700MHzの周波数転用を始めたソフトバンク、そのメリットは?(石野純也)
ソフトバンクが、2月15日に、4Gから5Gへの周波数転用を開始しました。今回転用されるのは、3.4GHz帯、1.7GHz帯、700MHz帯の3周波数帯。転用自体はKDDIもすでにスタートさせていましたが、3.5GHz帯のみ。3.5GHz帯は4Gの中でも比較的高い周波数のため、5G用に割り当てられたそれと大きくは変わりませんが、ソフトバンクはより低い周波数帯で5Gを始めたことになります。
転用された周波数を5Gとして受けるには、端末側の対応も必要になってきますが、同日の2月15日には、最初の1台としてソニーモバイル製「Xperia 5 II」のソフトウェアアップデートが開始されました。続く18日には、シャープ製のミドルレンジスマホ「AQUOS sense5G」がアップデートを実施。5Gローンチ時に発売された「AQUOS R5G」や「LG V60 ThinQ 5G」は3月以降、それ以外の端末は4月以降、順次アップデートによって、転用5Gを利用できるようになります。
ちなみに、iPhone 12シリーズは「順次対応予定」になっていますが、ソフトバンクの宮内謙社長は、決算説明会の場で、「iPhoneのソフトウェアアップデートをするのが3月末から4月ぐらい。そうすると、『おおっ』と言うほど、5Gがあちこちにある世界がやってくる」とコメントしています。宮内氏は、この発言の前に、「これ言っちゃっていいんだっけ?」と登壇者以外の関係者に確認していましたが、ゴーサインが出る前に話してしまった模様。少々わざとらしかったため、うっかりしゃべってしまったフリをして、意図的に情報を広めようとしていたのかもしれません。
転用された中で、もっともインパクトが大きいのは、700MHz帯です。700MHz帯のような低い周波数帯は、いわゆる「プラチナバンド」と呼ばれる帯域。電波がよく飛び、障害物を回り込んで屋内にも浸透しやすいことから、投資対効果が高い周波数帯としてこう呼ばれています。ザックリ言えば、少ない基地局で広いエリアをカバーできるようになるのが、700MHz帯のメリットです。これまではスポット的にしか電波が入らなかった5Gですが、転用開始を機に、当たり前のような存在になっていく可能性があります。
実際、ソフトバンクは今年度末の22年3月には、人口カバー率で90%を達成する予定。いかに急激に、5Gエリアが広がるかが分かるかが、この数値から分かるはずです。同じく、700MHz帯の5Gを春にスタートさせるKDDIも、22年3月時点での人口カバー率を90%としています。90%に至るまでには、あと1年強ありますが、徐々にアンテナピクトに5Gの文字を見かける機会が増えていくことは確かです。
ソフトバンクのエリアマップを見ても、それがうかがえます。以下は東京都内のエリアマップですが、「春以降」になっている薄ピンクの転用周波数帯で、かなり細かなところまでカバーができています。同じく15日から転用を開始する愛知県・名古屋市でも、中心部以外はほぼほぼ転用周波数でエリアを作っていることが分かります。この勢いでエリアを広げていけば、1年で人口カバー率を90%まで持っていくのは、不可能ではないでしょう。
一方で、5Gの周波数転用は、高速が売りの5Gなのにも関わらず、速度が4Gと変わらないという大きな矛盾をはらんでいます。4Gから5Gでは、無線の変調方式などは大きく変わらず、より高い周波数帯を使うことで、速度を向上させているからです。つまり、4Gと同じ周波数帯で帯域幅が変わらなければ、速度も4Gと同じになってしまうというわけです。ソフトバンクもこれを認めており、エリアマップにも「5G表示となりますが通信速度はSoftBank 4GまたはSoftBank 4G LTE同等になります」との注釈が加えられています。
4Gと速度が変わらないにも関わらず、5Gと表示してしまうのは、優良誤認にあたるおそれがある──こんな懸念をしたのは周波数転用に消極的なドコモです。「なんちゃって5G」によって、ユーザーが高速なエリアが広いように誤解してしまうのではないかと指摘した格好です。その結果として、エリアマップが周波数別に色分けされ、上記のような注釈が入ることになりました。
ただ、ユーザーが通信している際にわざわざエリアマップを見て周波数を確認するとは考えづらく、転用だろうがそうでなかろうが、アンテナピクトに5Gと表示されていれば、5Gエリアだと思ってしまう可能性は高いでしょう。そもそもとして、転用した周波数の速度が4G相当だという話も、一般のユーザーが知っているかと言えば、そうではありません。その意味では、ドコモのけん制は功を奏さなかったと言えそうです。
とはいえ、周波数の転用にまったく意味がないわけではなく、エリアを広げるプロモーション効果以外のメリットもあるようです。20年12月に、エリクソン・ジャパンのCTO、藤岡雅宣氏は、筆者の質問にこたえる形で、「ローバンド(低帯域)とミッドバンド(中帯域)、ハイバンド(高帯域)を組み合わせると、ミッドバンドやハイバンド自体のカバレッジが広くなる」と回答しています。
高い周波数帯だと制御信号が届かないギリギリのエリアに、低い周波数帯を入れることで、電波をつかむようになり、高い周波数帯自体のエリアを拡大する効果があるというのが技術的な仕組みです。また、周波数を5G化することで、「アプリを起動してからNR(5Gの電波)をつかむまでの時間が短くなり、全体の遅延が短くなる効果もある」(同)といいます。Sub-6やミリ波のような、超高速通信は期待できませんが、4Gのままにしておくより、5G化した方が全体としては周波数というリソースを有効活用できるというわけです。
ただ、その効果がユーザーの目に見えるようなものかというと、筆者は懐疑的でもあります。せっかく買った5G端末なので、アンテナピクトに5Gの文字が表示されるのはうれしいことは確かですが、過度な期待は禁物。ユーザーとしては、転用された周波数帯ではなく、5G用の新規周波数帯でエリアがどの程度広がったのかを、しっかり見ていく必要がありそうです。