火星最大の衛星であるフォボスは最大直径約27kmの小さな天体で、火星の表面から約6000km以内の軌道を7時間40分ほどで1周しています。そんなフォボスは表面に放射状の溝が存在していることで知られていますが、この溝が「火星の重力によってフォボスが引き裂かれる兆候」であるとする研究結果が発表されました。

Numerical Simulations of Drainage Grooves in Response to Extensional Fracturing: Testing the Phobos Groove Formation Model - IOPscience

https://doi.org/10.3847/PSJ/ac8c33

Mars may be slowly ripping its largest moon apart | Live Science

https://www.livescience.com/phobos-moon-being-ripped-apart

フォボスは太陽系の衛星の中で最も主星に近い軌道を周回している天体であり、火星の自転よりも速く公転しています。フォボスの軌道は安定しておらず、100年ごとに約1.8mのスピードで火星表面に向かって落下しているため、このままでは約4000万年後に火星と衝突するとのこと。

そんなフォボスの特徴が、表面に見えるきれいなしま模様の溝です。溝の形成について最も広く受け入れられている仮説は、フォボス最大のクレーター「スティックニー」を形成した過去の小惑星衝突で溝が形成されたというものです。



by Steve Jurvetson

小惑星の衝突以外には、火星の重力がフォボスを引っ張る潮汐力が溝を形成したという仮説があります。しかし、フォボスは粒状の堆積物で覆われているため、このような亀裂を形成するには柔らかすぎるという反論があったとのこと。

そこで研究チームはコンピューターシミュレーションを使用して、「フォボスの柔らかい堆積層の下には比較的固い内部領域がある」というアイデアについて調査しました。その結果、内部の比較的固い層に潮汐力で溝が作られ、そこに堆積物が落ちることでしま模様が形成された可能性があると判明しました。

研究チームは、「フォボスの内部を凝集層で覆われたがれきの山としてモデル化すると、潮汐力によって一定間隔で平行な亀裂ができることがわかりました」と記しています。フォボスの溝が潮汐力によって形成されている場合、フォボスは火星と衝突する前に潮汐力で引き裂かれ、破片が土星のように火星周辺にリングを形成する可能性があるとのことです。

なお、日本の宇宙機関であるJAXAは、Martian Moons eXploration(火星衛星探査計画)という探査計画を進めており、その中でフォボスに着陸してサンプルを持ち帰る計画です。