「勝たせることが出来る捕手に」自分を磨く福永奨 [写真=北野正樹]

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◆ 猛牛ストーリー 【第35回:福永奨】

 連覇と、昨年果たせなかった日本一を目指す今季のオリックス。監督・コーチ、選手、スタッフらの思いを「猛牛ストーリー」として随時紹介していきます。

 第35回は、国学院大からドラフト3位で入団したルーキー・福永奨選手(23)です。高校・大学で主将を務めた強肩強打の捕手。一軍が熾烈な優勝争いを繰り広げる中、「早く一軍の戦力になってチームに貢献したい」と、目標として掲げる「チームを勝たせることができる捕手」に向けて、ファームで研鑽を重ねています。

◆ “ほぼぶっつけ本番”の中で好リード

 「リードが良かったよ」。9月18日、大阪シティ信用金庫スタジアムで行われたウエスタン・リーグ広島戦の試合後、岸田護投手コーチから掛けられた言葉に、福永の顔がほころんだ。

 先発は育成2年目の川瀬堅斗。今季、先発ばかりで4試合目の右腕は、力強いストレートにカーブ、チェンジアップで緩急をつけた投球で5回を3安打、1四球で5奪三振の無失点に抑え、ファームながら“プロ初勝利”を挙げた。

 その好投をリードで支えたのが福永だ。2回と3回に三振を奪ったが、2回は韮澤雄也に対し外角を3球続け、ファウルも含め0ボール・2ストライクと追い込み、4球目は内角へ直球をズバリと攻めて見逃し三振に。

 3回の田村俊介には、内外角のコーナーを突いて揺さぶり、4球目に内角低めの直球で2ボール・2ストライクとすると、5球目もやや内角寄りへ低めの直球を要求。田村のバットは空を切った。

 5回には、無死一塁から持丸泰輝と二俣翔一を連続三振。持丸には2球目の内角低めを除いて外角を攻め、4球目の外角高めの直球で空振りに。二俣は内外角へ2球で追い込み、外角へのチェンジアップで3球三振に仕留めた。

 サイン通りに投げ込む川瀬の制球力があったからこそだが、内外角の高低を突く福永のリードが光った。

 担当コーチでない岸田コーチが褒めた配球は、福永がアマチュア時代から心に刻んで来た「勝たせることが出来る捕手」を体現したものだった。

 実は、福永は9月15日の中日戦(杉本商事BS舞洲)で頭部に死球を受けたため2試合を欠場。そこからほぼぶっつけ本番のスタメンマスクだけに5回で退いたが、チームは5−0で広島に快勝。川瀬の初勝利に貢献できたことに満足気だった。

 「9回を終わって1点差でも勝てばいいのですが、捕手としては0点に抑えたい。2−0と2−1では大きく違います。防げる失点は防いでおかないとチームに良い流れが来ないし、勢いづきませんから。例え負けても、次の日の対戦を考えてリードをしなければいけないし、1戦目から3戦目のことを考える配球が必要になってきます。そこはプロになってから感じているところです」

◆ 指揮官から譲り受けたミット

 輝かしい球歴だ。中学時代は神奈川・戸塚シニア3年時に全国シニア選手権で4強。横浜高では2度、夏の甲子園に出場。主将で出場した3年夏は1回戦で秀学館を相手に初戦敗退したが、3ランを放った。

 国学院大でも、4年時に主将としてチーム初の春秋連覇に導き、秋季リーグ戦ではリーグ6位の打率.323、2本塁打、7打点で最高殊勲選手に輝いている。

 オリックス入団後も強肩をアピールして注目を集めたが、キャンプ終盤の練習試合でファウルチップを受けて左脚の指を骨折。開幕一軍は逃してしまった。

 二軍では捕手としてチームトップの81試合に出場。経験を積む毎日だ。

 「増井(浩俊)さんや比嘉(幹貴)さん、齋藤(綱記)、山田(修義)、吉田(凌)さんという一軍で実績のある方や、若い選手のボールを受けさせてもらうことが出来て、とても良い経験をさせてももらっています。アイツのサインならその通り投げ込んでやろう、と思ってもらえる捕手になるため、コミュニケーションを取って準備や予測の部分を勉強しています」という。

 中嶋聡監督の期待も高い。キャンプ第3クールには、監督から日本ハムのコーチ時代に使っていた名前入りのミットを譲ってもらったほか、監督の指示で山岡泰輔、山本由伸、宮城大弥の投球をブルペンで受けた。

 「プロではどのタイプのミットにしようかと考えていた時に、『使ってみろ』と譲っていただきました。練習でたまに使わせていただいていますが、小ぶりで親指の部分が薄くて使いやすい。普段に使っている同じメーカー(ハタケヤマ)なので、来年は監督の型で作ってみたいと思います」

◆ 「優勝争いの中に入って貢献したい」

 “英才教育”も受けている。6月22日のソフトバンク戦(京セラD大阪)の全体練習前に、齋藤俊雄バッテリーコーチらの指導で始まった捕球練習。途中で姿を見せた中嶋監督は、自ら素手でボールを持って捕球姿勢を示し、直接指導を行った。

 背中越しにビデオ撮影をして捕球位置を確認する、試合前の練習では珍しい光景は、捕手のレジェンドの期待の高さを再認識させるものだった。

 「審判の方に、きわどいコースをストライクに取ってもらいやすいキャッチングの技術を教えていただきました。試合前なのにありがたいことでした。早く自分のものにしていきたい」と福永。

 ここまで一軍では5試合に出場。6月12日の阪神戦では、ガンケルから内野安打ながらプロ初安打も放った。

 苦い敗戦もある。昇格直後の初先発マスクとなった4月10日のロッテ戦(ZOZOマリン)で、佐々木朗希に完全試合を許した。

 「打てなかったとしても、0点に抑えれば負けることはありません。やるべきことをやったのなら仕方がありませんが、やるべきことが出来ずに負けるのが一番悔しい。今後につながる良い経験をしたと思っています」

 プロとして初の公式戦でやられた完全試合。この屈辱は、改めてチームを勝たせることが出来る捕手として、さらに成長しなければいけないことを教えてくれた。

 「早く一軍の優勝争いの中に入って、チームに貢献したいですね。野口(智哉)や渡部(遼人)は、良い経験をしてきたと思います」

 ファームも残り3試合。同期の野手たちの活躍を糧に、静かな闘志を秘め自分を磨く。

取材・文=北野正樹(きたの・まさき)