「脊柱管狭窄症」になると現れる初期症状はご存知ですか?医師が監修!
脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)とは加齢や衝撃などによって、背骨が変形することで脊髄や神経が圧迫されて起こる病気です。
狭窄した部位によって、手や下肢にしびれや痛みが出るほか、麻痺(まひ)が起こって歩けなくなったり排泄がうまくできなくなったりすることがあります。
脊柱管の狭窄部位によって、上から頚部脊柱管狭窄症・胸部脊柱管狭窄症・腰部脊柱管狭窄症に分けられ、全般に狭窄する広範脊柱狭窄症もあります。
これらのなかで最も多いのが腰部脊柱管狭窄症です。
脊柱管狭窄症の症状と原因
脊柱管狭窄症の症状を教えてください。
脊柱管は、脳から腰椎まで背骨の中を通っている管で、脳脊髄液で満たされた中に脊髄や神経の束が通っているトンネルのような構造になっています。加齢や衝撃による背骨の変形によって、脊柱管が押しつぶされて狭窄することがあり、そうなると脊柱管の中を通る脊髄や神経が圧迫されるのが脊柱管狭窄症です。
症状としては手指や下肢のしびれや痛み・麻痺による歩行障害・排尿障害などがあります。また腰部脊柱管狭窄症の特徴的な症状として間欠性跛行(はこう)があり、これは歩き続けていると痛みやしびれが強くなるのに、少し休めばまた歩けるようになる状態のことです。
発症する原因を教えてください。
原因として最も多いのは、加齢によって背骨や靭帯などの形が変わってしまうことで、日本国内の推定患者数は570万人とも言われ、特に高齢者では40%が罹患しているとされています。生まれつき脊柱管が狭窄している先天性の場合は、体の成長とともに狭窄がひどくなることが多いとされています。また、背骨が変形する椎間板ヘルニア・脊椎すべり症・脊椎側弯症などは、脊柱管の狭窄が起こりやすく発症することが多い病気です。そのほか、交通事故や激しいスポーツの衝撃による背骨の変形も、脊柱管の狭窄を起こしやすく発症につながります。
どのような人がなりやすいですか?
一般的には40歳以上の中高年に多い病気です。また、骨粗鬆症を患っている高齢女性は脊椎の圧迫骨折を起こしやすく、それが原因となって脊柱管狭窄症を併発することがあります。また、若い世代でも激しいスポーツによって椎間板ヘルニアとなったのをきっかけに発症することがあり、長時間同じ姿勢でいるデスクワーカーも狭窄を起こしやすく要注意です。
受診を検討するべき初期症状を教えてください。
主に次のような症状が初期症状とされています。長い時間立っていたり歩いたりすると、下肢にしびれや痛みが出ることがある
痛みやしびれが出ている時に、座ったり前かがみになったりすると楽になる
背骨を後にそらして伸びたりすると痛みが出る
下肢の両方にしびれや痛みが出る
歩くと痛みやしびれが出るが、自転車なら問題なく乗れる
下肢のふんばりが利かない
腕や指に痛みやしびれがあって、うまく動かせない
おしりが火照ったりしびれたりすることがある
頻尿・尿もれ・残尿感が気になる
よく便秘になる
これらの症状がいくつかみられたら、できるだけ早く整形外科で診察を受けてください。
脊柱管狭窄症の検査と治療
脊柱管狭窄症はどのような検査で診断されますか?
問診・身体検査・X線(レントゲン)検査が実施され、問診で重要なのは、この病気の特徴である間欠性跛行があるかについて確認です。しかし、それだけで診断が難しい場合や手術などが必要な場合にはMRI検査や脊髄造影CT検査が実施されます。MRI検査は脊柱管内の様子を診察できるので、神経の圧迫具合や重症度が判る検査です。ただし、強い磁力を発するため体の中にペースメーカーなどの金属が入っている人や、狭い筒の中に入る形になるため閉所恐怖症の人は検査できない場合があります。
MRI検査でも診断が難しい場合、あるいは手術を実施する前に腰椎など背骨の状態を詳しく診るために、脊髄造影CT検査が有効です。この脊髄造影は治療方針の決定にも重要な役割を果たしますが、一泊の入院が必要となる事が多いほか、造影剤アレルギーがある人には実施できない検査です。
治療方法を教えてください。
大きく分けて保存療法と手術療法があり、症状が軽いうちであれば、保存療法だけでも症状が改善することがあります。保存療法には次に挙げる療法があり、痛みがひどい時には、局所麻酔剤を痛みがある神経の周りに注射する神経ブロック療法が施術されます。腰部脊柱管狭窄症に対してはとくに腰部硬膜外ブロックが有効です。薬物療法ではいろいろな種類がある消炎鎮痛剤(非ステロイド性消炎鎮痛薬やアセトアミノフェン)や神経障害性疼痛の第一選択薬であるプレガバリン(商品名:リリカ)などを内服します。
そのほか、前かがみの姿勢を保つコルセットなどを装着する装具療法や、温熱・超短波・マッサージなどの理学療法、骨盤などを引っ張るけん引療法、腰痛体操などの体操療法など、さまざまな療法があります。
手術は必要でしょうか?
保存療法を数カ月間続けても効果がなく、しびれや痛みがどんどん強くなり、下肢が弱って排尿や、排便に障害が出るようになると手術が必要です。手術は大きく分けて除圧術と固定術の2つの方法があります。除圧術は狭窄している脊柱管を拡げる術式で、狭窄箇所が2ヶ所以下なら内視鏡手術が可能で、切開せず低浸潤のため退院までは術後3~7日と、切開術の半分以下の日数です。背骨が変形している場合は固定術となり、切開して脊柱管を拡げながら脊椎を金属で固定します。ただ最近では固定術を内視鏡でもできる施設があるので、整形外科で相談してみるとよいでしょう。
リハビリはどのように行いますか?
保存療法としてのリハビリには、大きく分けて歩行練習などのADL練習と筋力トレーニングがありますが、しびれや痛みが強い場合は、悪化を防ぐためにまず安静第一です。症状が落ち着いてきたら、血流を改善して腰や背中の筋肉を伸ばし強化するために、腰をまるめるようにするストレッチや、背骨を支える体幹を鍛える筋力トレーニングを開始します。
また、手術後のリハビリは入院による筋力低下や筋肉の柔軟性低下を防ぐため、できるだけ早い時期に軽い歩行練習を始めるようにします。これらリハビリは自己判断で行わず、理学療法士の指示に従って無理のないように行うことが大切です。
脊柱管狭窄症の予後と注意点
脊柱管狭窄症は完治するのでしょうか?
保存療法は症状を改善することが目的であって、根本治療ではないため完治への期待が薄い療法です。脊柱管狭窄症では自然治癒はほとんど期待できませんが、手術を受けることで完治する可能性はあります。ただ、脊柱管が狭窄した状態が長く続いていた場合は、手術をしても圧迫された神経が修復されないことがあり、症状の改善は難しくなります。
放置するリスクを教えてください。
狭窄した脊柱管は自然に元に戻ることはなく、加齢とともに背骨の変形もひどくなって次々に狭窄を起こし、やがて歩行困難となることが大きなリスクです。放置したままでよいことは何もありませんので、しびれや痛みが軽いうちに整形外科を受診しましょう。日常生活でやってはいけないことを教えてください。
脊柱管狭窄症の症状が出ている時は、次に挙げる動きは避けましょう。括弧内に書かれている行動をとるように心がけてください。
立っている時に腰をまっすぐに伸ばす(少しかがめるようにする)
長時間同じ姿勢のままでいる(1時間に1回は姿勢を変える)
立つ時に背骨をねじる、後にそらす(腰をかがめて周囲のものにつかまり立ちする)
症状があるのにウォーキングや筋トレをする(無理せず症状が出ている間は止めましょう)
最後に、読者へメッセージをお願いします。
脊柱管狭窄症は、主に加齢によって脊柱管が狭窄することが原因ですが、若い世代でも激しいスポーツや長時間のデスクワークなどで発症することがあります。予防には正しい姿勢で過ごすのが一番で、そのほかにインターネットなどで紹介されている予防体操やストレッチなどを日常生活に取り入れるのもおすすめです。もし症状が出ていたら、脊柱管狭窄症には症状や生活環境によりさまざまな治療法があるので、自己判断をしないで、必ず整形外科を受診しましょう。編集部まとめ
脊柱管狭窄症を防ぐには、ふだんの生活において姿勢を正しく保ち、背骨への負担を減らすことが大切です。
しかしその一方で、すでに発症している場合は、無理に背筋を伸ばすと悪化することがあるので注意が必要です。
脊柱管は一度狭窄してしまうと自然治癒は難しいため、上でご紹介した初期症状に心当たりがある場合は、必ず整形外科で診察を受けておきましょう。
とくに高齢者は、症状が進むと寝たきりになる可能性があるので、1日でも早く受診することをおすすめします。
参考文献
「腰部脊柱管狭窄症」(日本整形外科学会)
腰部脊柱管狭窄症‐神経を守ろう(日本医師会)
70 広範脊柱管狭窄症(厚生労働省)