脳とコンピューターを接続して「考えただけでコンピューターを制御する」「思考で義肢を制御する」というシステムを開発するアメリカのブラウン大学が、2021年3月31日新たに「これまで患者がケーブルにつながれる必要があったシステムをワイヤレスにすることに成功した」と発表しました。これにより、患者が研究室に赴かなくても実験が行えるほか、有線ではできなかった新たな臨床試験も可能になるとみられています。

Home Use of a Percutaneous Wireless Intracortical Brain-Computer Interface by Individuals With Tetraplegia | IEEE Journals & Magazine | IEEE Xplore

https://ieeexplore.ieee.org/document/9390339/

Researchers demonstrate first human use of high-bandwidth wireless brain-computer interface | Brown University

https://www.brown.edu/news/2021-03-31/braingate-wireless



脳とコンピューターを接続するBrain computer interface(BCI)という技術は、近年注目される研究分野の1つ。脳とコンピューターが接続できれば、体が動かせない人でも文字を打って人と会話できたり、考えるだけで義肢を動かしたりが可能になり、障害を抱える多くの人の生活が激変する可能性があります。

アメリカのブラウン大学による新たな研究では、四肢がマヒした人々の脳とコンピュータをワイヤレスで接続することに成功したとのこと。臨床試験で脳と物理的なコンピューターのワイヤレス接続に成功したのは、これが始めてです。

ブラウン大学の研究チームはBrainGateと呼ばれる脳インプラントのプロジェクトを2002年にスタートしました。2012年には脳幹発作によって四肢がマヒした患者がロボットアームを操作に成功したとも発表されています。

新たな研究では、脊髄損傷で体がマヒした2人の患者に対して臨床試験が行われました。通常、BCIでは大がかりな装置に体を接続する必要があるのですが、新たな試みで必要とされたのは、患者の頭部に装着された直径約5センチ、重さ42グラムの送信機のみ。この送信機を装着した被験者が思考を行ったところ、脳神経の信号が外部のコンピューターに送信され、タブレット型コンピューターでクリックや入力が行われたことが確認されました。



これが実験に使われたブラウンワイヤレスデバイス(BWD)と呼ばれる送信機。バッテリー寿命は36時間で、200個の電極が毎秒48メガビットの脳信号を記録します。



研究を行ったジョン・シメラル氏は「私たちは、このワイヤレスシステムが、過去何年にもわたってBCIの標準だった有線システムと同じ働きをすることを示しました」「信号はこれまでのシステムと類似するため、ワイヤレス機器でもこれまでと同じデコードのアルゴリズムを使うことが可能です。違いは、『もう物理的に機器につながれなくてもよい』ということだけです。これはシステムの使い道の新たな扉を開きました」と述べています。

これまでも低帯域幅のワイヤレスデバイスは開発されていましたが、今回開発されたデバイスは皮質で記録された全てのスペクトルの信号を伝送するという点が画期的な点。新しいデバイスは有線BCIでは実施が難しい臨床試験も可能にすると考えられています。

なお、このデバイスは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行で都市封鎖が行われる状況の中にあっても被験者が研究室を訪れることなく、自宅でデバイスを使えるという点でも大きなメリットがあるとのことです。