ハリウッドは崩壊するのか? - 吉川圭三
※この記事は2016年06月10日にBLOGOSで公開されたものです
私はテレビ制作者・ネットコンテンツ制作者であるので「映画」は熱烈なファンではあるがビジネス的には「映画」について門外漢である。ましてや、ハリウッドビジネスには精通している訳でないのであるが、そんな私が最近、注目したある新聞記事があった。3歳から映画業界で仕事をしている女優・監督のジョディ―・フォスターのロングインタビューである。(朝日新聞・6月9日朝刊掲載)記事ではハリウッドにおいて「女性監督が増えない」「ビジネスを託されるのは男性、または男性の様な思考回路を持つ女性エグゼクティブ」であることがフォスター氏によって赤裸々に語られている。アメリカの女性監督達はいわゆる見えない「ガラスの天井」に阻まれて、ハリウッドでは興行成績を危惧されてリスク要因と考えられていることが多いと言う。かつては多種多用な映画が混在してハリウッド映画として制作され世界中で公開されていた世界商品が、今は映画館に足を運ぶ人が減り、見に来る人はストーリーでなく、ジェットコースターやテーマパークの様な刺激や非日常性を求めている。だから『スパイダーマン』や『アベンジャーズ』と言ったヒーロー映画のシリーズものしか生まれない現象が起こった。こうした大作は特殊効果や特撮で必然的に巨額の制作費がかかるビッグビジネスとなり、ハリウッドでは本来映画がかつて持って居た多様な表現力が失われつつある。・・・とフォスター氏は語る。
その問題も極めて深刻であるが、この記事の最後にフォスター氏が語っていた言葉が忘れられない。ここに一部引用しよう。
質問者:「ハリウッド以外から優秀な女性監督が出てきそうですね」そういえば、1年前に弊社ドワンゴを訪ねて来た米国在住の映画評論家の町山智浩氏も 「アメリカの映画館の観客は驚く程減少しています。しかも大作ばかり並べられていて、中規模・小規模の良作が上映できる映画館がほとんどなくなっているんです。」と相当深刻そうに語っていた。
フォスター:「スマートフォンで手軽に動画がとれるようになり、インターネット上には様々な映像があふれています。技術の進歩は映画業界の風通しを良くしてくれつつあります。10年前の私が当時の機材で撮るよりも、今のあなたの方がいい作品を撮れるかも知れません。私自身、映画にはこだわっていません。
アーティストとして作品を作り続けることが大事です。スマートフォンで映像作品を作る事も全然いとわないですよ。」
質問者:「すでに大手動画配信業者(You Tube・Amazon・Netflix・Hulu・Google・Apple)等がつくるドラマを監督するなど、映画以外に活動を広げていますね。」
フォスター:「新しいメディアはハリウッドに比べ低予算なのですが、自由があります。女性の才能を信じて任せてくれるのです。一方でハリウッドはCGを駆使したヒーローモノばかり。あと10年もしたら、ハリウッドから人間ドラマが消えるのではないでしょうか。あまり議論になっていませんが、女性監督の起用や(俳優等の)賃金格差よりもこちらの方が深刻かもしれません。
一方、身近で言えば私の中学校2年生の娘などは、一緒にカフェなどに行くと、画面が大きい私のipad・proにイヤフォンを差しAmazon Video等で旧作の「ハリーポッター」等をいつまでも見ているし、最近ではレンタルビデオ屋からも足が遠のき、映画館にはかなり作品を厳選して観に行く傾向にある。視聴環境の変化から映画というものが変わりつつあるし、それが映画や映像ビジネスに影響を与えるのは当たり前だが当然のことだ。巨匠ビリー・ワイルダーの傑作「お熱いのがお好き」を私が娘に薦めたときは検索し「ニコニコ動画」で無料で視聴していた。しかも私のメシの種であったテレビに至っては、私のiphoneを自室に持ち込みYou Tubeにアップされた話題回のトーク番組等を見るだけだ。
この様にフォスター氏も語る様にテクノロジーや大作主義が巨人・ハリウッドを倒してしまう可能性も考えられない事はない。かつて、米国のケーブル・テレビ局HBOがわずか制作費600万円で持ち込まれた企画『Sex and City』で米国ドラマ界を席巻してしまった様に、スマートフォンでプロが撮影した低予算コンテンツが高額予算の映画や集客が想定出来る日本映画やテレビドラマの「アイドルとイケメンによる『恋愛もの』『壁ドンもの』」に溢れ低予算ものに駆逐される可能性も否定できない。
まあ、こうやって私の危惧を述べても、当然ハリウッドや日本映画界やテレビ界に届く可能性はかなり低い。特にハリウッドやテレビ界はある程度、財政的に潤っているからである。危機感を持てと言ってもフォスター氏の様な実績と経験のある人が真摯に語らないとほとんど響かないのであろう。
ただ、わたしはこの映像コンテンツビジネスが『間違いなく何かが変わりつつある』と感じるのである。「金儲けだけ」に走り「イノベーション」を怠り「思想や哲学」を持たない業態が永続できた事例は古今東西に例が無いからである。
(了)