィルス(HIV)への感染によるAIDS・がん・成人T細胞白血病などの治療でステロイドや免疫抑制剤を投与した際などに日和見感染を発症しやすくなります。カリニ肺炎の診断と治療
どのような症状が出たときに受診を考えるべきですか?
発熱・咳・息苦しさが一週間以上続く場合には病院を受診しましょう。他にも、悪寒や息を吸った時の胸の痛みが現れることがあります。特にHIV感染によるエイズ患者やがん患者など、免疫力が低下している人は感染リスクが高まります。かぜ症状以外にも普段より疲れやすい・胃腸の調子が悪い・筋肉痛など、体調に違和感があれば医療機関に相談するのがおすすめです。
また、PCPでは、体重減少や口腔カンジダが合併することもあります。口腔カンジダの場合、口の中の粘膜に白い斑な苔が現れるのが特徴的です。
しかし、白苔がみられず粘膜が赤くなり、ヒリヒリとした痛みが現れる場合もあります。症状だけで判断せず、普段と違うと感じたら受診を検討しましょう。
受診する際は何科に相談するのが良いのでしょうか?
かかりつけ医がある場合には、まずはそちらに相談してください。かかりつけ医が無い場合には、呼吸器科を受診しましょう。ただし、発熱や咳といった感染症状がある場合には、事前に医療機関へ病状を伝えておいたほうがスムーズに診察を受けることができます。カリニ肺炎の検査方法を教えてください。
問診や聴診に加え、胸部のレントゲン検査と血液検査を行います。レントゲン検査で左右の肺に均等に広がったすりガラス状の影が認められるのがPCPの特徴です。血液検査では、臓器や細胞の障害の指標となる血清LDH値と体内の炎症の度合いを示す血清CRP値の上昇が認められます。
また、病原となる真菌細胞壁を構成する主な成分であるβ-D-グルカン値を測定し、真菌感染の有無を確認することもあります。
カリニ肺炎の治療方法にはどのようなものがありますか?
主な治療法は、薬物投与です。通院治療が可能な場合には、抗菌薬やニューモシスチス肺炎(PCP)治療薬を内服します。薬を飲むことが難しい場合には、入院して点滴で加療することもあります。また、PCP治療薬によるアレルギー症状を抑えるためにステロイドを併用することも、よく用いられる治療法のひとつです。
重症化すると治療方法は変わりますか?
重症化して呼吸状態が悪化した場合には、薬剤の投与に加えて酸素の投与が必要になります。さらに病状が進むと気管内に管を通し、人工呼吸器を使用することもあります。カリニ肺炎の予後と予防方法
カリニ肺炎は完治する病気なのでしょうか?
ニューモスチス肺炎は身体の抵抗力が下がることによって起こる日和見感染です。よって、原因となる疾患や治療を続けている間は繰り返し発症する可能性があります。原因となる疾患が完治し免疫抑制の原因となる治療が終了することで発症を抑えることは可能です。ただし、保菌状態は継続されます。そのため、著しく免疫力が低下した際には原因菌が再活性することもあります。
致死率が高いといわれているようですが…。
ニューモシスチス肺炎は、死に至るおそれがある病気のひとつです。ただ、基礎疾患や受診した時の病状によっても予後は左右されます。例えば、人工呼吸器が必要となったエイズ患者では致死率が80%以上となったというデータも報告されています。一方、発熱・咳・労作時呼吸困難を訴えた白血病患者がPCPと診断され、PCP治療薬を使用せずにステロイドのみで回復に至ったケースもあるのです。
また、基本的には徐々に病状が進行するといわれていますが、急激に悪化した症例もあります。そのため、自覚症状がある場合には放置せず、できるだけ早めに病院へ受診することが大切です。
カリニ肺炎の予防方法を知りたいです。
PCPは患者の体内に存在する真菌が原因の感染症なので、マスクや手洗いという基本的な感染症予防対策はあまり有効ではないといわれてきました。しかし、最近では口や鼻から侵入した菌が原因である可能性が有力とされています。そのため、マスク・手洗い・アルコール消毒などの基本的な感染対策が有効な場合もあります。
著しく免疫機能が下がっている場合・ステロイドを長期的に服用する場合・移植手術の後などでは、抗菌薬の予防投与が選択されることが一般的です。
最後に、読者へメッセージをお願いします。
ニューモシスチス肺炎は、発熱や咳などのかぜに似た症状のため本人が気付かないうちに病状が進行することも多い病気です。ただ、必ずしも自覚できるような症状が現れるとは限りません。無症状のままで病気が進むこともあるのです。また、免疫機能が著しく低下すると日和見感染を起こしやすくなります。HIV感染によるエイズやがん治療によりステロイドや免疫抑制剤を使用している人は、日頃から感染予防対策をしておきましょう。
ちょっとした身体の違和感に気付くことにより、病気の早期発見・早期治療がつながることもあります。日々の健康管理に加え、毎日の体調を記録しておくこともおすすめです。
編集部まとめ
今回は、ニューモシスチス肺炎(旧称:カリニ肺炎)について解説しました。
以前は原虫によるカリニ肺炎と呼ばれていましたが、現在では真菌の一種による感染症ということが明らかになっています。
重篤化すると命に関わることもある危険な病気ですが、早期に受診することで重篤化のリスクを軽減させることができます。
特に、エイズ・がん・白血病などの治療によりステロイドや免疫抑制剤を使用している人は、体調の変化には気を配るようにしましょう。
また、マスク・手洗い・アルコール消毒といった基本的な感染対策や薬剤の予防投与という方法もあります。
気になることがあれば、躊躇せず、かかりつけ医に相談するようにしましょう。
参考文献
12-2.感染症(日本造血・免疫細胞療法学会)
口腔粘膜疾患(日本口腔外科学会)