「亜鉛欠乏症」になると現れる症状・原因はご存知ですか?医師が監修!
「最近、抜け毛が増えた」「味覚が変な感じがする」と感じる人は、亜鉛欠乏症かもしれません。
亜鉛は人体に約2~3gある生活する上で欠かせないミネラルで、ドラッグストアでも亜鉛のサプリが多く販売されています。
しかし亜鉛を意識して摂取していない人も多く、特に妊婦・授乳中の親・運動している人は亜鉛が不足した状態になりやすいです。
この記事では、亜鉛が不足して不調をきたす亜鉛欠乏症の症状・原因・治療・予防法・受診について解説します。
亜鉛欠乏症の症状と原因
亜鉛欠乏症はどのような病気でしょうか?
亜鉛欠乏症とは、その名の通り亜鉛が不足している状態をいいます。亜鉛は300種類以上の酵素の活性化に必要な栄養素で、細胞分裂や核代謝など体の代謝において重要な役割を果たしています。
亜鉛の体内での作用は、皮膚代謝・生殖機能・小児の身長の伸び・骨格の発育・味覚維持・精神への影響・免疫機能と様々です。つまり、亜鉛は傷の治癒や子どもの成長、皮膚の健康に必要な栄養素で、亜鉛欠乏症ではこれらの作用が十分に発揮されません。
亜鉛欠乏症にならないようにするためには推奨されている摂取量(成人で1日8~11g)を食事もしくはサプリから摂取する必要があります。
発症した場合はどのような症状がみられますか?
初期症状として食欲減退・乳児や小児の発達の遅延・まだら状の脱毛がみられます。そして症状は皮膚炎・脱毛・貧血・味覚障害・発育障害・性腺機能不全・下痢・骨粗鬆症・易感染と幅広いです。その中でも味覚障害は「舌に何かシートが一枚張っているような感じがする」という特徴があります。高齢者など食事摂取量が少なく亜鉛が不足していると、感染症にかかりやすく重症化しやすいです。
また妊婦が亜鉛不足状態だと低出生児が産まれたり先天異常が生じたりすることもあります。
小児では遺伝性疾患である腸性肢端皮膚炎を発症している場合、ママが亜鉛不足のまま授乳を続けると卒乳後に亜鉛欠乏の症状が出ることもあり、亜鉛不足は子どもから大人にまで多くの影響を及ぼすのです。
爪に症状が現れやすいと聞きましたが…。
亜鉛欠乏症では爪にも症状が現れることがあります。しかし、爪の症状は亜鉛不足だから必ずしも出現するとは限りません。では爪にどんな変化が生じるかというと、まず初期段階で爪の周囲が赤くなる爪囲紅斑、その後白色帯やBeau’s lineが出ます。爪の周囲には甘皮があり爪を感染しないよう保護する役割がありますが、亜鉛不足によって甘皮の生成が遅れ感染しやすい状態になり、爪の周りが赤くなってしまいます。
また白色帯やBeau’s lineは亜鉛不足だから出現するとは限りませんが、栄養が不足していると出る症状です。
全ての手足の爪に1本の横線が入る状態をBeau’s lineといい、亜鉛だけではなく他の栄養素が不足している可能性もあります。Beau’s lineがある時は栄養バランスの取れた食事が摂取できているか確認すると良いでしょう。
亜鉛欠乏症の原因を教えてください。
亜鉛欠乏症になる原因には亜鉛の需要が多い・吸収不良・摂取不足・排泄量過多などが挙げられます。まず乳児・小児に関しては腸性肢端皮膚炎を発症している場合亜鉛の吸収障害が起きて亜鉛不足になり、高齢者は低栄養になりやすく経管栄養している人も栄養剤に亜鉛が不足していれば摂取量が少なくなります。
他に持病で糖尿病を患っていたり腎障害などで血液透析を行ったりしている人は、栄養素を再吸収できず亜鉛も排泄してしまうなど、亜鉛が欠乏してしまう理由は様々です。
症状も人によって様々ですが体には必要な栄養素なので、日頃から意識して亜鉛を摂取することが大事になります。
亜鉛欠乏症はどのような人がなりやすいのでしょうか?
食事から亜鉛を摂取している人は、亜鉛欠乏症になりにくいとされています。しかし持病にて利尿剤を服用している人・糖尿病・慢性腎臓病・慢性アルコール中毒・重度の熱傷・敗血症にかかっている人は、吸収障害や排泄過多などの影響により亜鉛が欠乏した状態になりやすいです。また施設に入所している高齢者や経管栄養の人も亜鉛の摂取量が足りず亜鉛不足になりやすいといわれています。特に何の持病もない人でも、亜鉛だけでなく栄養バランスを意識した食事をとるよう心がけましょう。
妊婦は特に亜鉛や葉酸を積極的にとると、低出生体重児や先天異常を生じる確率を下げることができます。
亜鉛欠乏症の受診と治療
亜鉛欠乏症を疑う場合は何科を受診すれば良いでしょうか?
亜鉛欠乏症かもしれないと悩まれている人はまず内科を受診しましょう。皮膚炎・脱毛・貧血・味覚障害・発育障害・性腺機能不全・下痢・骨粗鬆症・易感染の1つだけでなく3~4つ以上など複数当てはまった場合は亜鉛欠乏症の確率が高く、乳児・小児に症状が出た場合は内科ではなく小児科の医師に相談してください。
また味覚障害が持続する場合は亜鉛不足だけでなくコロナウイルス感染による症状も考えられるので、気になる人は耳鼻科へ受診するのも1つの手段です。
どのような検査で診断されますか?
亜鉛欠乏症は臨床症状・血液検査・サプリ投与による効果の有無の3つから診断をつけます。皮膚炎・脱毛・貧血・味覚障害・発育障害・性腺機能不全・下痢・骨粗鬆症・易感染の症状から1つ以上当てはまること、あるいは血清ALP高値・血清亜鉛低値(60µg/dL未満)・亜鉛サプリ投与にて症状の改善がみられることで亜鉛欠乏症と確定診断がつきます。
また血清亜鉛が60~80µg/dLだった場合は潜在性亜鉛欠乏症の対象です。
治療方法を教えてください。
亜鉛欠乏症と診断された場合は、積極的に亜鉛を含む食材の摂取を勧めますが食事療法だけでは改善せず内服治療となることが多いです。亜鉛の摂取量は年齢によって異なり、乳幼児・小児は1~3mg/ kg/日を目安とし、幼児は25~50mg/日・学童~成人は50~150mg/日の内服を行います。
また慢性肝疾患・糖尿病・慢性腎不全などの持病を持っている人は血液検査で亜鉛値が低下傾向にありますが、明らかな亜鉛欠乏所見がなくとも亜鉛を投与することで症状の改善がみられることもあります。
しかし、亜鉛投与の際は副作用に注意しなければなりません。嘔気・嘔吐・腹痛などの消化器症状、銅欠乏による神経障害、鉄欠乏による貧血などの症状が出る可能性があります。しかし副作用が出現する確率は低く、いずれも軽症なので内服を中断するほどにまで至りません。
数ヶ月毎に血液検査を行いながら、内服の可否を相談しつつ行っていくのが一般的な亜鉛欠乏症の治療法になります。
亜鉛欠乏症の治療期間はどのくらいでしょうか?
亜鉛欠乏症の治療期間は明確な日数がありませんが、1日で改善されるものではありません。最低でも数週間、数ヶ月は継続して内服治療を行うことで症状の改善が見込まれます。しかし内服治療は継続が必要不可欠なので、症状が落ち着いたからと自己判断で内服を中断しないよう注意しましょう。
亜鉛欠乏症の予防
亜鉛欠乏症を予防する方法はありますか?
亜鉛欠乏症の予防法は、食事内容の見直しが基本になります。亜鉛は様々な食材に含まれているので、外食が多かったり極度な偏食でなかったりすれば亜鉛不足にはなりにくいですが、運動を毎日習慣的に行っている人や妊婦はより意識して摂取することをおすすめします。
また高齢者はあっさりした食事を好みやすいので、卵や肉などを積極的に食べると亜鉛不足を回避できるでしょう。
亜鉛が多く含まれる食べ物を教えてください。
亜鉛を多く含む食品は1番に牡蠣(13.2g)があり、その他にビーフジャーキー(8.8g)・豚レバー(6.9g)・パルメザンチーズ(7.3g)・ピュアココア(7.0g)・抹茶(6.3g)などがあります。肉・乳製品・海鮮などに亜鉛は幅広く含まれているので、これらの食材を上手く普段の食事に取り入れて、亜鉛だけでなく他の栄養素もバランス良く取り入れるようにしましょう。
亜鉛不足はサプリメントで補えますか?
亜鉛は基本的に食事からの摂取が1番好ましいですが、忙しくて食事が十分に取れない場合はサプリメントからでも補うことは可能です。実際に亜鉛欠乏症の治療にサプリメントを使用することもあります。亜鉛はマルチミネラルのサプリでも単体のサプリでも摂取できるので、自分に必要な栄養素に応じて取り入れてみてください。
しかしサプリメントで亜鉛を補う際に過剰に摂取してしまうと、嘔気・嘔吐・腹痛・下痢など消化器症状が出る可能性があるので必ず適量を守りましょう。
最後に、読者へメッセージをお願いします。
亜鉛欠乏症は何かしらの疾患を抱えている人や妊産婦などに発症しやすいですが、健常者でも亜鉛が不足しているかもしれません。亜鉛欠乏症の症状が出ている人は、積極的に亜鉛を摂取することで症状の改善が期待できるので、日頃から意識して取り入れるようにしましょう。
継続して摂取することが大切です。また亜鉛欠乏症の治療により、内服治療を行っている人は副作用に注意し、症状が出現した際は医師に相談しましょう。
編集部まとめ
亜鉛は骨・歯・皮膚など体の様々な場所に存在する大切なミネラルです。亜鉛が不足すると脱毛・皮膚炎・発育障害など多岐にわたり影響が出ます。
亜鉛欠乏症の発症を予防するためにも、日頃から食事内容を意識して亜鉛を取り入れるようにしましょう。食事だけで難しい場合はサプリメントで補うことも可能です。
亜鉛不足により症状が出現した際には医療機関へ受診し、医師に相談してください。
参考文献
亜鉛(厚生労働省eJIM)