シニア世代とテクノロジーの習熟について考えてみた!

みなさんのご両親や祖父母、あるいはご本人がシニア世代であるという方々の中で、現在スマートフォン(スマホ)を利用していない人がどれだけいらっしゃるでしょうか。

モバイル社会研究所が2020年1月に行った「一般向けモバイル動向調査」によると、60代のスマホ利用率は約7割、70代のスマホ利用率も約5割に達したそうです。調査から1年以上が経った現在、恐らくその数字はさらに伸びていることでしょう。

iPhoneの日本発売から約13年。スマホがブームとなってからも10年近くが経ちます。5〜6年前までは「シニア世代にスマホは難しい」、「ガラケー需要は当分続く」などと言われていましたが、シニア世代の順応力は想像以上に高かったようです。

シニア世代にスマホが急速に浸透していった理由や、シニア世代がスマホに馴染めないとされた理由は一体何でしょうか。感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する連載コラム「Arcaic Singularity」。今回はシニア世代とスマホの関係から、テクノロジーの習熟における重要な考え方などを考察します。


歳を取っても技術は習熟できるか


■シニア世代に浸透するスマホ利用
改めて上記調査を精査してみると、2018年から2019年あたりが大きなターニングポイントとなっていることが分かります。2018年には60代のスマホ利用率が携帯電話(フィーチャーフォン)の利用率を上回り、2019年には70代のスマホ利用率が携帯電話の利用率を上回りました。

その傾向は緩やかになりつつもほぼ変わらず、今後ますますスマホの利用率は上昇し、携帯電話の利用率は低下していくものと考えられます。

シニア世代が携帯電話からスマホに切り替えるきっかけとしては、「家族のすすめ」や「周囲にスマホを持っている人が増えた」という理由が上位となっているようです。LINEやTwitterといったSNSを誰もが使う時代となり、お互いの連絡手段として使わざるを得なくなったり、話題の輪に入るために必要に迫られたというのが大きいようです。

ただ、面白いのは「友人のすすめ」でスマホに切り替えたという人が非常に少ない点です。周囲にスマホを持っている人が増えたから、という理由が多いにもかかわらず、友人の勧めにはあまり心を動かされなかったという点は、「空気を読む」、「人に合わせる」といった日本人の風土的な特徴を感じます。


「なんとなく」でスマホに替えている人が1割程度いるのも少し面白い


シニア世代のスマホ移行で気になるのは、やはり操作面での苦労です。

同調査によると、60代では9割以上の人が、70代でも8割以上の人がスマホを便利だと感じている一方で、いずれの世代も6割以上の人が操作の難しさを訴えています。

過半数の人が「身の回りにないと困る」とも感じていることからも、生活必需品であることを理解しつつも使い方で苦労している様子が伺えます。


こういった反応は十分想定されるものだ


■「作法」を理解しないと操作は覚えられない
では、なぜシニア世代はスマホの操作を難しいと感じるのでしょうか。

確かに筆者も初めてiPhone 3Gに触れた時、その操作性の違いに大きく戸惑いましたが、ほんの数分触るだけで基本的な操作のほとんどを理解しました。当時の筆者は30代。この時点ですでに子供のような柔軟な学習能力があったとは自身でも思っていません。

ここで重要なのは、操作そのものを丸暗記することではなく、テクノロジーに対する基本的な知識と「作法の理解」であると考えます。


スマホの操作は簡単?難しい?


算数や数学に例えてみましょう。

どんなに高度な数式も、全ては小学校低学年までに学習する加減乗除によって成り立ちます。足し算や掛け算といった非常に基本的な計算ができるからこそ、後に微分や積分も理解できるようになります。

逆に言えば、基本となる足し算や掛け算ができないままでは、どんなに方程式の文字列を丸暗記しようと計算はできません。

スマホに限らず、道具の利用も全く同じであると筆者は考えます。例えば、PCやスマートフォンには以下のような基本的な動作があります。

・画面上のアイコンをクリック(タップ)すると、そのアイコンが示すアプリが開く。もしくはファイルの一覧が開く(ディレクトリが展開される)
・下線が引かれた色の違う文字列は、他の情報を参照するリンクとなっている
・リンクをクリック(タップ)すると、その情報にジャンプする
・各アプリの操作にはサブメニューがあり、右クリックやホールド操作で呼び出せる
・サブメニューはクリック(ホールド)する場所によって内容が変わる

こういった基本的な動作を、シニア世代は知らない場合が多くあります。普段からPCに慣れ親しんできた私たちであれば、

「スマホではクリックの代わりにタップするんだな」
「右クリックはホールドで代用か」
「ページの遷移はボタンを押すのではなくスワイプ操作だ」
「アプリのマルチタスク操作はAppスイッチャーを呼び出して行うのか」

このようにすぐに理解できますが、基本的な動作を知らないために、その理解に到達しないのです。

そのため、「タップでアプリを使うんだよ」、「リンクを押すと別の画面に飛ぶよ」と教えても、その場では使ってみることができますが、すぐに忘れてしまうのです。

「何を、どうすると、どうなるのか」という動作の遷移をそれまでの経験から想像できないというのは、つまり「1と1を足すと2になる」という基本計算ができないまま二次方程式を解こうとしているようなものなのです。


あるアクションによって次に起こる変化(結果)を想像(推察)できないのでは、覚えられるわけがない


しかしこれは、シニア世代に限った話ではありません。スマホネイティブ世代の若者がPCの操作で戸惑うというときにも当てはまります。

例えばファイルやフォルダの概念はスマホでは隠されていることが多く、ディレクトリ操作としての理解が進んでいない場合があります。また、ローカルデータとオンラインデータの概念も正しく理解できていない場合は多々あります。そういったテクノロジーに対する基礎知識の有無が、理解や習熟の早さに直結しているのです。

詰まるところ、操作の基本や動作原理さえ抑えていれば、道具の使い方を覚えるのに年齢は関係ないと考えるところです。例えば高齢のピアニストなら、何歳になろうと初めて見る楽譜をスラスラと読んで弾くことができるでしょう。基本さえマスターしていれば、何歳になろうと応用は利くのです。

そしてそれは、テクノロジーの世界において非常に大きなウェイトを占めている考え方でもあります。このような基本的な操作や構造・概念のことを、筆者は「作法」と呼ぶのです。


作法さえ理解してしまえば、PCだろうとスマホだろうと何でも操作できる


■自分の将来のためにもテクノロジーの作法を勉強しよう
筆者の父は今年80歳になりますが、友人との連絡にLINEを使う必要に迫られ、数年前にスマホに替えました。

機種はNTTドコモのらくらくスマートフォンシリーズでしたが、最初はその操作を覚えるのに四苦八苦し、何度も「健、ちょっと教えてくれ」と呼び出されたのを思い出します。

そんなある日、LINEの使い方を何度教えても覚えない父に「パソコンでメールを書くのと同じだよ」と教えたところ、それまで頭を抱えていた父がすらすらとメッセージを打てるようになったことがありました。

つまり、父はスマホでのLINE操作とPCでのメール操作に共通する作法があることに気がついていなかったのです。PCではかつて一太郎や花子も使いこなしていた父だけに、一度作法に気がついたあとは、スマホの使い方で呼び出されることがほとんどなくなりました。


普段何も考えず当たり前に利用している世代にしてみれば、LINEのどこが難しいのかが理解できないだろう


この先、xRデバイスのような新機軸のテクノロジーが私たちの身の回りに数多く登場すると思いますが、それらも全て「作法」によって理解していくことが可能です。結局は「UI」という見た目や入力方法を替えているだけで、やっていることの基本は同じだからです。

自分が将来60歳や70歳になったとき、新しいテクノロジーを目の前にして頭を抱えずに済むためにも、その道具にだけ通用する使い方を丸暗記するのではなく、テクノロジーの根幹ある「共通する作法」はどういうものなのかを理解するように努めたいところです。


何歳になろうと道具は使いこなせる


記事執筆:秋吉 健


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