「2年増減なしのエリアも」日経新聞にみえる不思議な「部数ロック」の現実、押し紙の影響か
新聞の部数減が止まらない。2010年には約5000万部あったのが、2020年には約3500万部になった。特にここ3年で約700万部減少するなど、ペースが加速している(数値は日本新聞協会より)。
しかし、そんな状況でも年単位で部数が1部たりとも減らない地域が複数あると聞いたら驚くだろうか。
このほど筆者は、日本経済新聞を対象として、大都市圏(東京都、愛知県、大阪府、福岡県)の2016年4月から2020年10月までの部数変動を解析した。
調査の結果、この新聞離れの時代でも、長期間にわたって部数が変わらない「部数ロック」が起きていることが分かった。新聞社側がノルマとして強制している「押し紙」の可能性がある。(ジャーナリスト・黒薮哲哉)
●「部数減らしてもらえない」と話す販売店も
「搬入部数を減らすように本社と交渉しても、応じてくれません。わたしもそろそろ抗議せざるを得なくなっています」
関西で日経新聞を配達している販売店の店主が言う。朝日新聞専売店(ASA)の店主であるが、委託されて日経新聞も配達している。少しでも配達部数を増やすために引き受けたのだが、実配部数(購読者数)を超えた部数が送られてくるので、対策に難儀しているという。
筆者のもとには、日経新聞を扱う他の販売店からも同じような情報提供が寄せられている。2017年の年末には、日経新聞の販売店主が東京・大手町の日経本社ビルで焼身自殺する事件も起きた。当時、日経販売店に対する同情の声があがった。
日本ABC協会が公表している日経新聞の部数は、2010年の上半期は約303万部だった。それが2020年の上半期に約213万部にまで減った。それでも、このような声が聞こえてくるのだ。
●東京都のロック調査、23区でも多摩地区でも
各地域で部数はどう推移しているのか。筆者は今回、半年ごとに公表される4月と10月の市区町村別のABC部数を調査。その結果、頻繁に「部数ロック」と見られる現象が発生していることが分かった。
東京都大田区の例で紹介しよう。ABC部数のデータを、日経新聞だけにしぼって時系列に並べてみると、長期に渡って部数の増減がないケースがまま確認できる。次の例では、部数に増減があった箇所に「・・・・」を表示した。
【東京都大田区】
2016年04月:26,465
2016年10月:26,465
2017年04月:26,465
2017年10月:26,465
・・・・
2018年04月:23,668
2018年10月:23,668
・・・・
2019年04月:23,020
・・・・
2019年10月:22,487
・・・・
2020年04月:19,897
2020年10月:19,897
ここから分かるように、16年4月から17年10月の2年間、大田区における日経新聞の部数は、一部も増減していない。その後も、1年間同じ部数になっている期間が2回ある。
下一桁まで変わらないというのは不自然で、この部数の中には、実際には配達されない「残紙」が相当数含まれている可能性が高い。
独禁法の新聞特殊指定は、「販売業者に自己の指示する部数を注文させ、当該部数の新聞を供給すること」を禁止しており、仮に新聞社側が部数を固定しているとしたら、大きな問題である。
あるいは、新聞販売店が折込広告の収入を増やすために、読者数よりも多い新聞を発注するケースもまれにあるが、いずれにせよ、実態を超えた過剰な部数が発注されているとすれば、広告主が被害を受ける構図と言える。
この要領で、東京都全域における日経新聞の部数の推移を見ると、直近5年間で全51地区のうち、42地区で1年以上の「部数ロック」が確認できた。部数が少ない地域ならともかく、これだけ多くの地域で増減がないのは不自然で、実際の読者数とは乖離があるとみられる。このうち4期(2年)に及ぶロックは、のべ11件ある。3期(1.5年)に及ぶロックは、のべ16件あった。
●愛知県の調査、名古屋市全域で1年に渡りロック
以下同様にして、他の地域も見ていこう。愛知県でも「部数ロック」が確認できる。名古屋市東区のケースを紹介しよう。5年間に3度のロックが行われている。
【名古屋市東区】
2016年04月:3,699
2016年10月:3,699
2017年04月:3,699
・・・・
2017年10月:3,649
・・・・
2018年04月:3,324
2018年10月:3,324
・・・・
2019年04月:3,277
・・・・
2019年10月:3,157
・・・・
2020年04月:3,012
2020年10月:3,012
愛知県で、1年以上の「部数ロック」が確認できる地区は、60地区のうち、39地区に及ぶ。このうち4期(2年)に及ぶロックが、のべ7件。3期(1.5)に及ぶロックが、のべ20件あった。
●大阪府の調査、堺市全域の購読者の増減はゼロ?
大阪府の調査のうち、大都市である堺市全域のケースを紹介しよう。
【堺市】
2016年04月:17,898
2016年10月:17,898
2017年04月:17,898
2017年10月:17,898
・・・・
2018年04月:15,018
2018年10月:14,740
2019年04月:14,565
2019年10月:14,290
2020年04月:13,495
2020年10月:13,245
16年4月から17年10月までの2年間がロックの状態になっている。堺市のような広域で、日経新聞の購読者数が2年間にわたりまったく増減していないのは不自然だ。販売店にノルマが課せられていた可能性が高い。18年4月からは、正常になっている。
大阪府で、1年以上の「部数ロック」が確認できる地区は、全67地区のうち55地区に及ぶ。このうち6期(3年)に及ぶロックが2件確認できた。このほか、4期(2年)に及ぶロックは、のべ28件、3期(1.5年)に及ぶロックは、のべ20件ある。
●福岡県の調査、2年半にわたるロックも
福岡県の調査からは、福岡市南区のケースを紹介しよう。
【福岡市南区】
2016年04月:4,790
2016年10月:4,790
2017年04月:4,790
2017年10月:4,790
2018年04月:4,790
・・・・
2018年10月:4,800
・・・・
2019年04月:4,767
2019年10月:4,767
・・・・
2020年04月:4,609
2020年10月:4,609
福岡県で1年以上の「部数ロック」が確認できる地区は、全53地区のうち、41地区に及ぶ。このうち5期(2年半)に及ぶものが3件あった。このほか、4期(2年)に及ぶロックは、のべ14件ある。3期(1.5年)に及ぶロックは、のべ10件ある。
●日経新聞と日本ABC協会の見解
筆者は、調査結果を日経新聞とABC協会に送付して、なぜ長期間にわたって多くの地域で部数の増減がないのか、見解を問うた。質問と回答は次の通りである。
●日本ABC協会の見解
【質問】
(1)なぜこのような現象が起きているのか?
(2)日経新聞の販売店に対して公査を実施しているのか?
【回答】 (1)ABCの新聞部数は、発行社が規定に則り、それぞれのルートを通じて販売した部数報告を公開するものです。この部数については、2年に1度新聞発行社を訪問し、間違いがないかを確認しています。さらに、その補足としてサンプルで選んだ販売店の調査も行っています。
当協会は部数の確認・認証が主な業務のため、お問い合わせの現象に関して、お答えする立場ではございません。
(2)日本経済新聞社に対しては、販売店調査を実施しています。なお、調査対象店および結果は、秘密保持が原則となっており公表しておりません。
●日本経済新聞社の見解
日経新聞に対しても7月20日、長期間部数が変わらないのは不自然ではないかと尋ねたが、調査に時間を要すとして、期日の26日までに回答はなかった。
28日にいつまでなら回答できるかを尋ねたところ、同日中に「個別の取引についてはお答えしておりません」との回答があった。