「日本よりもヤバい」韓国人が身の丈に合わない借金を増やし続けている本当の理由
■家計債務残高が103.8%という異常値
韓国で家計の債務残高が増加し続けている。国際決済銀行(BIS)のデータによると、2020年9月末に韓国のGDPに対する家計債務残高は100%を上回り、昨年末の水準は103.8%だ。2020年末時点で世界経済全体のGDPに対する家計債務残高は70.5%だった。わが国は65.3%、米国は79.5%と比べても、その水準が高いことが分かる。
韓国の家計債務増加の背景には、複数の要因がある。その中でも重要と考えられることが、債務に対する家計心理だ。具体的には、借り入れに対する過剰な楽観、借り入れに頼った生活を当然と思う心の慣性の法則が挙げられる。その結果、過去の景気循環のスピード、金利環境などをもとに、借り入れが増えても大丈夫との心理が高まり、家計債務が増加しているように見える。
後の展開として、足許の韓国経済は回復を維持しており、今すぐに家計部門で不良債権が増加するリスクは低い。ただし、実施の可否は別にして、韓国銀行が年内利上げの可能性を示唆していることや、中国経済の減速懸念などは、潜在的なリスク要因だ。長めの目線で考えると、韓国の家計債務のリスクは徐々に高まる可能性がある。
■約60年間、右肩上がりで家計の借金が増えている
韓国の家計債務には大きな特徴がある。それは、BISがデータを掲載している1960年代から2020年末まで、多少の変動はあるものの、対GDP比で見た家計の債務残高の水準がほぼ一貫して上昇していることだ。イメージとしては、右肩上がりで家計の借金が増えている状況を思い浮べるとよいだろう。
その状況は、世界各国の家計債務の推移と異なる。中長期的に見ると、景気循環とともにGDP対比でみた家計の債務残高は増減する。さらに長い時間軸で見ると、経済の規模が拡大するとともに、家計の債務残高は増加傾向をたどる。韓国の家計債務残高の推移を見ると、うねりが小さい。
アジア通貨危機の震源地となったタイの家計債務の推移を確認すると、韓国との違いがはっきりする。1990年代に入り、中国をはじめとするアジア新興国経済の工業化の進展とともにタイ経済は成長し、家計の債務も増えた。1997年7月にアジア通貨危機が発生するとタイ経済は大きく混乱し、不良債権が増えた。
その処理を経てタイ経済は持ち直すことになるが、その過程の中で家計のバランスシート調整が進み、債務残高は減少した。1991年末時点でGDP対比25.4%だったタイの家計債務残高は、1997年末に53.4%に上昇した後、2001年6月末には39.0%まで減少した。
■リーマンショックでも米国とは違う動きを見せた
1997年末時点で同49.9%だった韓国の家計債務残高は、1999年末に45.1%に減少した後、増加に転じた。2001年6月末の水準は51.2%だ。韓国もアジア通貨危機によって大きな打撃を被った。しかし、家計債務の状況はタイと大きく異なる。
もう一つのケースとして、リーマンショック前後の米国と韓国の家計債務の状況を比較する。2008年3月末時点で米国の家計債務残高はGDP対比98.6%に増加した。同年9月にリーマンショックが発生した後、米国の家計部門ではバランスシート調整と不良債権処理が進み、2014年6月末には80.9%にまで低下した。その一方で、2008年3月末から2014年6月末まで、韓国家計債務残高はGDP比で69.5%から78.1%に上昇した。その後も韓国の家計債務は増加している。
■アジア通貨危機で進んだクレジットカードの普及
アジア通貨危機の発生後、韓国の金大中政権は国際通貨基金(IMF)からのコンディショナリティ(経済支援の条件として課される条件)に取り組みつつ、国内では経営に行き詰まった財閥系企業の処理や構造改革を進めた。その一方で、韓国政府は国内での消費活性化のためにクレジットカードの普及促進に取り組み、消費者に300万ウォン(約30万円)を上限に年間カード利用額の20%を所得から控除できるようにした。それには、自営業者の脱税防止の目的もあった。
その結果、韓国では急速にクレジットカードの利用が増加し、ノンバンクから家計への信用供与が進んだ。見方を変えれば、アジア通貨危機後の韓国政府は財閥系の大手企業の再編や金融システムの健全化を進めた一方、家計には大きな痛みが生じないようにした。その中で、韓国の大手銀行は相対的に信用リスクが低い大手企業への与信供与を重視し、ノンバンクは利幅の厚い個人や家計向けのビジネスを重視した。
■借り入れしやすい心理が家計の債務残高を膨らませている
また、アジア通貨危機後の韓国経済は半導体や薄型テレビなどの大量生産体制を確立することによって早期の回復を遂げた。それは、韓国の社会心理に、景気が悪化しても何とかなるという見方を与えただろう。
それに加えて、アジア通貨危機以降の世界経済では、過去に比べ物価と金利が上昇しづらい状況が続いた(グレートモデレーション)。金利が上がりづらい状況が続くと、借り入れに対する抵抗感、不安は低下する。
以上を総合的に考えると、アジア通貨危機後の韓国ではクレジットカードの利用増加によって借り入れに対する抵抗感が下がった。その上に、輸出主導での迅速な景気回復と、世界的な低金利環境の継続が重なるようにして、人々が借り入れへの抵抗感を弱め、先行きへの楽観が広がる中で、借り入れを増やしつつ生活することを当然視する心理が高まったといえる。
その一方で、ノンバンクは利ざやの確保を狙って個人向けの信用供与を重視し、家計の債務残高がGDP規模を上回るまでに膨らんだ。
■「借金が収入を上回る状況」に歯止めはかかるか
韓国金融委員会の発表によれば、2021年5月の家計の債務延滞率(元利金の支払いが1カ月以上遅れた債務の割合)は0.20%だ。2016年以降、家計の延滞率はおおむね0.2〜0.3%で推移している。今すぐに家計の返済能力への懸念が高まり、不良債権が増加する状況ではないだろう。
今後、韓国の家計債務は増加する可能性がある。そう考える一つの要因として、フィンテックが借り入れをより身近にしているからだ。例えば、カカオバンクは、株式口座の開設申請サービスや、ノンバンクとの連携による貸し出しサービスの強化によって成長してきた。株式投資などのために借り入れを行う人の存在を考えると、韓国家計にとってフィンテックは借り入れのサポート手段と化している側面があるようだ。不動産の取得や生活などのために借り入れを重視する個人も多いと聞く。
しかし、家計の債務残高がGDP規模を上回っているということは、借金が収入を上回っていることにほかならない。その状況は持続可能ではない。いずれ、韓国の家計はバランスシート調整を迫られるだろう。その要因として、短期的には韓国銀行の利上げや米国のFRBによる資産買い入れの段階的縮小(テーパリング)の可能性がある。現時点で、多くの市場参加者は早ければ年末、あるいは来年の初めにFRBがテーパリングを開始すると考えている。
■韓国経済の苦難はしばらく続く
ただし、それよりも早い時期にテーパリングが実施される展開は否定できない。それが現実のものとなれば、世界的に金利は上昇し、韓国家計と金融機関の資金繰りは圧迫される恐れがある。また、仮想通貨の取引や、アルケゴス問題に端を発するシャドーバンキングへの規制強化は株価を下落させるだろう。それに加えて、韓国では不動産価格も高騰している。
資産価格がいつまでも上昇し続けることはない。金利上昇、規制強化、あるいは一部投資家の利益確定の売り圧力などに押されて資産価格が下落すれば、韓国の家計がレバレッジを利かせて消費や投資を続けることは困難になるだろう。
そうした状況がいつ発生するかは予見が難しいが、現状の家計債務の状況は持続可能ではない。韓国経済にとって家計債務問題は中長期的な懸念材料といえる。
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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。
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(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫)