ユーモアは社員の失敗することへの恐怖心をなくし、積極的に新しいことにチャレンジする勇気を与えてくれる(写真:Sundry Photography/GettyImages)

日本の企業はなによりも「真面目」であることを大切にする。ところが、それとは対照的に、アップルやピクサー、グーグルのような企業は、なによりも「ユーモア」を大切にすることで、大きく成長している。
スタンフォード大学ビジネススクール教授のジェニファー・アーカー氏と、同校講師でエグゼクティブ・コーチのナオミ・バグドナス氏によれば、ユーモアにあふれる職場は心理的安全性をもたらし、信頼関係を築き、社員のやる気を高め、創造性を育むという。
今回、日本語版が9月に刊行された『ユーモアは最強の武器である』より、一部抜粋、編集の上、お届けする。

ユーモアは社員の恐怖心を払拭する

従業員たちがすばらしい作品を生み出す環境をつくることは、それ自体が技術だ。


アップル社のクリエイティブ・デザイン・スタジオのトップを務めた浅井弘樹は、クリエイティブ・シンキングのための重要な促進剤として、ユーモアを活用した。

「創造力の最大の阻害要因は、恐怖です」浅井は語った。「そしてユーモアこそ、企業文化から恐怖を遮断するのにもっとも効果的なツールだとわかったのです」

浅井にとって、ユーモアを駆使するのに全社会議ほどうってつけの場はなかった。2000名を超えるクリエイティブ・スタッフが一堂に会するのだ。

全社会議はきわめて真剣な場で、最高に面白かった。

浅井は毎回数カ月前にはチームを招集し、スタッフで満場のホールにどっと笑いが沸き起こる体験を用意周到に計画する。

あるときは、パフォーマンス・アートカンパニー「ブルーマン・グループ」に扮したスタッフたちの動画を撮影した。

またあるときは、逃亡者(=浅井)を激しく追跡するギャグ動画を上映。あるいは会場のスタッフのなかから突然、フラッシュ・モブでゴスペルの聖歌隊が現れたこともあった。いずれにも共通している特徴は、「意外性」と「みんなを笑わせる力」だ。

全社会議では、あらゆる瞬間が貴重だ。だからこそ浅井は、思いがけない方法で人びとを結びつけようと工夫を凝らした。

全社的に恐怖がクリエイティブのプロセスをむしばんでいたが、陽気さとユーモアがそれを解き放つのを、浅井は目の当たりにした。

ユーモアが「組織から恐怖を追い払った」ことで、みんながもっと自由に考え、もっとオープンに語り合い、新しいシナリオやアプローチを受け入れられるようになったのだ。

心理的安全性が挑戦を可能にする

安全性と仕事の能率には、強固な関連性がある。エイミー・エドモンドソンと同僚たちによる研究では、心理的安全性(失敗しても罰せられたり、バカにされたりしないと思えること)によって、私たちはより柔軟で打たれ強くなったり、いっそうやる気が出たり、粘り強くなったりすることがわかった。

失敗を気にしなくてもいいという安心感があると、大胆になり、大きなリスクをとる勇気が湧いてくるのだ。
浅井も次のように述べている。

「結局のところ、陽気さの文化は従業員にとって安全な場を生み出すのです。安心感があって、リーダーが恐怖ではなく陽気さでみんなを導いていると感じると、思い切って挑戦する意欲が湧いてきます。バカにされる、仲間外れにされるといった心配をせずに、いろんなことを試してみたくなる。イノベーションに対して積極的になるのです。古いアイデアに抵抗し、新しいアイデアを推し進めます」

笑いはストレスを緩和し認知機能を高める

ユーモアと心理的安全性のつながりは、笑いにある。笑える、と思っただけでもコルチゾール(いわゆるストレスホルモン)が39%、エピネフリン(「闘争・逃走」反応を引き起こすホルモン)が70%も減少し、安心感が生まれ、心が落ち着き、ストレスが緩和されることが明らかになっている。

そしてストレスが和らげば、もっといい仕事ができる。2007年のボルチモア記憶研究では、参加者たちの唾液コルチゾール値を測ったあとで認知機能テストを行い、7つの指標における結果を測定した。すなわち、言語、処理速度、視覚・手指協調、実行機能、言語記憶および学習、視覚的記憶、視覚構築の7つだ。

すると、コルチゾール値の低下と7つのうち6つのタスクの高得点には、相関関係があることが明らかになった(リラックスしてストレスが緩和されても、視覚構築には効果が見られなかった)。

つまり、笑うとコルチゾール値が低下し、コルチゾール値が下がれば成績がよくなるのだ。

(翻訳:神崎朗子)

(ジェニファー・アーカー : スタンフォード大学ビジネススクール教授、行動心理学者)
(ナオミ・バグドナス : スタンフォード大学ビジネススクール講師、エグゼクティブ・コーチ)