成田空港にやってきたANAの超巨大機「A380」3号機。ANAでは異例、オレンジの「ウミガメ」特別塗装も目を引く同機は、他の2機と納入までの経緯も大きく異なります。出発直前のフランスで、その裏側について取材しました。

納入直前に襲ったコロナ

「世界一巨大な旅客機」の異名を持つエアバス社の総2階建て旅客機「A380」。ANA(全日空)では、ハワイで神聖な生き物とされるホヌ(ウミガメ)の特別塗装を施した「フライングホヌ」の愛称で、成田〜ホノルル線の専用機として2019年から導入しています。2021年10月16日(土)には、3号機「JA383A」がついに成田空港へ到着し、3機すべてが揃いました。


フランス・トゥールーズを離陸するANAのA380の3号機(2021年10月15日、乗りものニュース編集部撮影)。

 この3号機の特徴は、なんといってもその配色。「ハワイの夕日」をイメージした「サンセットオレンジ」のテーマカラーとなっており、先んじてANAでデビューしている「ANAブルー」の1号機、「エメラルドグリーン」の2号機とはカラーリングを大きく異にします。

 そして3号機が日本に到着するまでの経緯も、2機の先輩機とは大きく異なるものでした。1号機、2号機は大きな遅延なくANAに納入され就航したものの、その後コロナ禍が襲い、成田空港で羽を休めることとなりました。

 一方の3号機は、当初計画では2020年4月に納入され、同年夏に路線就航予定でしたが、新型コロナの拡大により納入が直前で延期されたのです。つまり1年半ものあいだ、ほとんど完成状態のままエアバスの施設で”出発の時”を待っていたのでした。

 この3号機を成田に出発させるべく、さまざまなANAのスタッフが携わっています。同機が成田に向かう直前の現地時間10月15日(金)、フランス・トゥールーズのエアバス工場にて、それぞれの心境などを聞くことができました。

1年超のブランク プロの目から見てコンディションはどうだったのか

「フライングホヌ」3号機がANAへ引き渡されるにあたり、トゥールーズには引き受けに向けた最終確認を担当する「領収検査員」がANAから派遣されます。チーフ領収検査員を担当したANA整備センター 品質保証室の水石宣行さんは、引き渡しの3週間前からトゥールーズへ向かい、整備状況などの確認を行いました。

「私は1号機のデリバリー(受領)の領収検査も担当したのですが、今回は1年半保存整備されていた状態ですので、通常の作業に加え、その期間のエアバスさんが実施した整備状況などもチェックしました。とても1年以上地上にいたとは思えないキレイな状態で、エアバスさんもよく整備していただいていましたので、指摘すべき事項もそこまで多くなかったです。やっとANAに3機が揃い、非常に感慨深いところがあります」(水石さん)


ANAのA380の3号機を担当するパイロット。出発前のブリーフィングもデリバリーセンターで行われた(2021年10月15日、乗りものニュース編集部撮影)。

 ちなみにANAの場合、領収検査員は複数の旅客機タイプを担当することもあるそう。水石さんは「一番苦労したのは、客席数が多いところ」といいます。「1席1席にお客様が座られるので、客室内チェックの際には、日本から3名追加で担当者に来てもらうなど、特別なオペレーションを行いました」(水石さん)と、超大型機A380ならではのチェックの内容を話します。

 なお、機体の状態については、領収検査員兼確認主任者を務めたANA整備センター 機体事業室の村上智英さんも「コンディションが良く、保存期間中もエアバスさんがしっかりメンテナンスとサポートをしてくれたのだな、というのが見て取れた」と話します。

フェリーフライトを担当するパイロットの心境

 3号機のトゥールーズから成田空港へのフェリーフライト(回送運航)は、3名のパイロットが担当しました。3名とも、A380のフェリーフライトは初めてとのことです。「新車を初めて運転するような、期待感のあるワクワクした気持ちでした」と、担当パイロットのひとりは話します。

 フェリーフライトの操縦が決まったときの心境は、「いままで経験がないというのもちろん、A380はたったの3機しかないので、任せてもらえてとても光栄な気持ちです」「いままでやりたいなと思っていたのですが、なかなか機会がありませんでした。担当できて嬉しいです」とのこと。担当パイロットは、「恥ずかしくない着陸ができるよう、がんばります!」とコメントしたのち、機内へ乗り込みました。


A380の3号機の領収検査員とパイロット(2021年10月15日、乗りものニュース編集部撮影)。

 エアバス社があるヨーロッパ地域で、新造機の納入サポートなどを行うANA欧州技術駐在の富久慎太郎部長は「ようやく3機揃うことになりますので、日本で待たれているファンの皆さまに早くお見せしたい」とフェリーフライト出発前にコメント。

「3号機は受領まで1年間、整備作業や機体がいい状態を保てるよう、エアバスさんと一緒に面倒を見てきました。ANAとしてもこの期間、客室のエンターテインメント施設の点検や、新品同様の状態を保てるようメンテナンスを行ってきました。私も、客室にも何度か実際に入って確認しています」(富久部長)

※ ※ ※

 なお、このANA向けの「JA383A」は、ANAのA380最終機というだけでなく、トゥールーズから引き渡される“最後のA380”となります。同型機は実質的に生産終了となっており、エミレーツ航空向けの2機が残っているものの、こちらはドイツのハンブルク工場からの引き渡しです。今回の「フライングホヌ」3号機はANA、そしてエアバスにとっても特別な機体といえるでしょう。