人工透析がいらなくなる未来はある? 一生続けないといけないの?

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衰えてしまった腎臓の機能を医療機器の力で代替する人工透析。日本透析医学会の調べによると、日本には累計で32万人以上の透析患者がいるという。はたして、透析治療は一生続くのだろうか。ほかの方法はないのだろうか。最前線の事情と将来の展望を、ひらくクリニックの吉田啓先生に伺った。

監修医師:
吉田 啓(ひらくクリニック 院長)

東京慈恵会医科大学医学部卒業。同大学附属病院腎臓・高血圧内科勤務、同大学附属第三病院腎臓・高血圧内科勤務をへた2014年、東京都世田谷区にひらくクリニック開業。2018年には透析センター併設のため隣接地へ移転・増床。患者さんが未来を「ひらいて」いけるよう、日々の診療に努めている。日本内科学会認定内科医・総合内科専門医、日本腎臓学会腎臓専門医、日本透析医学会専門医・指導医、日本医師会認定産業医、慈恵医大第三病院非常勤診療医員。

慢性の腎不全は「治らない」という事実

編集部

人工透析は、一生続くのでしょうか?

吉田先生

残念ながら、そうなります。慢性の腎不全は、基本的に回復しないからです。例外としては、腎臓移植をした場合でしょう。また、服用したお薬などによる急性の腎不全なら、点滴や時間の経過によって回復することもあります。

編集部

人工透析以外で一生続くことはありますか?

吉田先生

あります。食事制限水分制限などです。透析で除去できる量には一定の限度がありますので、それを越えた塩分や水分などは抜けきれずに残ります。ですから、そうならないようにコントロールする必要があるのです。

編集部

そもそも透析は、なぜ必要なのでしょう?

吉田先生

腎不全を起こすと、血液中に含まれる水分・塩分・毒素などの排出が十分にできなくなるからです。心不全や呼吸困難など、生命に関わる事態へ発展することも少なくありません。そこで、腎臓に替わって透析機器で血液をきれいにする必要があるのです。

編集部

透析治療の頻度や1回の時間について教えてください。

吉田先生

血液透析と腹膜透析で異なります。一般的な血液透析の場合、週に3回通院し、1回あたり4時間前後かかります。腹膜透析は、ご自宅や職場でおこなえる代わりに、毎日、透析液バッグを4回取り換えます。1回の交換時間としては30分といったところでしょうか。

通院の必要がない「腹膜透析」とは

編集部

腹膜透析のお話がありましたが、どのような方法なのでしょう?

吉田先生

血液透析が、次々と流れてくる“川の中”で血液を洗うようなイメージだとしたら、腹膜透析は、川ではなく“池の中”で透析をおこなうイメージでしょうか。その池に該当する部分が、おなかの中にある腹膜です。腹膜の中には内臓が浮かんでいますので、そこに透析液を入れ、胃や腸などの表面にある血管から透析をおこないます。

編集部

腹膜透析は自宅でできると聞いていますが?

吉田先生

はい、その通りです。腹膜透析では、あらかじめ腹膜の中にカテーテルというチューブを挿入しておきます。そして、一方の端を体外へ出しておくのです。汚れた透析液と新しい透析液の交換は、このカテーテルを通しておこないます。1日4回交換するタイプのほか、就寝中に1回のみ交換するタイプもあります。

編集部

腹膜透析は誰でもできるのでしょうか?

吉田先生

ご自身でしっかり管理できるかがカギです。また、尿が一定量以上出ている方に限られます。なお、腹膜透析を一生続けることはできません。いずれ、血液透析に移る必要があります。性格やお仕事の内容などで難しい場合は、最初から血液透析にしたほうがいいかもしれませんね。

編集部

そのほか、腹膜透析の注意点があれば。

吉田先生

出張や旅行などに行く際は、透析液を持っていくか輸送しておく必要があるでしょう。透析液のメーカーは主に3社あり、それぞれカテーテルの形が異なります。同じメーカーの透析液が現地の医院にあれば、対応してくれるかもしれません。

編集部

いわゆる「在宅透析」とは腹膜透析のことでしょうか?

吉田先生

そうとも限りません。在宅“血液透析”をおこなっている患者さんも、ごくわずかながらいらっしゃいます。そのメリットは、食事や水分の制限がほとんどなくなること。通院での血液透析が週3回なのに対し、在宅での血液透析は毎日でも可能ですからね。条件は、自己管理力と、透析の針をご自分で刺せることです。

編集部

保険の有無や費用負担についても教えてください。

吉田先生

血液透析、腹膜透析ともに、保険が使えます。患者さんの負担額としては、1カ月あたり1万円です。保険のほか、税金による公的負担がなされています。一方、海外旅行中などに海外で透析を受けると、自費となる場合がありますので注意が必要です。詳細については、お近くの自治体などへお問い合わせください。

透析治療が不要な時代は来るのか

編集部

現在、人工透析を受けている患者数は?

吉田先生

日本透析医学会の統計調査「わが国の慢性透析療法の現況」によると、2015年12月時点で、32万4986人となっています。以降の数字は明らかになっていないものの、年々増加の傾向にあるようです。

編集部

どうやって、患者さんのモチベーションを保っているのでしょう?

吉田先生

将来に対する希望を持っていただくことが肝心です。一昔前までの透析治療は、その効果も低く、末期治療のようなイメージを持たれていました。しかし現代の透析治療は、寿命を全うできるくらいに進歩しています。とくに日本の透析技術は世界でもトップレベル。水質の点でも恵まれています。

編集部

透析治療について、今後の展望をお願いいたします

吉田先生

注目されているのは、やはりiPS細胞でしょう。現在、血液の中の老廃物をこして尿にするところまではめどが付いています。残る問題は、その尿をどうやって集めて体外へ排出するか。ざっとした感覚値では、あと30年もすれば、透析の不要な時代が訪れるかもしれませんね。

編集部まとめ

現在の医療技術では、残念ながら、人工透析を受け続けるしかないようです。ただし、在宅でおこなえる腹膜透析や在宅血液透析など、そのストレスを軽減する治療方法も残されているとのこと。また、近い将来、腎臓やぼうこうそのものを再生する技術が確立されるかもしれません。希望を持ち続けていきたいですね。