テーブルがせいろや皿で賑やかになっていくのが点心の楽しいところ | 食楽web

 こんにちは。羊肉を普及させる消費者団体・羊齧協会の主席を務める菊池一弘です。前もって言っておきますが、今回は“羊成分”が少なめの記事になります。

 少ないどころか、広東料理でしかも点心のお店の紹介。え、なんで? ですよね。しかしそれにはワケがあるのです。今回ご紹介するお店の名前は『宝味八萬(ほうみはちまん)』。手掛けるのは、神田や三軒茶屋など、各地に超本格的な中国料理店を展開する、あの『味坊』グループ。そう、中華好き、そして羊肉好きなら知らない人はいない味坊の新店舗が、この『宝味八萬』なのです。

 最初に計画を聞いた時「味坊さんは中国の東北料理の店だよね。なぜ広東料理?」と、少し心配になりましたが、実際行ってみて「これは味坊の集大成的な店かもしれないぞ」と感動した次第。今回はその驚きをまとめつつ、宝味八萬の魅力をお伝えし、華僑経営の料理店の未来もちょっと感じた話をします。

作れるものは全部自分たちで作る! だからこその旨さ

ちょっと中国のフードコートのような雰囲気の店内

 宝味八萬で点心を初めて食べて感じたのは「ああ、現地の味だ!」ということ。

 それもそのはず、このお店の料理を任されている点心師・何偉昌さんは点心の本場である広州市出身の広東人。経験豊かな点心師で、代々木にあった『CHINA GRILL XENLON』で約20年間、点心師として勤務するなど、まさにこの道一筋、筋金入りの点心師なのです。

 その点心は上品かつ丁寧。作り置きや冷凍は一切せず、その日の分はその日にお店で包むというのを徹底しているそう。そして、驚いたのが旬の野菜や、干し野菜、加工品、一部の調味料などを自ら作っていること。

こだわりがたっぷり詰まった手作り点心たち

 味坊では、5階建ての足立工場(工場と言っても全部手作りなので印象的には“工房”)を建て、広大な2カ所の畑で野菜も作り始めているんです。この姿勢、スゴくないですか? あまりにスゴすぎて、初めて聞いた時は「そこまでやるのか」と軽く引きました(笑)

 この『宝味八萬』だけでなく、味坊集団が手掛ける全店舗で、なるべく自分たちで作る食材を使っているそう。恐るべきこだわりぶりですね。

腸粉、広州叉焼、そして羊肉。必食メニューが盛りだくさん!

「鮮蝦仁腸紛(エビの腸紛)」800円。このつるんと食感がたまりません

 ベーシックな点心は何を食べてもハズレなしでしたが、その他のメニューもまた秀逸。数年前、SNS上で話題となった「腸粉」も3種類。腸紛とは米粉を溶いたものに浮き粉(小麦でん粉)などを加えて蒸し上げた料理で、つるんとした食感が特徴。この食感がクセになります。

 そして、厨房に大型の広東風の焼き物の窯があり、これで焼かれたチャーシュー系がまた美味しい。脂の甘さと肉のジューシーさが最高。そして白眉はこのソース。白ご飯にこの美しい肉片を並べて、甘じょっぱいソースと一緒にかっこみたい!

「広東叉焼」1000円。このソースがまた旨い。感動してシェフにレシピをお聞きしたところ「砂糖、塩、発酵豆腐、メイクイ酒、醤油、芝麻醤など」を配合して作っているそう

 さすが味坊! と思ったのが「羊スペアリブの広東風焼き物」。カリカリに焼き上げて中はジューシーに仕上げた羊肉のスペアリブ。しかも丸ごと焼いてるので、味わいが流れ出ずに閉じ込められています。そして、この羊にも叉焼ソースが…いやはや、たまりません。

「火考羊排」1300円。外側はパリパリ、中はジューシーでじわっと羊の旨みが広がる逸品

 今回はプレオープン中かつ緊急事態宣言中ということで、テイクアウトやお酒の提供はありませんでしたが、メニューには、宝味八萬特製晩柑サワー、羊香トマトハイ(スパイス入りトマトサワー)などのオリジナルカクテルや、自分で冷蔵庫から選んでくる自然派ワインなどがずらり。豊富なお酒とともに点心が楽しめます。

 また、テイクアウト専用の窓口もあるので、食べた帰りにお土産で点心を持ち帰ることもできるし、窓口でテイクアウトだけもOK。ちなみに、店の体制が整ったら朝7時からの営業となるそうで、朝のお粥など、朝食メニューにもかなり期待できます。代々木八幡近辺に住んでいる人や、近場で働いている人がうらやましい! 本当に心の底からそう思います。

 ワインといい、丁寧な仕事と言い、素材へのこだわりと言い、良い感じで現地系本格中華が代々木八幡にローカライズされてるお店です。

味坊はディープ中華の到達点だ

「皮蛋咸肉粥」680円

 以前、私は中国・北京に4年間暮らしたことがあります。そこで食べた本場の味を日本で求めてきましたが、この味坊グループを筆頭に、昨今は次から次へと華僑の人が新店をオープンし、東京にいながらにして中国のさまざまな地方の料理が食べられるようになりました。20年前はこんな熱い展開になると思ってもいませんでした。

 最近では、この「日本人の舌に忖度しない中国料理」のことを「ディープチャイナ」と呼ばれ始めていますが、ディープチャイナ系のお店は日本人のお客さんがまだまだ少ないのが実情。一部のマニアックな中国料理マニアしか来ない、というのが筆者の知り合いの華僑経営者たちの共通の悩みでもあります。

 しかし、味坊の各店舗は見ていると9割以上が日本人のお客さんです。今回の『宝味八萬』も、多くの地元客でにぎわっていました。味は超本格だけど、日本人のお客さんが多く、地元エリアの人気店として愛されている味坊の各店舗は、ディープチャイナの最先端を走っているなぁ、と感じました。

 とにもかくにも、『宝味八萬』はまず間違いのない名店。ビールと一緒にチャーシューを頬張るだけでも、幸せな気持ちになれますよ。

●SHOP INFO

店名:宝味八萬(ほうみはちまん)

住:東京都渋谷区渋谷区富ケ谷1丁目53-4リコービル1F
TEL:03-5761-6066
営:7:00~23:00(緊急事態宣言中は11時半~20時)
休:無休
交:代々木八幡・代々木公園駅から徒歩1分
Twitter:https://twitter.com/ajiboshudan

●著者プロフィール

菊池一弘
羊齧協会主席。羊肉を常食する岩手県遠野市出身の父の影響で羊料理に親しんで育つ。北京留学中に現地の味に触れ、その魅力に開眼して羊好きの消費者団体「羊齧協会」を結成。本業はイベントの開催・運営、アドバイザー業務など。四川フェスの運営団体・麻辣連盟の幹事長も兼務。監修書籍に「東京ラムストーリー」(実業之日本社)、「家庭で作るおいしい羊肉料理」(講談社)など