安倍談話は、首相が思った通りの成果を挙げたのではないか~田原総一朗氏インタビュー - BLOGOS編集部
※この記事は2015年08月19日にBLOGOSで公開されたものです
14日に安倍首相が発表した戦後70年談話。その内容は表現をめぐって国内外から様々な意見が出ているが、田原総一朗氏はどう見たのか、話を聞いた。【大谷広太(編集部)】安倍首相が思った通りの成果を挙げたのではないか
安倍談話については、色々な批判が出てきている。メディアからの批判でも、朝日新聞のものはずば抜けて厳しかった。注目されていた「侵略」「植民地支配」「謝罪」「反省」という4つの言葉は入っているが、いずれも主語がないという批判。村山談話では主語が「日本」だった。つまり、村山談話は"直接話法"だったが、安倍談話は"間接話法"になっていて、村山談話に比べて、二歩も三歩も下がった印象を与えるという批判だ。これは、ある意味ではやむを得ない面もあると思う。というのは、首相自身、戦争を知らない世代だから、そのようにならざるを得なかった部分があると思う。
歴史認識についても、満州事変以後の昭和の戦争については、「しかし、世界恐慌が発生し、欧米諸国が、植民地経済を巻き込んだ、経済のブロック化を進めると、日本経済は大きな打撃を受けました。その中で日本は、孤立感を深め、外交的、経済的な行き詰まりを、力の行使によって解決しようと試みました。」と事情を説明している。村山談話では「侵略」と言い切っているが、安倍談話では細かく説明をした上で、"やむを得なかった面もある"というような言い方をしている。
また、第一次世界大戦について「1,000万人もの戦死者を出す、悲惨な戦争でありました。」と書きながら、「先の大戦では、300万余の同胞の命が失われました。」と書いている。日本が攻めた中国、フィリピンをはじめ、いろんな国で亡くなった人がいるのに、日本人だけの犠牲者数になっていることを指摘する人もいる。
そして、「あの戦争には何ら関わりのない、私たちの子や孫、そしてその先の世代の子供たちに、謝罪を続ける宿命を背負わせてはなりません。」という部分。謝罪は私たちで終わりにしようと言っている。
ただし、中国も韓国も、今回の談話に対する批判が意外に強くない。むしろ認めている部分もある。おそらく首相が一番気にしていたのは中韓の批判だったと思うから、今ほっとしているのではないか。それだけでなく、読売新聞、産経新聞調べでは内閣支持率が上がっている。共同通信の調査でも、30%台に落ちていたのが回復した。
結局、全体を通じて、首相は四方八方に気を使いすぎて、談話の意味が今ひとつよくわからなかったと思う。稲田朋美氏などから見れば、不満もあると思う。そういう意味では、安倍応援団からもアンチからも批判が出るだろう。しかし結果としては、ほぼ首相が思った通りの成果を挙げたのではないかと思う。
僕は、首相の会見を聞いて、"安倍首相の言葉"ではなく、"安倍首相の解説"という感じがした。"日本はこうあるべきだ"という主体性がなく、"日本はこういう国であったんです"という話になってしまっていた。解説としてはそうだろうけど、あなたはどう考えているんだっていうのが無い。そこが非常に物足りなく思った。
ー安倍談話発表の翌日、戦没者追悼式での天皇陛下のお言葉に、「深い反省」という表現があったことが話題になりました。田原さんも、陛下が踏み込んだ発言をされる、と予想されていました。
安倍談話と、天皇陛下のお言葉の"ギャップ"は、今後問題になっていくと思う。陛下はあの戦争を悪い戦争で、してはならない戦争だったというお考えをお持ちだろうし、なによりも護憲の立場だと思う。ところが安倍さんは本音では改憲をしようと思っているから。マスコミやアンチ安倍の連中は、陛下と首相との間にギャップが生まれることを期待している。
僕が考えるには、むしろ陛下はその辺りを配慮されて、それほど踏み込まなかったのだと思う。本当はもっと踏み込みたかったんじゃないかと思う。
憲法改正を真正面から問うべきだ
先日の朝まで生テレビ(「激論!戦後70年の総括と日本の未来」、8月14日放送分)で印象に残ったのは、最近一緒に対談本を出した猪瀬直樹の指摘だった。つまり、吉田首相以降の、安全保障はなるべくアメリカに委ねて、日本は金もエネルギーも経済に全力投入をしようという考え方。猪瀬直樹流にいうと、日本は安全保障条約でアメリカに守られた"ディズニーランドだった"ということだ。日本独自で安全保障をやるべきだという意見もあるが、これは危険だと思う。当然、核兵器を持たなければいけない。安全保障を自分の国だけでできているのは、世界でアメリカ、中国、ロシアだけだと思う。現実的には、アメリカとの同盟強化だろうと思う。
冷戦後の安全保障を具体的にどうするか、宮沢、橋本、あるいは小渕内閣の時代に考えなければいけなかったのが、手をつけられないままだった。首相は、第一次安倍内閣では北岡伸一さんを中心とした「安保法制懇」を作って、まさにそこに触れようとしてきた。
最終的な目的は、要するに日米の安全保障条約を片務性から双務性に変えていきたいということだろう。そのためには憲法を改正しなければいけないし、もともと第一次安倍内閣の時代から憲法改正も目指していた。結局、第二次安倍内閣でも憲法改正はできず、今、安全保障法制でなんとか進めようとしている。ところが、公明党との妥協の中で「新3要件」を作った結果、今度はその中にある「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険」はどう判断するのか、という問題が出てきた。 結局、憲法を改正しないでやろうとしたことで、どんどんわかりにくくなっていっている。
僕はやっぱり、日米同盟を強化して双務的なものにするならば、自衛隊についての議論も含め、きちんと憲法改正を国民に問うべきだと思っている。
野党もそこを追及しないし、マスコミも、憲法改正の問題や、自衛隊をどうするのか、全然取り上げない。自民党議員のマスコミ懲らしめる発言とか、礒崎補佐官の失言ばかりだ。安全保障や自衛隊そのものについて、きちんと分析して議論しなくてはいけない時期に来ている。(18日夕、談)