子どもを「受験までの人」にしないために親ができること
子を持つ親としては、我が子の学力や学歴は気になるものであり、できるだけいい学校に進学してほしいという気持ちもある。しかし、同時に「社会に出てからが本番」ということも重々承知しているはず。
受験を勝ち抜いて難関校と呼ばれる大学に入ることは「ゴール」ではなく、むしろ「スタート」だ。では、我が子を受験で終わらず、社会に出てから本領を発揮するようなバイタリティある人間に育てるには、どのような子育てをすればいいのか。
一昨年刊行され、子育て世代を中心に大きな共感を呼んだ、子育て教育本『デキる社会人になる子育て術 元ソニー開発マネージャが教える社会へ踏み出す力の伸ばし方』がいよいよ文庫化され、『文庫版 デキる社会人になる子育て術 元ソニー開発マネージャが教える社会へ踏み出す力の伸ばし方』(鬼木一直著、幻冬舎刊)として発売された。本書はそのヒントを授けてくれる。今回は著者で東京富士大学の鬼木一直教授にインタビューし、本当に子どものためになる家庭教育についてお話をうかがった。ここではその後編をお届けする。
■「失敗を恐れずにチャレンジする子」を育てるための子育てとは
――「前に踏み出す力」の一つである「主体性」は、子どもの性格も関係してくるように思います。引っ込み思案な性格の子に主体性を持たせるにはどうすればいいのでしょうか?
鬼木:最も大切なのは、自己肯定感を高めることです。引っ込み思案な性格の子は、自信がない子が多く、失敗すること、否定されることを恐れる傾向があります。そこで有効なのは、「コーチング」の手法です。教えるという考え方ではなく、子どもの考え方を引き出す手法です。
「こうしなさい」という言い方を「うまくいくようにするにはどうしたらいいと思う?」と質問形式にして子どもに考えさせ、決めさせるのです。決める力は主体性に繋がっていきます。
――生まれ持った性格もあると思いますが、親の取り組み次第で変わっていくところもあるのでしょうか。
鬼木:すごく変わりますね。自分で考えて行動できる力がついてくれば、選択肢がどんどん広がっていくと思います。
――「否定されることを恐れる傾向」もコーチングの手法や自己肯定感を高めることで徐々に解消されていくのでしょうか?
鬼木:そう思います。ただ、小さい子については「自分はダメだ」とか「失敗するかも」と考えることはあまりないのではないでしょうか。保育園で「これをしましょう」と言った時に、「自分はこういうことは苦手だから」と嫌がる子はほとんどいません。
小学校3年生、4年生くらいになると「ああ嫌だな」とか「苦手だな」という気持ちが強くなるので、3歳とか4歳くらいのいろいろなことに興味が溢れている頃にどんどんやらせてみて、できたら褒めることを繰り返していけば、そんなに引っ込み思案な子にはそもそもならないのではないかと思います。
――確かにそうかもしれませんね。
鬼木:持って生まれた「おちゃらけ具合」みたいなものはあって、そこは差があっていいと思います。ただ、そこでおとなしめであることと、自分で論理立てて物事を考えられるかどうかはまた違う要素です。
――「主体性」と「主張の強さ」も混同されがちだと思います。
鬼木:そうですね。それらもまた別物です。自分で物事を考えて行動できるという主体性が大事なのと同じように、周りを見ながら引くべき時は一歩引いて俯瞰するのも大切なことですから。
――「最近の子どもは打たれ弱くなった」と言われることがあります。失敗にめげない子にするためには、本書のどの項目が役立ちますか?
鬼木:本書の第3章に「子どもの力を伸ばす本当の褒め方」という項目があります。子どもを褒めるのは、成功した時よりもむしろ失敗した時の方が大切なのです。
たとえば、お手伝いをしたのに汚してしまった場合、その結果に対して叱られたのでは、「やらなければよかった」と感じます。逆にうまくできた時に褒められても、「それはそうでしょう」ということであまり記憶には残りません。むしろ、失敗した時にその過程を褒めてあげることで、「失敗してもいいんだ」という気持ちになり、自己肯定感が高まります。
――今は共働き家庭が多く、子どもと過ごす時間が十分でないと感じている親は多いはずです。そうした方々に向けて本書の使い方を教えるなら、どんなことを伝えたいですか?
鬼木:本書は、項目ごとに完結する形式になっていますので、気になる部分だけ切り取って試していただければと思います。子どもは十人十色です。すべてがうまくいくとは限りませんが、子どもに合うやり方、言い方があると思います。
一つでもうまくいけばそれは前進です。その一つが積み重なることで大きな効果となってきますので、焦らず時間をかけて挑戦していただければと思います。
例えば公園に行ってサッカーをする時に、「どういうふうに蹴ればもっとボールが飛ぶと思う?」とか「ボールに回転をかけるにはどうすればいいかな?」など、子どもの好きなことに対して深掘りするようなことを聞いてみるといいと思います。それが自分で考える力の育成につながり、いずれ勉強にも活かされていきます。
――親として「してほしくないこと」をやめさせたい時も同様でしょうか?
鬼木:「自分で考えさせる」という意味では基本的には同じだと思います。子どもが外から帰ってきた時に靴を脱ぎ散らかしてしまうのだとしたら、「きれいに靴を脱ぎなさい!」と叱っても、子どもの頭には叱られたイメージしか残らないんですよね。「叱られて嫌だったな」とか「今度は叱られないといいな」という希望的観測で話が終わってしまう。対策等が立てられていないので、それだとまた同じことをしてしまいます。
だから「どうしたらいいと思う?」と子どもに聞いて、自分で考えさせることが大事です。「急いで入ってきたから散らかってしまった」と言うなら、急いで入ってきても散らからないようにはどうすればいいかを考えさせれば自分なりの解決策を考えるようになると思います。
――子育てをしていると、親の思うとおりにいかないことも多々あるかと思います。よかれと思ってやったことがうまくいっていない時、親としてはどう考えればいいのでしょうか?
鬼木:うまくいかなかったことは、すっぱり諦めてください(笑)。子育てはうまくいかないことの方が圧倒的に多いものです。
子どもはひとりの人格を持った人間ですから、思い通りにさせようと思うのは親のエゴです。思ったようにいかないからこそ、可愛いですし、育てがいがあると思います。そもそも、子どもが親の思った通りに動かないということは、親が思っている以上に可能性があるということじゃないですか。そうした発見や想定外のことをぜひ楽しんでいただきたいと思っています。
――我が子を「学歴だけの人」にしたくないと考えている親、「社会に出てから伸びてほしい」と考えている親に、アドバイスをお願いいたします。
鬼木:これからの社会にはどんどんAIが入り込んできます。単純作業、誰にでもできる業務は次々とコンピュータに奪われていきます。
ただ「考える仕事」は今後もなくならないはずです。昔は知識の豊富な人、手に職がある人が優遇されていましたが、これからは「知識」「技術」はコンピュータが代替えしていきます。だからこそ先入観に捉われず、深く考える習慣をつけることがとても大切です。それを単純に子どもに求めるのではなく、一緒に考えることで親も一緒に成長してもらえれば一番いいと思っています。
何が起こるかわからない時代です。多様性を身につけ、一見無駄と思えることにも、どんどん取り組ませてあげて欲しいと思います。いつ、どの体験が役に立つかわからないものです。
もちろん学歴は大切なものですし、いい大学に行こうというモチベーションは尊重されるべきですが、大学に入ることが目的化し、社会人になってから何をすればいいかわからなくなってしまうのはもったいないことです。学歴にすがるのではなく、学歴を活かして何ができるのかを考えていただきたいと思います。本書はそのために役立つ内容になっていると考えています。
(新刊JP編集部)
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受験を勝ち抜いて難関校と呼ばれる大学に入ることは「ゴール」ではなく、むしろ「スタート」だ。では、我が子を受験で終わらず、社会に出てから本領を発揮するようなバイタリティある人間に育てるには、どのような子育てをすればいいのか。
■「失敗を恐れずにチャレンジする子」を育てるための子育てとは
――「前に踏み出す力」の一つである「主体性」は、子どもの性格も関係してくるように思います。引っ込み思案な性格の子に主体性を持たせるにはどうすればいいのでしょうか?
鬼木:最も大切なのは、自己肯定感を高めることです。引っ込み思案な性格の子は、自信がない子が多く、失敗すること、否定されることを恐れる傾向があります。そこで有効なのは、「コーチング」の手法です。教えるという考え方ではなく、子どもの考え方を引き出す手法です。
「こうしなさい」という言い方を「うまくいくようにするにはどうしたらいいと思う?」と質問形式にして子どもに考えさせ、決めさせるのです。決める力は主体性に繋がっていきます。
――生まれ持った性格もあると思いますが、親の取り組み次第で変わっていくところもあるのでしょうか。
鬼木:すごく変わりますね。自分で考えて行動できる力がついてくれば、選択肢がどんどん広がっていくと思います。
――「否定されることを恐れる傾向」もコーチングの手法や自己肯定感を高めることで徐々に解消されていくのでしょうか?
鬼木:そう思います。ただ、小さい子については「自分はダメだ」とか「失敗するかも」と考えることはあまりないのではないでしょうか。保育園で「これをしましょう」と言った時に、「自分はこういうことは苦手だから」と嫌がる子はほとんどいません。
小学校3年生、4年生くらいになると「ああ嫌だな」とか「苦手だな」という気持ちが強くなるので、3歳とか4歳くらいのいろいろなことに興味が溢れている頃にどんどんやらせてみて、できたら褒めることを繰り返していけば、そんなに引っ込み思案な子にはそもそもならないのではないかと思います。
――確かにそうかもしれませんね。
鬼木:持って生まれた「おちゃらけ具合」みたいなものはあって、そこは差があっていいと思います。ただ、そこでおとなしめであることと、自分で論理立てて物事を考えられるかどうかはまた違う要素です。
――「主体性」と「主張の強さ」も混同されがちだと思います。
鬼木:そうですね。それらもまた別物です。自分で物事を考えて行動できるという主体性が大事なのと同じように、周りを見ながら引くべき時は一歩引いて俯瞰するのも大切なことですから。
――「最近の子どもは打たれ弱くなった」と言われることがあります。失敗にめげない子にするためには、本書のどの項目が役立ちますか?
鬼木:本書の第3章に「子どもの力を伸ばす本当の褒め方」という項目があります。子どもを褒めるのは、成功した時よりもむしろ失敗した時の方が大切なのです。
たとえば、お手伝いをしたのに汚してしまった場合、その結果に対して叱られたのでは、「やらなければよかった」と感じます。逆にうまくできた時に褒められても、「それはそうでしょう」ということであまり記憶には残りません。むしろ、失敗した時にその過程を褒めてあげることで、「失敗してもいいんだ」という気持ちになり、自己肯定感が高まります。
――今は共働き家庭が多く、子どもと過ごす時間が十分でないと感じている親は多いはずです。そうした方々に向けて本書の使い方を教えるなら、どんなことを伝えたいですか?
鬼木:本書は、項目ごとに完結する形式になっていますので、気になる部分だけ切り取って試していただければと思います。子どもは十人十色です。すべてがうまくいくとは限りませんが、子どもに合うやり方、言い方があると思います。
一つでもうまくいけばそれは前進です。その一つが積み重なることで大きな効果となってきますので、焦らず時間をかけて挑戦していただければと思います。
例えば公園に行ってサッカーをする時に、「どういうふうに蹴ればもっとボールが飛ぶと思う?」とか「ボールに回転をかけるにはどうすればいいかな?」など、子どもの好きなことに対して深掘りするようなことを聞いてみるといいと思います。それが自分で考える力の育成につながり、いずれ勉強にも活かされていきます。
――親として「してほしくないこと」をやめさせたい時も同様でしょうか?
鬼木:「自分で考えさせる」という意味では基本的には同じだと思います。子どもが外から帰ってきた時に靴を脱ぎ散らかしてしまうのだとしたら、「きれいに靴を脱ぎなさい!」と叱っても、子どもの頭には叱られたイメージしか残らないんですよね。「叱られて嫌だったな」とか「今度は叱られないといいな」という希望的観測で話が終わってしまう。対策等が立てられていないので、それだとまた同じことをしてしまいます。
だから「どうしたらいいと思う?」と子どもに聞いて、自分で考えさせることが大事です。「急いで入ってきたから散らかってしまった」と言うなら、急いで入ってきても散らからないようにはどうすればいいかを考えさせれば自分なりの解決策を考えるようになると思います。
――子育てをしていると、親の思うとおりにいかないことも多々あるかと思います。よかれと思ってやったことがうまくいっていない時、親としてはどう考えればいいのでしょうか?
鬼木:うまくいかなかったことは、すっぱり諦めてください(笑)。子育てはうまくいかないことの方が圧倒的に多いものです。
子どもはひとりの人格を持った人間ですから、思い通りにさせようと思うのは親のエゴです。思ったようにいかないからこそ、可愛いですし、育てがいがあると思います。そもそも、子どもが親の思った通りに動かないということは、親が思っている以上に可能性があるということじゃないですか。そうした発見や想定外のことをぜひ楽しんでいただきたいと思っています。
――我が子を「学歴だけの人」にしたくないと考えている親、「社会に出てから伸びてほしい」と考えている親に、アドバイスをお願いいたします。
鬼木:これからの社会にはどんどんAIが入り込んできます。単純作業、誰にでもできる業務は次々とコンピュータに奪われていきます。
ただ「考える仕事」は今後もなくならないはずです。昔は知識の豊富な人、手に職がある人が優遇されていましたが、これからは「知識」「技術」はコンピュータが代替えしていきます。だからこそ先入観に捉われず、深く考える習慣をつけることがとても大切です。それを単純に子どもに求めるのではなく、一緒に考えることで親も一緒に成長してもらえれば一番いいと思っています。
何が起こるかわからない時代です。多様性を身につけ、一見無駄と思えることにも、どんどん取り組ませてあげて欲しいと思います。いつ、どの体験が役に立つかわからないものです。
もちろん学歴は大切なものですし、いい大学に行こうというモチベーションは尊重されるべきですが、大学に入ることが目的化し、社会人になってから何をすればいいかわからなくなってしまうのはもったいないことです。学歴にすがるのではなく、学歴を活かして何ができるのかを考えていただきたいと思います。本書はそのために役立つ内容になっていると考えています。
(新刊JP編集部)
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