売れる営業マンと売れない営業マンはどこが違うのか。営業コンサルタントの岡哲也さんは「売れない営業マンは、仕事に必要なコミュニケーション力を勘違いしている。お客が何を求めているのかを探る力こそ真の『コミュ力』であることを理解すべきだ」という――。(第2回)

※本稿は、岡哲也『絵でわかる配属1年目でも目標達成できる営業の教科書』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/AH86
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AH86

■一般的な「コミュ力」と「営業に必要なコミュ力」はまったく違う

自称コミュ力が高い人、もしくは、営業にはコミュ力が必要だと豪語する人は、継続的によい成果を出せない人が多いとわたしは感じています。

なにも営業にコミュニケーション力が不要という話ではありません。

もちろんあくまでも最低限のコミュニケーション力が必要です。しかし、それだけでは継続的な成果を出し続けることが難しいということです。

コミュ力というものの本質について勘違いをしているのではないかと思うのです。

一般的に言われているコミュ力と、営業マンに必要なコミュ力とは実は違いがあります。

私の考える“営業マンに必要なコミュ力”と、世間一般が考える“コミュ力”が異なるように感じることが多々あるので、今回はそこについてお伝えしていきたいと思います。

■「仲良くなれること=コミュ力」ではない

初めに挙げられるのが、「すぐ人と仲良くなれる力=コミュ力」だと思っていることです。

早い段階で他人と仲良くなれることはとても素晴らしいことですし、誰にでもできることではないと思います。特技とさえいってもいいかもしれません。これが悪いと言いたいわけではありません。

でも、それが「営業マンに必要なコミュ力の本質」かと言われるとそうではないということです。

一度、考えてみてください。お客さまと仲良くなったところで、本当に結果につながると思いますか?

あなたが営業マンであれば、仲良くなったところで成約に至らないといったケースはいくらでも経験しているはずです。

実はそこには、大切な“あること”が抜け落ちているのです。

■お金を貸せる人とそうでない人の決定的な違い

例えば、あなたにも仲の良い友達はいますよね? その仲良しの友達から「お金を貸してくれ」と言われた時に、仲良しという理由だけで大事なお金を貸すことができますか?

恐らく、仲良しの友達の中でも実際にお金を貸せるかどうかは、人によって大きく分かれると思います。

では「お金を貸しても良いと思える仲良し」と「お金を貸せない仲良し」は何が違うのか?

そこに、抜け落ちている“あること”が隠されていると私は思います。

相手にお金を貸せるかどうかは、相手がきちんと返してくれると思えるかどうか、つまり、信頼できるかどうかが大事だとは思いませんか。

つまり、本当に必要なのは「仲良くなること」ではなく「信頼されること」につながるコミュニケーションなのです。

■会話は盛り上がるのに、成果につながらないワケ

私は前職の保険金融業界で生命保険というサービスをたくさんのお客さまに届けていました。保険の仕事というのは、お客さまから“お金をお預かりする”とてもデリケートな職業です。

お客さまとの共通点をたくさん見つけて趣味の話で盛り上がり、冗談で笑いを交えつつ楽しい商談で終えたとしても、「なんかこの人薄っぺらいな……」とか、「上辺だけなにおいがするな……」と少しでも感じられてしまったら、どんどん信用されなくなっていきます。つまり、成果につながらなくなってしまう。

自称コミュ力が高い人は、その点を勘違いしていることが非常に多いのです。

だから、逆にあまりにも会話の盛り上がりや楽しさを重視するあまり、結果的に“軽く”見られてしまいやすいのです。

「良い雰囲気で商談が進んでいるのに、結果につなががらない……」

そう感じている人は、自分が信用されているのかという部分を客観的に見返してみると良いと思います。このような原因に気づかず、行き詰まっている営業マンは本当に多いです。

■大事なのは話す力ではなく聞く力

二つ目によく勘違いされていることは「話し上手=コミュニケーション力が高い」ということです。

そもそも、話し上手とは一体なんでしょうか?

・何気ない日常会話からトークを盛り上げることができる
・面白い、スベらない話ができる。ネタがたくさんある
・自社の商材を相手が理解しやすいように完璧な説明ができる

一般的な話上手とは、これらが挙げられると思います。

では、もしこれらができれば、営業する上で結果につながると言えるのでしょうか?

私はそうは思いません。

ここで改めてお伝えしますが、話し上手であることがダメだと言いたいわけではありません。

上記の3点は、それぞれ商談において武器になることは確かです。

では、なぜそれらの武器があっても営業で結果を出せるコミュニケーション力とはいえないのかというか、営業マンに必要な“真のコミュ力”とは「話す力」ではなく「聞く力」だからです。もっと言えば「察する力」だったりします。

写真=iStock.com/kazuma seki
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お客さまが発した言葉からその裏側、真意を汲み取って、欲求や悩みを的確に読み取る力。それこそが、話す力よりも重要なのです。

いくら商品の魅力を上手に説明することができたとしても、そこにお客さまの購買意欲がはまっていなければ成約には至りません。ましてや、本当にほしいと思っている商品と、説明している商品が違っていたら、どれだけ熱心に説明してもお客さまの心には届かないでしょう。

つまりそれは、私が考える営業ではありません。ただの「説明員」です。

■営業の本質はお客の真意を探ることにある

例えばこんなケースがあります。

不動産屋さんに物件を探しに行ったとしてみましょう。

どんな物件をお探しですか? 予算は? 間取りは? 駅から徒歩何分以内で? と、立て続けに質問をしてくるでしょう。

それに答えていって、その条件にぴったりの物件を提示するのは誰でもできます。

もはや人である必要すらありません。検索システムを利用すれば良いだけですから。そして、それが条件にいかに当てはまるかを説明するのも簡単でしょう。

お客さまにぴったりの条件の物件を提案できたとして、それが成約になったとしても、それはたまたま条件があったからであって、次回も必ずそのお客さまがいらしてくださるとは限りません。検索システムさえあれば、いいのですから。

それでは、営業マンではありません。

本当の営業とは、「購買心理に基づいて価値提供すること」です。

目の前にいるお客さまが自分でも気づいていないような不安や不満に気づかせてあげて、そこに自分たちの持っているサービスで最大の提示してあげる。これが営業の本質です。

そこで最も重要なことは、面白い話でトークを盛り上げることや、完璧な商品説明をすることではありません。

なぜこの予算なんですか? なぜそこに住みたいんですか? そもそも引っ越す理由は何ですか? と、聞き、お客さまの真意を探ること。

つまり、話す力ではなく聞く力が必要とされるのです。

お客さまがモノを買うのは、何か不安や不満を抱えているからです。そこを理解しないことには、お客さまが本当に喜んでくれるサービスは提供できません。

本当に喜んでいただくことができなければ、お客さまになっていただくことも難しいでしょうし、もし運よくそのときはお買い上げいただけたとしても、次にはつながらないでしょう。

だからこそ、「話す力」以前に「聞く力」をもっともっと磨いていくべきなのです。ぜひ覚えておいてください。

■営業スキルにおいて核となるコミュ力

勘違いの三つ目は、「交友関係が広い=コミュニケーション力が高い」だという認識です。

交友関係が広い、つまり誰からも好かれて、広い人脈を持っている人がコミュ力が高いと思いがちですが、これもまた、営業マンに必要な“真のコミュニケーション力”ではありません。

広く浅い付き合いなんてちょっとした工夫やテクニック次第でいくらでもカバーできます。

それに、最近ではSNS上での反応の多さから、それを多くの人から好かれているとする風潮もあります。

しかし、現実には「1人の人と深い付き合い」をしていくほうが何倍も難しいものです。

そしてそれは、営業スキルにおいても核となるコミュニケーション力だと私は考えています。

■「誰からも好かれる営業」を目指してはいけない

誰からも好かれるいわゆる八方美人は、逆に言えば耳触りの良いことばかりを言っていることが本当に多いです。敵を作らないことで、一見、人から好かれているように感じるのです。

でもそれは言い換えれば、主張がない、アクがない、人格が見えない退屈な営業マンでもあることが多いのも事実です。

さらに言えば、結果を出している営業マンは、白黒はっきりと「決を採る」ことができる人です。できない営業マンほどお客さまに断られることを恐れて、いつまでも良好な関係を維持したままにしようとします。結果、大事な一歩を踏み出せずに、仕掛け中の案件ばかりが増えていきます。

営業マンはまず、自分ならではのマーケットを見つけ出し、ターゲットを明確にするべきです。

そして、ターゲットとしている人とは深い信頼関係を築くことができる。それが正しい営業であり、最も戦略的な営業だと思います。

逆に言えば、それ以外の人からは関心をもたれなくてもかまわないし、もっと極端に言ってしまえば嫌われてさえもかまわないと私は思います。

最近は深い付き合いを苦手とする人も多いかもしれません。たしかに難しいことではありますが、その分、得られる恩恵も大きいのです。

例えば、強い信頼関係を構築した上で、その方からの紹介をいただいたならば、とても濃い見込み客となります。圧倒的に成約につながりやすくなるのです。

なんとなく良い雰囲気のまま商談を進めていても最終的に結果に結び付かなければ何にも意味がありません。

つまり「誰からも好かれる営業マン」ではなく、「深い人付き合いができる営業マン」を志すべきでしょう。

そこをしっかりと認識した上で営業すると、もっともっと質の高い営業ができるはずです。

■20年先まで生き残る営業マンがやっていること

岡哲也『絵でわかる配属1年目でも目標達成できる営業の教科書』(プレジデント社)

なぜ自称コミュ力が高い営業マンが、継続的に成果を上げられずに消えていくのかが、これでご理解いただけたと思います。

それは営業において必要とされる“コミュ力”そのものを勘違いしているからです。

世間一般で言われているコミュ力ではなく、営業において必要とされる“真のコミュ力”を磨いていけば、自ずと成果に現れるでしょう。

コミュ力の本質をしっかり捉え身につけることが、20年先まで生き残っていくことができる営業マンに必要なことです。

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岡 哲也(おか・てつや)
営業コンサルタント
1975年生まれ。東京都新宿区出身。東京工業大学理学部卒業後、博報堂に入社。その後、2003年にプルデンシャル生命保険にライフプランナーとして入社。東北大学、慶應義塾大学、中央大学、青山学院大学で、客員講師として営業学を教えていた。2019年、プルデンシャル生命保険を退職し、営業コンサルタント、営業職育成コンサルタントとして活動中。
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(営業コンサルタント 岡 哲也)