地方自治体PR動画の熱い闘い - 大分県「ゆけ、シンフロ部!」少女の名台詞に落涙かけ流し - 松田健次
※この記事は2017年05月18日にBLOGOSで公開されたものです
最近、自治体PR動画を見続けている。キッカケは5月10日深夜に放送された「ジモト動画アワード」(TBS系)という特番。全国各地のユニークな自治体PR動画やローカルCMを計17本紹介した。ここで目にした動画が幾つもおもしろく、趣向を凝らした笑いも多く、もっと見てみたいと検索の海溝に沈んだ。主な検索ワードは「自治体 PR動画」。そんな自治体PR動画の目的は主にふたつだ。
「観光誘致」もしくは「移住の呼びかけ」。
どちらも人口減少社会の只中で、税収の右肩下がりに晒される地方自治体にとって切実な問題だ。
改めて自治体PRの手段が動画に至るまで、ざっくりではあるが以下のように推移してきた。
「ポスター/パンフレット」
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「ホームページ」
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「キャラクター(戦隊ヒーロー、地元アイドル、ゆるキャラ)」
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「SNS/ネット動画」
自治体PR動画が全国的な注目を浴びるようになったのは2015年。ハイクオリティの作品が続々登場したことで「ご当地PR動画」として括られ、「Yahoo!映像トピックスアワード2015」に特設部門が設けられた。
その代表作が宮崎県小林市のPR動画「ンダモシタン小林」だろう。
『ンダモシタン小林』(1分45秒)
宮崎県小林市/2015年8月公開
「或るフランス人男性の視点を通して描きだされる、その素晴らしくもちょっぴり不思議な小林市の風景。ラストには衝撃の結末が・・・!?」(小林市公式チャンネル)
http://www.tenandoproject.com/movie1
220万再生を記録したヒット動画だ。テレビでも頻繁に紹介されたので既知の方も多いと思う。小林市はさらに動画作りに傾注し、2016年3月には、『ンダモシタン小林』の世界を360度VR映像で視聴可能な「まるで小林市に観光に来たような体験ができる」(小林市公式サイト)動画のバージョンも公開した。
そして、動画ムーブメントを地元の若い世代と共有して根付かせるため、地元高校生に動画の企画を競わせて作品を完成させ、見事なオチがつく快作を発表している。
『サバイバル下校』(1分30秒)
宮崎県小林市/2016年11月公開
「小林市のまち並みをひたすら駆け抜ける女子高生。彼女は何に怯え、何から逃げているのか?このまちに一体何が起こったというのか?そして、ラストに待ち構える衝撃の“うらぎり”とは・・・!?」(小林市公式チャンネル)
http://www.tenandoproject.com/movie5
「なにこれ?」でつかみ、オチで「なるほど!」と感心させる。見る側を惹きつける「?&!」の手法がシンプルで心地いい。
この「?&!」路線は自治体PR動画において、メインメソッドのひとつだ。その中で「もしも〇〇が無かったら」という切り口の名作が2本ある。
『もしものハナシ』(1分17秒)
岐阜県関市/2015年9月公開
『つ・がない世界』(1分35秒)
三重県津市プロモーションビデオ/2016年7月公開
http://www.info.city.tsu.mie.jp/www/promotion_movie/
この「?&!」路線の他に、
◎ドローンアングルなどで、美しい地元の風景を映し出す「映像美」路線
◎地元愛を語る住民に焦点を当てる「人」路線
等々、様々な手法が作品性を競いあっている。その中で「?&!」「映像美」「人」のそれぞれをバランスよく結実させた力作がこれだ。
『Net surfer becomes Real surfer』(3分00秒)
宮崎県日向市/2016年11月公開
波乗りライザップなこの動画は現在54万の再生を記録している。
そして今年に入り、さらなる新手の路線が現れた。観光PR情報を懐かしいファミコンゲームに落とし込み、そのゲームの実況を動画にした異色作だ。
『【ゲーム実況動画編】観光アクションゲーム「宇治市~宇治茶と源氏物語のまち~」』(20分21秒)
京都府宇治市/2017年3月公開
キャラクターが宇治市の名刹や特産品と戦いながら(?)、全ステージをクリアするラストまで20分21秒。1~2分がメイン、長くとも5分内の自治体PR動画では異例の長さだ。
だが、ネットに溢れるRPGゲームの攻略動画に比べれば、20分は見やすいサイズだろう。自分もレトロなファミコン画像と横スクロールに散りばめられたゆるい笑いに釣られるうちに最後まで見入って、そう来るかというエンディングに笑ってしまった。
「開発段階のゲームを、YouTubeで人気のゲーム実況主の方にプレイしていただきましたので、そのゲーム実況動画を公開します(一般にプレイできるゲームとして公開するかは未定です)。」(宇治市公式サイト)ということで、反響次第による次の展開も匂わせている。
改めて自治体PR動画を見渡すと、百花繚乱で玉石混交だ。「おもしろい」と話題を呼び、再生回数を増やすヒット動画は全体の一部でもある。この状況に対し「動画再生回数を増やすことが目的となり、本来の目的を見失いがち」という専門家の苦言もあった。
最近のニュースでその本末転倒とも言える過熱化が指摘され、総務省が適正化を匂わせた「ふるさと納税の返礼品問題」に通じてくるかもしれない。
・・・と、訳知ったようなことをつららつららと書いてきたのは、つまる話、ある動画作品について触れたかったからだ。
(以下、ネタバレあり)
『シンフロ』(2分33秒)
大分県/2015年10月公開
温泉の湯船でシンクロナイズドスイミングを披露する架空の競技「シンフロ」は話題となり、テレビでも頻繁に取り上げられた。人気番組「世界の果てまでイッテQ!」で女芸人達がこれにチャレンジするなどの波及効果もあり再生回数は250万をカウントした。
言うまでもないが「シンフロ」はギャグだ。温泉で大真面目にシンクロをする、時に砂風呂でもシンクロをする、そのバカバカしい「もしもこんな〇〇があったら」を笑うシンプルなギャグだ。ゆえに、ウケた反響のぶんだけ飽きられる反動も待つことになる。どんなギャグもその運命は避けられない。
ところが「シンフロ」はその運命を待つことなく、「シンフロ≠ギャグ」というネクストステップを繰り出して来た。
『ゆけ、シンフロ部!』(4分35秒)
大分県/2016年10月公開
架空の競技「シンフロ」をギャグではなくシリアスな日常に設定してしまった。
そして、「シンフロ」に目覚めた女子高生のまさにティーンエイジャーならではの理由なき衝動を発端に、猛進、日常、笑い、涙、夢、別れ、友情・・・これらを(2時間の映画サイズでも、15秒のテレビCMサイズでもない自治体PR動画ならではの)4分半というショートムービーに凝縮して駆け抜ける作品となった。
「シンフロ」はそもそも「バカバカしいことをまじめにやる」という「笑い」だった。その「バカバカしいことをまじめにやる」に「バカバカしいことをまじめにやる」を掛け合わせた2乗が「ゆけ、シンフロ部!」だ。
この数式の魔法によって「シンフロ」は「笑い」から「情熱」へとバージョン変更を遂げた。この大胆なステップにハマってしまい、湯当たりでは済まないノックアウトをくらってしまった。
「ゆけ、シンフロ部!」のストーリーは青春物語の定番構成で紡がれる。男子高校生がシンクロに挑む名作映画「ウォーターボーイズ」(2001年 監督:矢口史靖)がまさにベースだろう。また、ラストまで物語と伴走するBGM「なごり雪」のガールズバンドアレンジは、女子高生バンドがブルーハーツを熱唱する「リンダ リンダ リンダ」(2005年 監督:山下敦弘)の切なさを想起させた。加えてラストを飾るプロジェクションマッピングのメロウ&ポップな演出、裏設定から味わい深まるシーンや小道具もあって、それらを知るメイキング映像も公開されていて隅々まで楽しめた。
あえて、記憶に残したい場面のために物語をなぞる――
高校三年生のアリサとマユ。「シンフロ部」で共に過ごしたかけがえのない日々を経て、それぞれの胸に将来の道を描き始める。しかし、親友の期待とは別の秘めた思いを打ち明けられないマユは、少しずつアリサとの間に気まずい溝を広げていく。ふたりの仲を取り戻すためアリサが意を決して伝える・・・
アリサ「マユ、最後に一緒にシンフロしてよ、それで全部お湯に流すから」
名台詞に落涙かけ流しとなった。この台詞にノックアウトされるため、回数を記すのが恥ずかしいくらい再生をクリックしている。
自治体PR動画は飽和状態を迎えたという声もある。だが、人々の暮らしは脈々と続く。全国各地に古来から語り継がれる民話があるように、自治体PR動画がネット時代の各地の民話となって、トライ&エラーのステップを踏みつつ未来に継がれていく様を見続けてみたい。あと温泉行きたい。