値上げ疲れ家計への処方箋をお届けします(写真:nonpii/PIXTA)

食料品にガソリン代、光熱費など、昨年から生活必需品が何度も値上げを繰り返しています。値上げのニュースにはほとほと聞き飽きた頃ですが、追い打ちをかけるように5月にまた電気代が値上げされました。家計にどれほどの痛手となるのか、そして値上げへの対策はないものかを考えてみましょう。

出費増は年間2万円超の公算も 重すぎるダメージ

5月に全国で電気代が値上げされました。値上げをする大手10社の中で最も値上げ幅の大きい東京電力では、平均的な使用量(260kWh)のモデル世帯で5月分の電気料金が8505円と、4月分に比べて146円高くなります。値上げは昨年秋から続いていて、値上げ前の料金(2021年8月分6960円)と比べると、1500円以上高くなるのです。

直近4カ月の電気料金を前年同月と比べてみても、毎月1600〜1800円ほど高い水準が続いています。このペースが続けば、1年間の電気代負担増は昨年比2万円以上になる勢いです。

ただし、電気代は季節変動が激しい支出です。気候により使用量が変わるため、料金が値上がりしても電気をあまり使わなければ、請求額はそれほど高くならないとも考えられます。実際に家計が出費した電気代の金額をみても、例年は5〜6月にかけて電気代支出が少なくなるのが通例です。年間で最も高い2月頃に比べて、3〜4割ほど低くなっています。

ですから今年も、まだ肌寒かった3月や4月に比べれば5月分の電気代請求額が安い可能性はあります。とはいえ、値上げのせいで期待するほどではないかもしれません。


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かりに5〜6月の請求は安くなるとしても、その先には夏がやってきます。ただでさえ、例年7〜9月にかけては電気代の出費が高くなりがちです。夏になり冷房や冷蔵庫での電力消費が増えるためですが、こうした使用量が増えるほど値上げのダメージはますます大きくなります。

一般的な電気料金は、

(1) 基本料金
(2) 電力量に応じた「電力量料金」
(3) 原材料である燃料の価格変動を加味した「燃料費調整額」
(4) 再生可能エネルギー普及のために上乗せされる「再生可能エネルギー発電促進賦課金」

から成り立っていますが、基本料金以外は単価×消費電力量で請求されます。昨今の値上げの主因は火力発電に必要な原油、液化天然ガス(LNG)、石炭の燃料価格の高騰により、「燃料費調整額」の単価が引き上げられたことにあります。単価が上がったうえに消費量も増えれば、夏にはやはり電気代が高くなってしまうでしょう。

しかも、夏にかけて電気料金が今以上に値上がりするリスクもあります。燃料費調整額は3カ月前までの燃料価格の平均輸入価格や為替レートをもとに算定されています。直近で値上げされる5月分の電気料金は、2月までの燃料価格をもとに決められたものですが、足元ではいずれの燃料もまだ上昇傾向が続いています。加えて為替は20年ぶりの水準まで円安が進み、調達コストがかさんでいます。

ですから今から3カ月後の7月分や8月分の電気料金も、燃料価格に連動したさらなる上昇は避けられません。平均的な使用量のモデル世帯で、電気代が9000円を超える可能性もあるのです。

電気代値上げはしばらく出口が見えない

燃料価格の高騰は、ロシア・ウクライナ情勢しだいでまだ続くともいわれます。燃料のほとんどを輸入し、うち1割前後をロシアに頼る日本にとって、電気代の値上げに歯止めをかける要因は簡単に見つかりそうにありません。

一方で、大手電力会社の燃料費調整額には上限があり、燃料価格が上がっても、原則として会社が定める基準の1.5倍までしか引き上げないことになっています。すでに大手10社中、関西、北陸、中国などは上限に達しており、燃料価格を理由とした値上げはこれ以上ありません。

ただし、油断は禁物です。電気料金の内訳のひとつである再エネ発電賦課金は毎年引き上げられており、燃料価格とは関係なく今後も値上げの可能性があるためです。今年度も6月に検針される5月分の料金から、モデル世帯で月24円分上がります。1カ月の負担額は約900円ですが、年間にすると1万円を超えます。

この再エネ発電賦課金は、徴収が始まった10年前には同じ電力使用量でも年間700円弱にすぎませんでした。太陽光や風力などの再生可能エネルギーの普及のために、国が大手電力会社にこれらによる電力の買い取りを義務づけていることに伴い、家庭の電気料金に上乗せされているものですが、普及が進むほど家庭の負担が増えるしくみなのです。国際情勢や燃料価格の動向、そして再生エネルギー政策を考えると、来年以降も増えていくと考えられます。

見逃している電気の浪費をカットできるか

これまでの値上げで、すでに電気代を節約しようと工夫してきた人は少なくないはずです。エアコンやテレビなど家電製品の稼働時間を短くするとか、使わない部屋の照明をこまめに切るとか、冷蔵庫を開けっぱなしにしないといった省エネに、既に疲れてしまっている人もいるのではないでしょうか。しかしここまで値上げが重なると、自分の努力ではもう限界と感じずにはいられません。

もはや万策尽きたと言いたくなるところですが、まだなにかできることがないものでしょうか?

生活する以上、電力使用量を減らすには限りがあります。過剰に使用時間を減らしたり、機器を使わなかったりするといった無理をせずできる工夫を、探してみましょう。

特にこれから夏に向けて気になるのは冷房です。省エネのためには設定温度を28度に、とよく言われますが、資源エネルギー庁によると、夏場に設定温度を27度から28度に変えると、1日9時間運転した場合に年間約820円の節約になります。また、フィルターを月に1、2回掃除しておくと、目詰まりしたものより約860円の節約になります。これらは、運転時間を1日1時間短くする(年間約510円)より高い節約効果があります。

冷蔵庫は、庫内に入れるものの量を半分にすると、詰め込んだ場合よりも年間約1180円の節約に、また設定温度を「強」から「中」に切替えると年間約1670円の節約になります。冷蔵庫を天井や壁ギリギリに置いているなら、壁に接する面を片側のみとすると年間約1220円の節約になります。

トイレが電気便座なら、これからの時期は設定温度を中から弱に下げたり、電源をオフにしておくと、約710円の節約になります。使わないときに蓋を閉めるようにすると、開けっぱなしよりも約940円節約できます。

また、使わずにコンセントに差したままの間に消費される待機電力は、世帯の全消費電力の5%以上を占めるとも試算されています。差しっぱなしの電気機器はコンセントから抜く、リモコンのオフだけでなく主電源を切るなどを徹底するだけでも節電できます。

このような工夫なら、家電の使い心地をそれほど損ねずにすみそうです。できそうなことを組み合わせて、少しでも電気代を安くしたいものです。

省エネ家電に買い換えで最大2万円のポイント

しばらく買い替えていない家電製品は新調するのも手です。家電製品は新しいものほど省エネ効率が高く、エアコン、冷蔵庫、洗濯機、照明、テレビ、電気便座などは特に省エネ性能が改善しています。購入から数年程度であればそれほど変わらないことがありますが、10年、20年使っている家電製品なら、最新のものに代えることで大幅に消費電力を抑えられる可能性があります。


主要家電製品のエネルギー効率の変化(出所:資源エネルギー庁「エネルギー白書2021」)

しかし家電の買い替えには高額な出費がかかります。そこで活用したいのが、自治体による補助制度です。たとえば東京都では省エネ性能の高いエアコン、冷蔵庫、給湯器に買い替えた人に、最大2万円分の商品券がもらえるポイントを付与する「東京ゼロエミポイント」キャンペーンを行っています。

来年3月までに買い替えた家電が対象で、購入時の領収書や保証書などを添えて申請するとポイントがもらえます。ポイントは1ポイント1円換算で、全国のスーパーやレストランなどで使える共通商品券と、都内の対象店でLEDランプや照明器具の購入に使える割引券に交換できます。

上記は東京都民限定のキャンペーンですが、他県や全国を対象にしたポイント事業が行われることもあります。昨年には首都圏の9都県市で、エアコンと冷蔵庫の買い換えで賞品が当たるキャンペーンが行われていましたし、兵庫県などでは冷蔵庫の買い替えに最大1万円の補助金が出る事業がありました。

首都圏のキャンペーンでは、買い換えにより1件あたり年間約3000〜9500円の電気代節約につながったと試算されています。長く使い続ければやがて購入費の出費以上の節約効果になるでしょう。中長期的に電気代の値上げが続くなら、思い切って買い替えるのが有利かもしれません。

家計のあらゆる負担が重くなっている今、少しでも効果的に、無理なく節約できる方法を取り入れていきたいものです。

(加藤 梨里 : FP、マネーステップオフィス代表取締役)