関連画像

写真拡大

「狭い」といわれる東京都内の家事情ですが、道路幅も狭いところが珍しくありません。住宅の駐車場から車を出せるギリギリの幅というところもあります。

ヒロアキさん(30代)もそんな自宅を都内に構える一人です。自宅前の道路は歩道もない狭い道ですが、慣れた手つきでハンドルを操り、マイカーを車庫に入れています。ところが、最近、道路を挟んだ向かいの住人Aさんのことで頭を悩ませています。

「家の前の道路端に植木鉢やプランターをズラリと並べているんです。道路端とはいえ、そんなところに物を置かれると、車庫入れの際に困るんですよ」

鉢やプランターが置かれている分狭くなるため、車庫入れが難しくなるようです。一時的に動かして対処することも不可能ではなさそうですが、ヒロアキさんは「勝手に動かして文句言われてもイヤだから」と近所トラブルへの発展を懸念しています。

「自宅の目の前とはいえ、道路端は『自宅の敷地外』なのだから鉢などを置いてはいけないのではないでしょうか。そんなところで育つのはトラブルの種だけです」

今のところは細心の注意を払ってなんとか車庫入れをしていますが、車に傷がつくなどの被害がでる前になんとか対処したいとヒロアキさんは考えています。何か良い方法はあるのでしょうか。瀬戸仲男弁護士に聞きました。

●話し合いで解決できればベストだが…

――トラブルは避けたいようですが、何か良い方法はありますか。

ヒロアキさんがとりうる手段について、事前(被害発生前)と事後(被害発生後)に分けて考えてみましょう。

ヒロアキさんの目標は「植木鉢・プランターがない状態に戻す」ことですが、注意すべき前提として、植木鉢やプランターを撤去・処分する権限は所有者であろうAさんに帰属していますので、ヒロアキさんが勝手に撤去・処分できないことが挙げられます。

そこでまずは、Aさんに対して、実情を話して、自発的に撤去・処分するよう申し入れるという方法が考えられます。協議の結果、Aさんが撤去・処分してくれれば、円満解決ですね。

――申し入れに応じてもらえない場合はどうでしょうか。

Aさんが協力してくれなければ、次にAさんに対してプレッシャー(不利益発生の可能性の警告)を与えて、ヒロアキさんの要求を受け入れる方法を検討することになります。

一般に、人が他人に対して警告を発する場合は、3つのパターン(類型)があり得ます。

(1)民事上の不利益発生の可能性、(2)刑事上の不利益発生の可能性、(3)行政上の不利益発生の可能性です。

(1)「民事上の不利益発生」とは、損害賠償義務の発生のことですが、これは「事後」の手段ですので、後で述べます。

(2)「刑事上の不利益発生」としては、交通の安全を妨げた場合、刑法が定める「往来を妨害する罪」が問題となる場合があります。

もっとも、刑法に規定されている犯罪は、交通の安全を害する犯罪のうち特に重大なものに限られており、今回のケースのように軽微な場合には適用がないと考えられます。

軽微な場合における交通の安全等の保全のためには、道路交通法、鉄道営業法、船舶安全法などの特別法が多数存在しており、これら法律のなかで交通の安全を害する犯罪の罰則規定も存在しています。

罰則規定に該当すると考えられる場合は、警察署の犯罪被害相談窓口に相談してみる方法もありますので、検討してみましょう。

●交通法規違反の可能性だけでなく、条例違反の場合も

――道路端に置かれた植木鉢やプランターが問題となっています。道路に関するルールに抵触する可能性はありますか。

まず、道交法76条3項は「何人も、交通の妨害となるような方法で物件をみだりに道路に置いてはならない」という「禁止規定」を定めています。今回のケースの場合、この条項に該当する可能性があります。

この禁止規定に違反した場合については、罰則(3月以下の懲役または5万円以下の罰金)が定められています(道交法119条)。

――もし、道路がいわゆる「私道」だった場合はどうなのでしょうか。

道交法における「道路」とは、交通の安全を守る目的に合致するすべての場所をいいますので、「公道」だけでなく「私道」も道交法上の「道路」に当たります(道交法2条1項1号)。したがって、仮に私道であっても、道交法の禁止規定の適用はあると考えられます。

――道交法以外のルールはどうでしょうか。

「道路法」という法律でも、「みだりに道路に土石、竹木等の物件をたい積し、その他道路の構造又は交通に支障を及ぼす虞のある行為をすること」が禁止されています(道路法43条2号)。違反した場合の罰則(1年以下の懲役または50万円以下の罰金)もあります(道路法102条3号)。

さらに、自治体によって「路上障害物による通行の障害の防止に関する条例」が定められていることがあります。一例として、「東京都新宿区」の条例をみてみましょう。

この条例は、路上障害物による通行の障害を防止するために、区長及び区民等の責務を明らかにし、区民等が公共の場所を快適に通行することができるようにすることを目的としています(1条)。「公共の場所」についての条例ですので「公道」に限られます(2条1号)。

この目的の達成のため、区民や事業者(店舗等)は路上等に障害物となる看板や商品陳列台などの物件を設置し、または放置することが禁止されています(4条)。

違反している者に対しては、区長は、「指導」「勧告」「除去・一時保管」という三段階の措置をとることができます(5〜7条)。

――路上に物を置く行為については、複数の法令で規制されているのですね。

以上のように、Aさんに対してプレッシャーを与える方法として、道交法違反による罰則、道路法違反による罰則、条例による指導・勧告・除去等がある旨を伝えることが考えられます。ヒロアキさんとしては、条例が適用される地域の問題であれば、役所の担当課に相談するのが良いでしょう。

なお、本件では、Aさんは自宅の前に植木鉢等を置いているだけであり、商売用の看板や商品陳列台などを置いているわけではないので、(3)「行政上の不利益発生」(行政指導、免許取り消し、登録抹消等の不利益)の問題ではないものと思われます。

●事前警告等をしておけば、事後の責任追及でも有利に

――被害が発生してしまった場合の責任についてはどうでしょうか。

前述の(1)「民事上の不利益発生」で少し触れましたが、損害賠償請求の問題です。

損害賠償の要件は「違法行為、責任、損害発生、因果関係」の4点です。本件では「違法行為」と「責任」の2点がポイントになるでしょう。

「違法行為」は客観的な面の問題です。客観的な面の証拠として、加害者側の違法行為の証拠だけでなく、被害者側の被害の証拠も確保しておきましょう。その際は、写真や動画で日付がわかるように撮っておくなどの工夫も重要です。

「責任」は主観的な面の問題で、要するに「故意または過失」ということです。主観的な問題ですが、客観的事実をもとに判断されます。

被害者側がこの主観的な問題点を明確にするためには、加害者側が状況(加害者自身の置いた植木鉢が道路通行の妨げになっていること)を認識していることを立証する必要があります。具体的な方法としては、Aさんに対して、前述の事前の方法(法令違反である旨の警告など)を実行しておくことが肝要です。

また、たとえば、条例による区長からの指導・勧告があれば、当然にAさんは状況把握しており、それにもかかわらず放置したことは「故意」(少なくとも「過失」)による行為であると客観的に認定され、それにより、主観的な責任が存在すると判断されます。

【取材協力弁護士】
瀬戸 仲男(せと・なかお)弁護士
アルティ法律事務所代表弁護士。大学卒業後、不動産会社営業勤務。弁護士に転身後、不動産・建築・相続その他様々な案件に精力的に取り組む。我が日本国の歴史・伝統・文化をこよなく愛する下町生まれの江戸っ子。事務所URL(スマホ用):https://www.artylaw.net
事務所名:アルティ法律事務所
事務所URL:http://www.arty-law.com/